※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2014年11月21日 Vol.011 <やってみないとわかんないよね号>より
先日ある出版社と打ち合わせが終わったあと、なぜかマイルドヤンキーの話になった。マイルドヤンキーとは、Wikipediaの記述を信じるならば、今年1月にマーケティングアナリスト・原田曜平氏が定義した概念というから、けっこう新しい言葉ではある。だが多くの人が納得できるのか、強く浸透した。
定義によれば、
・EXILEが好き
・地元から出たくない
・「絆」「家族」「仲間」という言葉が好き
・車(特にミニバン)が好き
・ショッピングモールが好き
と、なかなかイタいが、言われてみればあーあるあると、まあ勝手にあいつらそうなんじゃないかと思い当たる輩がいる。個人的に思い当たるのは、ドンキホーテにジャージで買い物に来る金髪子連れのカップルとかである。
僕が話としてよくわからないのは、それは元ヤンキーとどう違うのか、という点である。元ヤンでも今はスーツのサラリーマンという人もいないではないだろうが、まあいわゆるジモティをこじらせてそのまま、というパターンなのではないか。
マイルドヤンキーというニュアンスからは、見た目からのガッツリしたヤンキーではない感じも受ける。ガッツリしたヤンキーは、マイルドではないからだ。しかし車やアクセサリーなど嗜好品の傾向はあきらかに威圧的なものを好むため、それらを身につけていけばヤンキー感は出る。そもそも見た目で判断できなければ、集合としてのマイルドヤンキーを認識できない。やっぱり見た目も、多少ヤンキーなはずだ。
おそらく本物の、というか昔のヤンキーと違うのは、反社会的ではなく、地元に馴染んで溶け込んでいる、大人のバランスを身につけたヤンキー、ということになるのだろう。うちの地元のお祭りでは、普段どこにいるのかまったくわからないが、神輿を担いだりする金髪やスキンヘッドにヒゲの若い衆がいる。
マイルドヤンキーが不思議なのは、そもそも仲間意識が強ければ強いほど、排他的になるはずだ。つまり社会的にはマイノリティになるはずである。だが今、20代の若者からマイルドヤンキー層を抽出すると、30%ぐらいになるという。30%もの単一の傾向を持った集団は、もはやマイノリティではない。
マイルドヤンキーは、自分たちの仲間以外のマイルドヤンキーに遭遇した場合、相手をどう認識するのだろうか。出会っただけで同じ仲間だと認識するのであれば、「絆」もへったくれもない。おそらく仲良くはならないのだろう。つまり島宇宙的な空間を共有する集団が阿寒湖のマリモみたいにどわーっと存在するんだけど、横は何も繋がっていないような状況と言える。
実はこのような図式は、今の子供たちのクラス内の状況と酷似している。つまりマイルドヤンキー化は大人になって醸成されるのではなく、すでにその土壌は中高から存在する。
マーケティング的には、マイルドヤンキーが次世代の主要消費者層になる可能性を秘めているという。IT技術に弱く、SNSを利用して広く社会と接触したがらない層がほぼマイルドヤンキー層に含まれるのだとしたら、マーケティング的には非常に単純である。テレビなどのマスメディアでちょっと仕掛ければ、すぐに乗ってくれる。自動車保険の見直しと言えばすぐ見積もりとってくるし、100万人登録のゲームと言えばいそいそとダウンロードしてくれる。
それはある種の情報弱者層と、イコールなのではないだろうか。つまり日本人はほっとくと、デフォルトでマイルドヤンキー化するということである。
マイルドヤンキーの何が悪いのかと言われれば、イヤ別に悪くないですと言わざるを得ないが、なんだろうねこの失敗感。どこかで何かが起こってこうなったのではなく、これまで何も起こらなかった結果が産んでいる状況のように思えてしまうのだ。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2014年11月21日 Vol.011 <やってみないとわかんないよね号>目次
01 論壇(小寺)
Chromebook、子供用PCの可能性を探る
02 余談(西田)
「ランディングページ」から見える電子書籍への反省
03 対談(小寺)
アキバ発のベンチャーを仕掛けるDMM.make AKIBA(第3回)
04 過去記事アーカイブズ(小寺)
見えてきた「テレビ文化復活」のシナリオ
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
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