やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「バレなければいい」という行為について

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人間誰しも弱いもので、物事がうまくいったとき有頂天となったあと、ブームが終わるかツキに見放されるか部下に裏切られるかして一気にうまくいかなくなる。そのときに人間としての真価が問われるのだと思うんですよ。

また、うまくいって、ここからさらに上積みを狙うぞという意欲的な人と、この辺が天井だと怖いからいろいろとリスクヘッジしておこうと考える慎重な人とでも、同じ事象がまったく異なる光景として見えているのだと思います。

利益をいっぱい出している大企業の不祥事も、これから上場しようという伸びやかな新興企業のトラブルも、どちらも共通しているのはトップの現状認識と将来への高揚感か不安感かという心理の問題が状況をややこしくするということです。つい最近まで、私が直面していた某大企業の件では、著名な経営者が個人的な交友関係の果てに彼に対する個人的な誠意を信じ込み、いろんなものを巻き込んで問題人物に大事なものを捧げようとしていました。

なぜ、それを信じてしまったのか、または、周囲が問題になぜ気づかなかったのか、あるいは、止めることができなかったのか、というのは、単純な書類整理や業務調査といった机の上でのコンプライアンスの問題ではなくて、人間の心に差す影の話です。悪い意味ではなく、人間誰しもが弱い存在であるからこそ、神のごとき超越的な存在を信じ、弱さを自覚して己を律し続けて初めて与えられし使命を認識して試練を乗り越え成果を発揮するのであります。

この弱さというのは、そのような試練について、乗り越えて達成したものが、たとえば金であったり、名声であったりすると、それを手にして慢心し、この世に生を授かった使命を忘れて堕落するからこそ、物事に隙が生じてトラブルに見舞われ、大事なものを失いかねない危機に直面するものなのでしょう。これは、大きくは大政治家や大企業経営者の、小さくは勉学や家庭や身の回りの事柄なのでしょうが、実際のところ、ことの大小はさほど関係ないと思うんですよ。物事の良し悪しは細部に宿るというよりは、その人がどのくらい平常な心で物事にきめ細かく対応しているのかという「人としての生きざま」の一形態だと言えるからだと考えております。

私自身も、歳はまだ微妙ながらそれなりにいろんな経験をさせていただいて得た乏しい知識から考えるに、結果として、筋の通らないことや誠実ではなかった物事で仮に課題を切り抜け、うまくいったのだとしても、今度はそのうまくいった筋の通らない不誠実な事柄に振り回され、やめるにやめられなくなるのもまた道理なのであります。不祥事で身を滅ぼすということそのものは因果応報と第三者からは切り捨てられて終わる一方、その過程で問題に気づき、当人なりに修正をかけたり、周囲にいる面々の協議や努力によって切り抜けられることも多々あると思うのです。

やはり、見ていて「これは問題だなあ」と思う事例は毎月10個近く知るわけですが、問題を定点観測し、推移を見物しているといろんなことが分かります。問題の周囲に人垣ができて、あれやこれやと議論をして是正をして問題の露顕を未然に防ぐ力を持つ組織に支えられている人と、本人が問題行為に固執して忠告してくれる人を遠ざけ周囲にいるのは悪しき人々で日々を享楽的に暮らして欲にまみれたまま、ある日突然穴に落ちる人と。

そして、そういう問題に気づかなかった人は、新聞記事なり雑誌なりブログなりで報じられてから問題を知り、ああでもないこうでもないと議論をするわけですけれども、忘れてはならないのはそれらの問題というのは必ず過去に起きており、何らかの原因があり、経緯があるということです。コンテクストは、とても大事です。その問題が発生したことそのものではなく、なぜそれが問題になったか、なぜ問題は解決されなかったのかを読み解くことで、ようやくトラブルシュートというのは可能になるわけです。

どこぞのアニメで、刑事が「人間が起こすトラブルというのは金か女」という話をしておりました。至言であろうと思います。実際そのとおりだからこそ、経緯を追っていくと必ずどちらか、または両方が浮上することになります。逆に言えば、人間の欲というのはそんなものだし、権力だ地位だ富だといっても、所詮は限られた時間の中で生まれ落ちたコンテクストで語り尽くせてしまうほどに、しょうもないものでしかないということが良く分かります。

自分もそれなりにお金は持っているほうではありますが、それにしても、いつも思うのは、そんなに金が欲しいのかね。あるいは、いい女が抱きたいのかね。その金や女が逆流して、権勢を失った後に詰まらない人生が待っていることぐらい、是非知って欲しいと思います。

いま、シンガポールや香港にお金を逃がした人同士が、凄い刺し合い、裏切り合いをしています。お金を持っていて、放蕩の限りを尽くして使い果たす人もいれば、持っているお金だけでは自分の名誉欲を満足させられずついつい日本に戻ってくる人もいます。ああ、彼らもその程度だったんだなあと思っちゃうんですけれども、逆に言うと、人間ってその程度の存在なんだってことですよ。神ほど偉いなんてことはなく、聖人だからといって成功するものではない。

その辺の間合いを読み間違えて、自分は凄いとか、偉いとか、うまくいったとか思い始めると人間は転落するのだ、というのが摂理なんじゃないでしょうかねえ。トラブルを見ていると、だいたいが人間の欲得や思い込みからスタートして、修正し切れなくて破裂するものばかりなので、人としての侘び寂びは大事だなあという思いを強くしたのでありました。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路

Vol.137<夕刊フジだけではない、駅売り紙媒体の落日と、デジタル広告も楽じゃないよなという話>
2015年8月27日発行号 目次
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【0. 序文】「バレなければいい」という行為について
【1. インシデント1】『夕刊フジ』廃刊騒動とメディアビジネスの混濁
【2. インシデント2】Flash広告が事実上の終了へ。Flash文化も静かに消えていくのでしょうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 

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yamamoto

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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