切通理作
@risaku

切通理作メールマガジン「映画の友よ」(はないゆい)

狂気と愛に包まれた映画『華魂 幻影』佐藤寿保監督インタビュー

華魂の恐怖を倍増させる迫真の演技

 
――大西信満さん演じる沢村貞一が、若い頃に書いた台本のタイトルに『銀幕の恋人』とありましたが、これは監督の過去の作品名から命題されたのですか?

佐藤 最初に撮った自主映画が『銀幕の恋人たち』(1978)というタイトルで、銀幕つまりスクリーンの女の子に恋しちゃうような映画だったんです。劇中劇の『激愛』も『激愛!ロリータ密猟』(原題:『狂った感覚』1985年デビュー作)から名付けた部分があります。実は「激愛」というのは造語なんです。当時の俺は激愛するようなタイプではなくて、「激愛ってなんだよ」っていう問いかけがあった。今回あえて『激愛』というタイトルをつけて青春映画から始めた。「青春映画もある部分、裏を返せば激愛だろ」という、かつて問いかけた答えがこのなかに含まれている。劇中劇の二人というのは、これもある部分、ひとつの愛の形、究極の愛の成就ではないかと。
 
――幼少期からビデオカメラを回していたり台本を書いていたり、沢村と佐藤監督ご自身との共通点はありますか?

佐藤 沢村はどちらかというと観察者。彼は中学時代に8mmでしか社会と立ち向かえなかった。それが日常だったんだけど、日常の中に非日常みたいな出来事が起こる。それがカメラを持ちファインダーを覗くことによって初めて社会と対峙できるような、そういったキャラクターという意味でいうと、ある意味、共通部分はあると思う。

今回の映画は沢村が、ストーリーの縦軸としてあり、その中でいろんな世界観が生まれるわけじゃないですか。トラウマなりそれぞれが抱えている問題が多々あって、映画の中でそれを全部表現するのは難しい。だからこの縦軸というのは重要な役で、大西信満さんの存在は非常に良かったと思いますね。
 
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写真:『華魂 幻影』映画を愛した男を演じる大西信満 ©華魂プロジェクト
 
――存在感がありますね。

佐藤 色気があるし、真面目だし、顔も若い時の俺に似てるんじゃないかな(笑)。役者さんにとって大事なのは、神経質かつ大胆みたいなところが必要なわけで。
 
――撮影はスムーズに進みましたか?

佐藤 千葉の屠殺場の跡地で劇中劇を撮影しているのですが、撮影中に本当に嵐がきて。雨漏りするような廃墟の中で、大雨は降るは風がびゅーびゅー吹くは、映画の内容もそうだけど、だんだん気候もおかしくなってきて、撮影現場自体が華魂に取り憑かれたような感じで「華魂の神が降臨した!」みたいな。

そんな状況で撮影していると、芝居も変わってくるんだよ。川上史津子さんが演じる屋上での名シーンも、予定では太陽がサンサンと降り注ぐなかで、パラソルの下、健康的に剃毛するっていう場面だったんだけど、嵐の中、撮ったんだよ。

――なぜわざわざ嵐の中で剃毛しているのか不思議でした。

佐藤 雷が鳴る屋上でパラソルを立てているから、アンテナが立っているようなものだし、雷が落ちるんじゃないかという危険もあったんですよ。川上史津子さんも「寒い、寒い」って言っていました。
 
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写真:『華魂 幻影』川上史津子 ©華魂プロジェクト

川瀬陽太さんが使用するナイフもまたデカいナイフ用意してくれて、ダミーもあったんだけど、本身を使っているから、「川瀬、これ大丈夫か?」って聞いたら、「大丈夫です。慣れてます」って目が爛々と輝いちゃったから、これは本当に大丈夫なのかな? って(笑)
 
――川瀬陽太さんが演じる男の豹変する姿や鬼気迫る表情が恐ろしかったです。本当に追いかけられたら逃げることも出来なくなりそうな恐怖が身体から滲み出ていました。

佐藤 役者はそういう資質を持っていないと面白くない。なかなかこういう役柄はないし、川瀬さんは、今回の『華魂 幻影』が代表作になるんじゃないかな。劇中劇の『激愛』は、最初は日活の爽やかな青春映画風で始まるんだけど、途中から変わってしまう。

相手役の愛奏さんは華魂に取り憑かれたような乳首になっちゃってね(笑)。そこまで緊張感を持って演じてくれたのかと思ったら、完成披露のときに愛奏さんが「寒かったんです! 私の乳首はあんな色はしていないし、あんなに固くないんです!」ってメディアに訴えかけて。俺は、あれは芝居で肉体さえも変えたのかと思って、「さすが愛奏だよ!」と思ったのに、「なんだお前、寒かったのかよ!」と(笑)

まぁ、それは愛奏の照れ隠しかもしれないですけど(笑)。肉体さえも、華魂に取り憑かれたような肉体になっているから、これはこれでまたひとつの見物だと思います。
 
――見物と言えば、潔癖症の受付嬢が豹変するシーンも見物ですね。そんな内面があったのかと(笑)。

佐藤 少女の持っている表面的な潔癖性の裏側、内面の純粋性が現れている。少女っていうのは、内面にそういう毒というのを持っているじゃない?

