本田雅一
@rokuzouhonda

本田雅一メールマガジン「続・モバイル通信リターンズ」より

フリーランスで働くということ

世の中の流れではなく、自分が好きなことを追いかける

そもそも、フリーランスで働く人は、どうしてフリーランサーになろうと思うのでしょうか。繰り返しになりますが、“稼ぎたい”のであれば、組織に属するか、あるいは自分自身で会社などの組織をつくって指揮を執るほうが、ずっと効率的です。どんなに頑張って仕事をしたところで、フリーランサーの自分は、自分がやった成果の分しか収入にならないのですから。

筆者の場合、フリーランサーになった理由は、現在は妻となっている、当時婚約中の女性が「つまらないんだったら、会社を辞めれば?」と言ったことがきっかけです。田澤氏と出会って本を書き、雑誌に記事を寄稿するようになっていた僕は、会社に所属しなくともなんとかやっていけそうな収入がありました。婚約中の彼女も「お金持ちじゃなくても、つまらなそうに仕事をしているより幸せそう」という、文字で書くと実に気恥ずかしい理由で僕の背中を押しました。

しかし、これは僕の性格とたまたま相性が良かったのでしょうが、フリーランスになると徹夜も厭わず、仕事漬けの毎日を暮らすようになります。しかも、肉体的にはともかく、精神的には実に快適に過ごしていました。

当時は平気で8時間ぶっ通しで取材をし、その後、16時間、原稿を書き続け、24時間働いた後に6時間ほど睡眠を取って、また仕事をするといったことを繰り返していましたが、仕事が辛いと感じたことは一度もありませんでした。

しかも、僕には“パソコンの専門家”という意識もありませんでした。多くの人は“パソコンの専門家”と思っているのですが、取材相手の本当に仕事で製品やサービスを開発していたり、その営業をしていたりする人たちのほうがずっとプロフェッショナルなのは当然です。だから、“自分は○○分野の専門ジャーナリストだから詳しい”と思ったことは一度もありませんでした。取材相手の考えや知識を理解して吸収して、それを噛み砕いて説明するほうがずっと有益なのは明らかですよね。

この“自分以外の誰かの考えや知識を知ること”が、僕にとっては何にも変えがたく“好きなこと”で、その次に好きなことが“いろいろな人の知識や考えを自分なりにまとめていき、自分自身の言葉で誰かに伝えること”だと、仕事をしていく中で気付きました。好きだからこそ、時間を忘れ、疲れを忘れることができたわけです。

もし、僕がサラリーマンをずっと続けていたならば、すなわちフリーランスとして自由に仕事を選ぶことができなければ、これほど没頭して仕事漬けになることはなかったでしょう。興味の赴くままに、おもしろそうだと思ったテーマをジャンル問わずに追いかけ、他人の言葉に耳を傾けていただけなのです。その結果、多様なジャンルにまたがって仕事をすることになったわけですが、一度も“自分の専門外”と感じたことはありません。そもそも、“専門枠”というボーダーラインを決めて仕事をするのであれば、フリーランスになる意味もないでしょうね。

しかし、僕の場合はジャンルという枠に囚われずに、その時々に好きなテーマを(経済的な収入を気にせず)渡り歩いた結果、多様なことに取り組むことになったわけです。あるジャンルで認めてもらっていても、別のジャンルでは新人扱いになるのがこの世界ですから、収入を気にして立ち回っていたら、仕事の幅を広げることはできなかったと思います。

自分自身のパフォーマンスを引き出すために、自由に好きな仕事だけに集中する。この当たり前のことを続けることができたことが、結果的に自分自身のパフォーマンスを引き上げて、それが収入につながってきました。結果を目標にしていたら、決してそうはなりませんし、一時的に達成できたとしても20年以上は続けられません。

 

自分にとっての“幸福の総量”とは

こうした一連の経験だけでなく、筆者の周りで会社員を辞めた人たちの姿を見て思うのは、多くの人が「何が幸せか」を自然に捉えた結果、フリーランスになっているのだな、というころです。

繰り返しますが、フリーランスで仕事をするようになると、多くの場合、収入は減ります。僕の場合、幸いなことにこれまで“頑張って営業する”ことなく、ふつうに暮らしてくることができましたが、これは極めて稀なケースだと思います。僕も安定的な暮らしを得るという意味で、リスクの多さを考えれば決して裕福というわけではありません。

しかし、それでも良かったと思えるのは、絶対的な収入や安定性だけが、幸福度の指標ではないからでしょう。僕の妻の言葉ではないですが、つまらない顔をしながら働いて、安定した収入を得るのと、自分の好きなことをして不安定でもなんとか生きていけるのでは、どちらが幸せなのか? ということです。

手に入れられる経済的価値(収入)も“幸せ”を形づくるひとつの要素ですが、自由な時間や好きなことに没頭する時間と、嫌いだけれども稼ぎのために使う必要のある時間。この比率が幸福度の総量を決める上で、もっとも大事だったのかもしれない。そう今から振り返ると感じます。

その比率や重視すべき要素は、本当に人それぞれで、経済的にもっと安定しなければ心が落ち着かないという人もいるでしょう。ただ、僕にとっては自由に好きな仕事をすることが、何よりも幸福を得るために重要だったということです。

 

“自分以外から学ぶ”こと

さて、このイベントで、決して経済的に大きな成果を得られやすいわけでもないのに、フリーランスで働いているのか? を自問自答しながら話をしたのですが、コミュニケーションが取りづらい自分以外の誰かとの関係を、どう折り合い付けていくかについて、講演後に質問されました。

簡単にその文脈を解説するなら「人間関係がめんどうだからフリーランスになったのに……」ということでしょうか。どうしようもなく嫌いな人との接触を、自分から絶てることも、フリーランスで働く利点と考える人もいるかもしれません。

しかし、僕はむしろ嫌いな人(多くは人間的にイヤというのではなく、仕事上の考え方が違うことが原因ではないでしょうか)からこそ、学びがあると思います。なぜなら……


この続きは本田雅一さんのメールマガジン「続・モバイル通信リターンズ」 Vol.024(2015年10月31日号)をご覧ください!

 

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IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。

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本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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