小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

低価格なウェアラブルモニター「Vufine」



VRクラスターの人間は、「あれが届いた」「これが届かない」と一喜一憂している最中なのだが、筆者の元には、待ち望んでいるアレとかアレより先にこの製品届いた。

・Vufine。単眼式のウェアラブルモニターで、メガネに取り付けて使う。

・Vifineをつけてみた。こんな風にモニターが目の前に来る。

この製品は、日本人の高坂吾郎氏がシリコンバレーで創業したハードウエアスタートアップ「Vufine」が開発したもの。昨年7月にKickstarterでのクラウドファンディングに成功、先日、一般販売もスタートした。価格は199ドルと、この種の製品としてはかなり安い。筆者はKickstarter組なので、149ドルで手に入れている。一般販売よりも先に手に入ったようなので、少しレビューしてみようと思う。

・Vufine公式サイト。こちらから購入もできる。
http://vufine.com

すでに述べたように、Vufineは「メガネにつけて使うウェアラブルモニター」だ。いわゆるHMDやGoogle Glassのような製品と異なり、GPSやモーションセンサーの類はない。とってもとってもシンプルな製品である。

・Vufine本体。手前の曲っている部分にモニターが入っている。

Vufineの中には、昨今のデジカメのビューファインダーで使われている有機ELを使ったディスプレイ(1280×720ドット)が組み込まれていて、そこにHMDI経由で映像を送る。本体にはmicroHDMIとmicroUSBのコネクターがあるが、後者は充電・給電用。内蔵バッテリーだけで90分動作するが、HDMIケーブルからの映像入力は必須。だから、ケーブルレスにはならない。

本体には磁石が内蔵されていて、メガネ側に固定用の器具をとりつけ、そこにくっつけて使う。磁石の力はけっこう強く、身動きした程度ではずれてこないが、走ったりするとちょっとずれたので、そもそも「完全固定」を目指したものではないのだろう。

・メガネにつけるホルダー。これ自身はゴムで止まっているだけ。セットには伊達メガネも付属するが、好きなメガネに取り付けることもできる。

他方で、この機器、見え方はかなりピーキーだ。元々ディズプレイとしてのスペックはそう悪いものではなく、スイートスポットに入れば、かなり映像は見やすい。サイズの問題から、さすがに文字を読むのは厳しいが、見えない、というほとでもない。

・映像を表示。色は若干不自然だが、けっこうクリアーな見え方だ。

・ウェブを表示。さすがに細部は見えない。しかし、大きな文字を映すなら、実用性もありそうだ。

この製品はおそらく、「映像をチラ見する」のに向いたものだ。本体も軽く、メガネにつけても邪魔にはならない。寝っころがりながら映像を楽しんたり、仕事しながらなにか映像をチェックしたりするのは悪くない。問題は、スイートスポットが狭いので、かけるたびに、自分でしっかり見えやすい位置に合わせる必要がある、というところだろう。磁石でつけていて調整しやすい、ということは、ずれる危険性もあるが、逆に調整が楽だ、ということでもある。

Google Glassなどは、デバイスを作り込んで「誰でも快適に使える」ことを目指していた。また、音声認識なども組み込み、「そのデバイスだけで価値を生む」よう努力していた。

それはどうやら失敗したようだ。コストをかけても、結局まだ「歩きながら使えるウェアラブルモニター」の決定版は出ていない。

どうせ難しいなら、高度な用途もスイートスポットの広さも文字の読みやすさも捨て、「安くて何にでも使えるものを作ってしまおう」、と思ったのが、Vifuneという製品の正体だ。言ってしまえば荒っぽい発想であり、製品として「皆に勧められるなにか」に欠けている。

とはいえ、冷静に考えると、こういうものも「アイデア商品」としてはアリなのだ。

PCやスマホ、カメラなど、HDMIにつながる機器ならなんでもいいなら、組み合わせ次第で「とりあえずすぐ試せる」良さもある。ある種の「モバイルディスプレイのテストベッド」としては、ここまで安くて品質もいいものは手に入らない。モバイル機器を外に持ち運んで「使い方をハック」したい人は、Vufineをひとつ買っておいてもいい。今はまだ、そういうレベルかと思う。それでも「稀有な製品」であることに違いはない。

いつか、この先に、もっと快適なものがあるかもしれない。だが、人間の視界に置くディスプレイとしては、網膜投射などの画期的技術がなければ普及は難しいな……とも思わせる。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年4月22日 Vol.078 <そなえよつねに号> 目次

01 論壇【小寺】
 テクノロジーで命を救う、EDACの取り組み
02 余談【西田】
 低価格なウェアラブルモニター「Vufine」
03 対談【西田】
 石野純也さんに聞く「変わり続ける日本のモバイルとMVNO」(2)
04 過去記事【小寺】
 SB vs au、iPhone戦争のゆくえ
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
ご購読・詳細はこちらから!

 
筆者:西田宗千佳
フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

その他の記事

テクノロジーの成熟がもたらす「あたらしいバランス」(高城剛)
わずか6ページの『アンパンマン』(津田大介)
思い込みと感情で政治は動く(やまもといちろう)
金は全人類を発狂させたすさまじい発明だった(内田樹&平川克美)
日本のエステサロンで知られるものとは異なる本当の「シロダーラ」(高城剛)
安倍政権「トランプ接待」外交大成功ゆえに、野党に期待したいこと(やまもといちろう)
「現在の体内の状況」が次々と可視化される時代(高城剛)
統計学は万能ではない–ユングが抱えた<臨床医>としての葛藤(鏡リュウジ)
教育経済学が死んだ日(やまもといちろう)
TikTok(ByteDance)やTencentなどからの共同研究提案はどこまでどうであるか(やまもといちろう)
想像もしていないようなことが環境の変化で起きてしまう世の中(本田雅一)
偉い人「7月末までに3,600万人高齢者全員に2回接種」厳命という悩み(やまもといちろう)
メディアの死、死とメディア(その3/全3回)(内田樹)
いつか著作権を廃止にしないといけない日がくる(紀里谷和明)
できるだけ若いうちに知っておいたほうがいい本当の「愛」の話(名越康文)

ページのトップへ