岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

『スターウォーズ』は映画として不完全だからこそ成功した

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『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を見てきた。結論からいうと、この映画はやっぱり多くの人が見た方がいいと思った。以下に、その理由を、なるべくネタバレしない形で書いてみたい。

今回、ぼくはこの映画を、「『スター・ウォーズ』シリーズを一度も見たことがない人」と一緒に見に行った。そして分かったのは、『スター・ウォーズ』シリーズを見たことがない人にとって、このエピソードⅦである『フォースの覚醒』は、「全く意味が分からない」ということであった。この映画には、シリーズを知っている人にしか分からない要素があまりに多いのだ。逆にいえば、初見の人への説明を大幅に省いている。

そう聞くと、一見良くないことのように思われるかもしれないが、ぼくは逆にそこがいいと思った。そこにこそ面白さがあると思ったのだ。

そもそも、この映画はあまりにも不完全である。新たなる三部作の第一作目という前提があるから、物語内で提示された問題がちっとも解決されない。謎は謎のまま放置してある。しかも、エンディングに「つづく」という文字すら出ない。だから、何も情報がない状態で見た人にとっては、何が何だか分からない作りになっているのだ。

しかしながら、そこで同時に「この裏には何かありそうだ」ということも分かる。登場人物が思わせぶりに過去の話をしていたり、あるいは登場していない人物を当たり前のように共有してたりすると、誰でも「ああ、この人たちは古くからのつきあいで、仲間にそういう人がいて、その人はこの人たちにとってとても大切な存在なのだな」ということは気づくのである。そして、その登場していない人物について、もっと知りたい、見てみたいと思うようになるのだ。

そういうふうに、『スター・ウォーズ』という映画は、かつてないほど「多くの説明を省くことに成功している作品」ということができるだろう。そこで多くを語らないで済んでいる。説明しなくて済んでいる。それが、結果的に物語としての価値を大きく高めているのだ。そこで、見る人に「想像することの楽しさ」を与えていることに成功している。それが、『スター・ウォーズ』という作品の面白さをさらに高める結果となっているのだ。

そもそも、この『フォースの覚醒』は、それまでのシリーズを見てきたぼくにとっても、あまりにも分からないことが多い。出自の不明な登場人物が多数登場し、そこで展開されるエピソードも何を指し示しているのか解読できない。それでも、ところどころ解読できるところがあるから、それは良くできたクロスワードパズルのように、虫食いで欠けているところを埋めてみたい欲望に駆られる。

だから、『スター・ウォーズ』は一人で見るには最も適していない映画といえるかもしれない。これは、多くの人と共有し、それについて話し合うことで、面白さが二倍三倍にふくらむのだ。

そのため、この映画を見た人は、親しい人にもこれを見るよう勧めたくなるだろう。そして、見た後にその感想を語り合いたくなる。
ぼくが「多くの人が見た方がいい」といった理由もそこにある。ぼく自身も、この映画をより多くの人に見てもらって、そこでさまざまな意見を聞きたい。そこで、欠けている虫食いの部分を、一緒に語り合いながら埋めていきたいのである。

もう一つ、ぼくがこの映画を見て強く感じたのは、制作者が『スター・ウォーズ』ファンとの「キャッチボール」を楽しんでいるということだ。制作者は、この映画を作るに当たって、ファンの要望というものをこれでもかというほどリサーチしたに違いない。そして、その要望のほとんど全てを、彼らの希望を大きく上回る形で実現させようとしているのだ。

アメリカで映画を見たことがある方ならご存じかと思うが、向こうでは映画は声を出しながら見るという文化がある。特に、面白いシーンや興奮するシーンなどは、口笛を吹いたり歓声を上げたり、立ち上がって拍手したりして楽しむ。だから、それしか知らないアメリカ人が日本の映画館に来ると、必ず面食らう。

面白いシーンほどみんなが黙っているので、「日本人にとってはつまらない」「スベっている」と勘違いしてしまうのだそうだ。

今回の作品も、もしこれがアメリカの映画館だったら、スタンディングオベーション間違いなしというシーンがそこここにちりばめられていた。特に、各キャラクターの登場の仕方が練りに練られているので、いやが上にも盛り上がる。

また、ぼく個人としては「神話」が好きなので、今度の作品は「どれほど神話的か」というのが気になっていた。そして、見てきた結果はというと、神話の中でも最も重要なテーマである、あるモチーフを用いていることが分かった。だから、ぼくはそれに興奮させられたし、そう来たかと膝を打った。その意味でも、この映画に対する満足度は、とても高かったのである。気の早い話だが、今から続編が楽しみだ。しかしまずは、その前に、この映画の感想を多くの人と語り合いたい。

 

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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