本田雅一
@rokuzouhonda

本田雅一メールマガジン「続・モバイル通信リターンズ」より

フリーランスで働くということ

※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「続・モバイル通信リターンズ」 Vol.024(2015年10月31日号)からの抜粋です。

「多様な働き方の推進」ということは各種メディアはもちろん、政策レベルでもしばしば議論になりますが、現実にはまだまだ「企業勤め」「サラリーマン」という働き方が主流。ではそもそも、企業に勤めずに働くとはどういうことを意味するのでしょう? IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースにフリーランスとして執筆活動を続けてきた本田雅一さんが、自身の体験を基に語る「フリーランスで働くということ」をお届けします!
 

 

それは1993年末のこと

僕が“フリーランス”で仕事をし始めた……すなわち、会社員などの何らかの組織に所属することを辞めたのは1993年末のことでした。あれから22年近くというと、ずいぶん遠いようですが、今でも勤め人だったころの自分を忘れることはありません。

……と、このように書き出し始めたのは、先日、札幌で国土交通省支援のテレワークイベントで講演をしてきたためです。このイベントの主催は、女性を中心としたフリーランサーのテレワークを推進し、結婚や育児で“場所”と“時間”に縛られて活用できていない優秀な女性が働ける環境をと20年近く活動をしてきた、Y's Stuff(ワイズスタッフ)の田澤由利さん。実は彼女は、僕がフリーランスで仕事を始めるきっかけとなった人物なのです。

会場にはフリーランスで働く人たちだけでなく、フリーランスと働く機会の多い企業管理職の人たちや地域経済の活性化などに取り組んでいる人たちも集まっていました。そこで僕に求められたのは「どうすればフリーランスで働けるのか」「どのようにすればフリーランスのスタイルで成功できるのか」というテーマでの講演でした。

しかし、いつもギリギリでその場を生きている自分に“成功”のメソッドなどありません。そもそも“成功”の定義を、お金をたくさん稼ぐことならば、今まで成功しようと考えてフリーランスの仕事をしてこなかったからですし、“働き方”を自分で考えたところで、相手に合わせてさまざまな仕事をサービスとして提供するフリーランスで、“成功の方程式”を見てその働き方を実践できるなんて人は稀でしょう。

“たったひとり”でやるだけに、どうしても相手次第でそのときになりに仕事をしなければならないことも多いものです。しかし、田澤さんに説得されて話をすると、なかなか興味深い反応と、興味深い人たちとの交流が生まれました。

 

“フリーランス”で働く意味、“フリーランス”との付き合い方

僕の講演テーマは「“自由なワークスタイル”で成功する秘訣 〜 なぜ“フリーランス”で働きたいのかをあらためて考える 〜」というものでした。講演タイトルというのは、自分で書くと照れくさいものです。

この講演で伝えたかったテーマは大きくは3つです。

・自己啓発書での成功者のメソッドを実践しても成功はしない。そもそも成功のメソッドは自分自身で探し、見つけるものであって、誰かに教えられるものではない
・自分自身が持っているパフォーマンスを最大限に引き出すために考えること
・“自分以外のひとたち”との関わりかた

……と、こうして見返してみると、自己啓発書のメソッドは参考にするなと書いているのに、ずいぶん自己啓発的です。とはいえ、僕が話したのは“メソッド”ではなく、視点の持ち方と考え方です。

簡単にそのときに話した内容を紹介しましょう。

 

“時代に合わせ、多様な業界へ戦略的に展開”は「していない」

ここ数年、僕がよく同じ業界の人たちや取引先の人たちに言われるのが「時代に合わせて適切なテーマを見つけていろいろな業界へ戦略的に展開していますね」という言葉です。あるいは、賢く立ち回っているように見えるのかもしれません。

僕が初めて文章を仕事として書いたのは、前述の田澤由利さんと共著する予定だった処女作でした。“予定だった”というのは、彼女が忙しくて全部ひとりで書くことになったからでした。当時はまだフリーランスではありませんでしたが、当時は“パソコン”のライターでした。

それもエンドユーザーが自作して組み立てる自作パソコンの本です。当時は自作ノウハウや各種パーツの性能評価などを行っていました。そこから派生して業界予想コラムなどを書き始め、さらに企業向けシステムが大型汎用機からパソコンにグッと近付いていった時代に、ネットワークや(PCサーバーを使った)企業システムの話、半導体業界などなどへと数珠つなぎにいろいろなテーマを取材していくようになりました。

その後、コンピューターは本格的に家庭の中に入っていき、パソコンが生み出したデジタルメディアのトレンドが、今度は家電のデジタル化を進めていきます。いつしかデジタル家電と家庭向けコンピューターのトレンドは一体化していき、インターネットサービスの成長、モバイルネットワークの高速化などを経てスマートフォンが生まれてきました。

その途中、ハイビジョン映像のパッケージ販売ではBlu-rayが誕生する背景に接しましたし、カメラ産業がデジタル化していくさまも、まさに目の前で目撃し、取材し、記事を書いてきました。その過程で接することがあったハイエンドのオーディオ&ビジュアル業界は、自分自身が興味を持ち趣味としてハマっていったこともあって、いつの間にか“評論家”いう立場になっていました。AV業界での評論家は、記事を書いたり評論コメントを寄せたりするだけでなく、実際の製品開発において音決めやトレンドづくりにも口を出せる、つくり手側に近い仕事もあります。近年はゲームデベロッパーや映画会社との付き合いから、コンテンツ事業者どうしをつなぐコンサルティングの仕事も、相手から求められるかたちで始めています。

自分でもどのぐらい広い範囲で仕事をしているのか、最近はよくわからなくなってきました。自分でそんな感じなので、外から見ていると“うまく行きそうなところを戦略的に探して仕事をしている”ように見えるのかもしれません。

しかし、ごく一部の“その人でなければならない”仕事をしている方々を除けば、フリーランスで仕事をするのに、そうそう都合よく時代に合った仕事を選んでいくなんてことはできないものです。ほとんどの仕事は自分ひとりだけでは完結できないため、フリーランスの仕事の多くは、稼ぎを出している企業に依存しているものです。

つまり、“戦略的に動く”という主体的な動きで世の中の流れを読み取り、稼いでいきたいのであれば、フリーランスで仕事をするよりも、何らからの企業、組織に属して、その中でイニシアチブを執る術を見つけるほうが得策だと思います。

では僕はどうしてきたかというと、ただ単にひたすら“好きなこと”をしてきただけでした。しかし、“好きなことをやる”ことが、実はフリーランスで仕事をするいちばんの意味であり、結果的に成功につながる鍵だったのだと後からふり返って感じました。

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本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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