苦手を克服できる人
苦手を克服できる人はどういう人か? それは、メタ的な思考の持ち主だ。そして、自分自身を疑うことができる人だ。具体的にいうと、「苦手」とはそもそも何か?――ということを理解できる人だ。「苦手」というのは、実は怠けるために設けられた「心理的バイアス」に他ならないのである。
人間が何かを習得するためには、努力しなければならない。しかし、努力には膨大な手間と精神力とが要求される。人は、それをかけることの困難さに挫けそうになる。そうしてやがて、努力をしなくても済む理由を探し始める。「苦手」は、その心の隙間に入り込むのだ。怠けたいと思っている人に、格好の「言い訳」を与えるのである。
人間には、そもそも「苦手」はない。人間のDNAはほとんど同じだし、生活形態もそっくりだ。人は多様である以上に一様である。人間同士の違いと、人間と猿との違いを見比べれば、人間同士がどれだけ同じかよく分かるはずだ。くり返すが、人間にはそもそも「苦手」がない。あるのは、単に「習熟度の差」だけだ。どんな能力も、習熟すれば――言い換えるなら努力をすれば――身につくのである。
だから、苦手を克服するためには、まずは自分の苦手意識を疑うところから始める必要がある。自分が苦手とすることは、心理的バイアスがかかった結果に過ぎない。怠けるための言い訳に過ぎないのだ。まずは、そのことを認識することから始める。
次いで、それを克服できると信じる。信じるに足る理由はいくらでもある。どんな能力でも、それを身につけている人がいるはずだ。まずは、その能力に習熟している人を見て、なぜ彼がそれを習熟できたかを考えるのだ。例えば、バスケットボールのディフェンスが苦手な人は、それが上手い人のところへ行って、なぜ彼がディフェンスを習熟できたかについて考える。言い換えるなら「なぜ彼には『ディフェンスが苦手』という心理的バイアスがかからなかったか?」を考える。
するとそれは、驚くべきことにこんな理由である。「オフェンスが苦手だったから」
何かに得意という人は、これもやっぱり心理的バイアスの結果である場合がほとんどなのだ。バスケットボールで「オフェンスを苦手」と思ってしまった人は、「ディフェンス」が得意になる。その逆に、「ディフェンスが苦手」と思った人は「オフェンスが得意」になる。なぜかといえば、等価交換の心理が働いているからだ。「苦手意識」の逆の「得意意識」を持つことができ、努力を厭わなくなるのである。
だから、苦手を克服しようと思ったら、まずはその能力に「得意意識」を持つことだ。それが無理というのなら、その逆の能力に擬似的に「苦手意識」を持つのである。そうして、等価交換の心理を働かせ、その能力への得意意識を持つよう自己暗示をかけるのである。
次回は「努力する」ということについて述べる。
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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。


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