※名越康文メールマガジン「生きるための対話(dialogue)」号外 Vol.091(2015年01月05日)より
[Q1]ゲームをやりすぎるのは心によくない?
名越先生、こんにちは。いつも楽しく読ませていただいています。先生は、ゲームというものについて、どう考えておられますか? 私はゲームが好きで、新しいゲームを購入すると何時間でもプレーしてしまうし、空き時間があると、スマートフォンのゲームをやってしまいます。ただ、時折、「ゲームに費やしていた時間を他のこと(勉強など、実になること)に使ったほうがいいのではないか?」という思いにかられてしまうこともあります。(ただ、ゲームは好きなので、だからといって完全にやめてしまうのはためらわれますし、新しいゲームが出たらやってしまいそうです)
先生は以前、ツイッターか、ブログなどで、ゲームをされているということを書かれていたような気がします。世の中には、「ゲームをやりすぎると『ゲーム脳』になる」ということをおっしゃる方もいますが、先生は、ゲームについてはどのようにお考えでしょうか。
[A1]今日が最後の日だとして
「ゲーム脳」という表現に実態があるのかないのか、ということはさておいて、仮にそういう症状があるとしても、個人的には「ゲーム脳になったからといって何が悪いんだ」くらいに構えておかないといけないと思っております(もちろん、人に決してお勧めはしませんが)
もちろん、10歳以下の子供が寝ても覚めてもゲームばかりしていて食事もろくに取らない、というのは親の管理責任として問題は大いにあるでしょう。でも一方でそれは別にゲームに限ったことではないと思います。
あるいは、ゲーム機やパソコンなどの機器が発する光を長時間浴びることによって人間の心身に悪影響が生じるのでは、という見解もあります。そういったものが人間の心身にどのような影響を及ぼすかということについては必ずしも明らかになっていませんが、今後、「長時間ゲームをやると健康を損ねる」という研究結果が明らかになる、ということは十分に考えられます。
特に眠る前のあるいは中途覚醒した折にあびる画面光は完璧に脳を覚醒させてしまうために、とても身体には悪い、ということは言えるでしょうし、ゲームをプレーする人は、当然、こういった知見を踏まえておくべきでしょう。
ただ、だからといって、それが「ゲームをやりたくて仕方がない人」にゲームを控えさせる理由になるかというと、僕はそうは思わないのです。「身体にいい」と言われることばかりやって身体を弱くしてしまった人もいれば、若い頃にめちゃくちゃな不摂生をして病気になったけれど、それをきっかけに見違えるように節制するようになり、最終的には元気に長生きした、という人だっている。
「健康に悪いことをやらない」ということは、その人が充実した生を生きる上での十分条件ではありません。人間の内側にある「これだ!」という動機が満たされていれば、多少「健康に悪いこと」をやっていてもほとんど問題にならない、というのが現実なのです。
よって、僕はこんな問いを、ご自身に投げかけてみてはどうかと思います。
「明日、死ぬ。今日が人生最後の一日だというその一日に、自分はこのゲームをやるだろうか?」
もしそう問いかけてもなお、あなたがそのゲームを選んだとしたら、誰に後ろ指をさされることがあるでしょう? ゲーム脳になろうと、視力が落ちようと、まったく問題ないじゃないですか。
ただ、実はこれは理想論です。おそらくこの問いを差し向けられてもなお「私はこれをやる」というぐらい、強い必然性をもって日々を過ごしている人というのは、それほど多くはないはずです。
人間というのはほとんどの場合、本当の意味で自発的に行動することができていません。これはゲームに限ったことではない。仕事にしても、プライベートにしても、あなたが一日のうちでやっていることのうちどれくらいのことについて、「仮に今日が人生最後の一日だとしても、私はこれをやるよ」と言い切れるでしょうか? おそらく、ほとんどの人はゼロに近いと思うのです。
僕は思うんです。せめて、何日かに1回ぐらいは、「今日が人生最後の日」であっても必ずやると言い切れるような、必然的なことに取り組む日々を過ごしたい。もし、あなたにとってそれがゲームだというのであれば、それほど幸せなことはない、と思います。
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