彼女は稲生恵っていう人で、前作の『華魂 誕生』では、エキストラとしてセーラー服を着て参加してくれた。2年経って、今回の華魂隊でも参加してくれて、見違えるほど芝居が良くなっていた。

相手役の三上寛さんとの対比というのも良くて、お尻丸出しでがんばってやってくれました。昔、クラシックバレエをやっていたそうで、立ち姿や三上さんを踏んづけちゃう姿とかキレイなんだよね。画になる。
 
 

佐藤監督を魅了したイオリさんの透明感

 
――黒ずくめの少女を演じられたイオリさんは、オーディションで抜擢されたそうですが、なぜイオリさんを選ばれたのでしょうか?

佐藤 彼女を選んだ理由は、芝居そのものよりも、彼女が持っている透明感、彼女が今まで生きてきた人間感に魅力を感じたからです。

『名前のない女たち』(2010)以降、役者さんはオーディションで選ぶことにしているのですが、オーディションは役者さん自身が非常に前向き。役柄に対して「その役をやりたい!」と言って来るので、モチベーションが高い。

今回もオーディションをやり、演技のできる女の子たちは何人か居たのですが、イオリさんは、現代ではなくて、俺らが若かりし頃に、「こういう女の子いたよな」「こういう先輩いたよな」「こういうちょっとキレイな人いたよな」と思わせる独特の存在感があった。

ただ、それというのは時代に染まっていない純粋性、純朴さ、おっとり感、時代に取り残されてしまうような、ゆったりとした感覚的なもの。性格はすごく素直で、世間のことをあまり知らなくて、誰か変なやつに騙されてしまってもおかしくないなっていう危うさ、地に足がついていないような浮遊感と透明性を持っていると、彼女に会った時にそう思ったんです。
 
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写真:『華魂 幻影』独特なイオリの存在感 ©華魂プロジェクト
 
――イオリさんの持つピュアな魅力、彼女自身に惹かれたということですね。幼く可愛らしい顔立ちなのに肉体はしっかりしている、そのアンバランスさも魅力ですね。

佐藤 子どもの頃に見た、母乳をあげているときのおっぱいの膨らみっていうのが記憶にあって、思春期の少年にとっては、なんか目のやり場に困っちゃうみたいな。こっちは目のやり場に困っているのに、本人は、ぽよーんとしている。不思議なんだよね、彼女。

結構、度胸が座っていて、完成披露のときに一緒に劇場で本編を見て恥ずかしがってたんだけど、自分の裸に対して恥ずかしいという感覚じゃなくて、芝居に対して恥ずかしいっていう感覚なんだよね。

役者というのは本来そういった方が面白いし、そういった資質はプラスアルファになる。役柄はこうだけどその役柄に縛られない、彼女が持っている存在感が非常に浮かび上がった映画なのではないかと思っている。
 
――イオリさんのそういうたたずまいは、前作『華魂 誕生』で桐絵役を演じた島村舞花さんにも通じている感じがします。さらに島村舞花さんは、多くの佐藤監督の作品に出てきた伊藤清美さんに似ている気がして、佐藤監督のタイプなんじゃないかなって思ったのですが、その辺りはいかがですか?

佐藤 俺の女性の好みを聞いているのか?(笑) 透明感があるというか、イオリさんも島村舞花さんも関西の出身で、伊藤清美さんは北海道出身なんだけど、その辺のリズムというかせわしなくないというか。俺がせかせかしているから、おっとり感に惹かれるのかもしれない。

伊藤清美さんは、俺が二言、三言、言うと、やっと「そういえばさっき言ったあれですが……」って返してくる。「さっき言ったことなんて忘れちゃってるよ!」みたいなさ(笑)
 
――ちょっとマイペースな感じで(笑)

佐藤 そうね。ある部分での透明感。純和風というか、恐らく3人とも着物を着させたら似合うんじゃないかという感じはするよね。
 
 

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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