川端裕人メルマガ・秘密基地からハッシン!より

リアルな経済効果を生んだ「けものフレンズ」、そして動物園のジレンマは続く

川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」Vol.037より
 
熱狂的な人気を集め、4月にシリーズ放送を終えた動物擬人化アニメ「けものフレンズ」。このアニメを『動物園にできること』などの著書がある小説家&ノンフィクションライターの川端裕人はどう観たか? 

関連記事はこちら。
けものフレンズ」を見てみたら/アマゾン・イキトスで出会った動物たち

合わせて、4月に著者自身の手によって復刊された『動物園にできること』電子版・紙版の情報をお届けします。
 
 

 
 

見ごたえのあった「かばんちゃん」たちの旅

「けものフレンズ」終わりましたね。

たいそう楽しめました。

いくつか個人的な楽しみポイント。
 
やっぱり、かばんちゃんたちの旅が、サバンナに始まり、出アフリカして、いわゆるグレートジャーニー的に新大陸に入り、途中から「物語の要請」でそういう人類拡散の要素はちょっと薄くはなったけれど、最後の最後で海洋進出までなぞった点で、「基本に忠実」だなあと思いました。

最初は、フレンズって「種としてのフレンズ」として登場するわけです。物語の中では、1種1フレンズが基本。群れをつくる動物でも、1種1フレンズ。キャラには、種としての特徴が上手に反映されています。
 
でも、最後になるとかばんちゃんが「ヒトのフレンズ」というよりも、「ある個人のフレンズ」であると示唆されますよね。

また、サーバルちゃんも、「ある特定のサーバルちゃん」であるように意識されられるようになります。

そういうカテゴリーの移り変わりがゾクゾクしましたね。

つくった側は、そんなに深く考えていないかもしれないですけどね(笑)。

それにしても、髪の毛からフレンズが生まれるなら、1万年前のオオナマケモノの毛皮(37号に出てくる大英博物館展ネタ)からオオナマケモノのフレンズができて、フレンズをセルリアンに食べてもらったら、「元の動物」オオナマケモノに戻るの? とか妄想してしまいますね。

すごいなあ。

ぼくは、オオナマケモノのフレンズに会いたい。そして、セルリアンに差し出したい!(以上、観てない人スミマセン)。
 
紹介はこれくらいにしておいて……とにかく物語は、二重にも三重にもなっていることを強調しておきたいですね。

一方で、気になった点について簡単に。途中で挟まれる専門家による動物解説で、ちょっとこれは……と思う部分がありました。

たとえば、「ふくろうカフェ」の店員にフクロウについて聞いているのだけれど、「ふくろうカフェ」は、ちょっと飼育上問題があるのではないかと言う声があります。店員もたぶん専門家ではないですね。

また、「日本オオカミ協会」を問題にしている知人がいました。オオカミを日本に再び放ちたいと主張しているグループで、これも論争が多い分野です。
 
あとは……

「マレーバクのフレンズのお腹が白いのが受け入れがたい」とか、「ネコ科動物の虎耳状斑が正確に再現されていない!」とか、動物園の人が言ってましたが、それはそれ、ですね。

なお、制作側の公式見解としては、「作品を見て動物園に行く人が増えるとよい」と意図されているそうです。

12話のみじかい旅を楽しんだ人は、ぜひ、地元の動物園に行ってみるといいですよ。(なにか12.1話というのもネットあると聞きましたが)。動物園の人たちは、どんなきっかけであれ、来てくれる人たちをウェルカムするでしょう。

 
 

動物の「萌え擬人化」は動物園に何をもたらす?

ちょっとだけ注釈しておくと、実は動物園の人たちは、常に「擬人化」と戦ってきた歴史があります。

「戦う」というのは、半分は、自分自身との戦いで、自分たちも動物をついうっかり擬人化しちゃうわけだけど、でも、こいつらヒトではなく野生動物だよなあという思いを常に持ちつつ、野生動物としての部分を伝える努力をしてきた、ということです。

だから、過剰な擬人化は、やっぱり自ら戒めようとしてきました。チンパンジーのショーなんかがどんどんなくなっていったのは、そういう背景もあります。

それでも、21世紀になってからは、2本足で立つレッサーパンダの風太くん騒動のように、動物園が率先してブームにのっかっていく(正確には、話題になったものに乗っていく)のを、従業員たちは苦々しく思いつつ、それでも、来園者数は動物園の存在意義の指標とされるので、否定はできず、「人のように二足で立ち、かわいらしい」レッサーパンダを複雑な思いで「売り物」にしたこともあったわけです。

そんな動物園の「おにいさん」や「おねえさん」たちは、萌え擬人化という斜め上を行く超新星的な発想に対して、ちょっと距離を取りつつも、やっぱり「来てくれるとうれしい」のです。ぼくが聞き取った範囲は百パーセントそうです。

そして、動物園では、きょうもサーバルが跳躍し、ハシビロコウがこっちをじっと見ています。

 
 

『動物園にできること』、電子と紙で復刊!

拙著「動物園にできること」を復刻しました。

長年読みつがれてきた作品を、現時点の注釈を加えた「全部入り」第3版としてリリース。すでに嬉しい感想がいくつも届いています。

「けものフレンズ」きっかけで、動物園に興味を持った人も、ぜひ読んでみてください!


 
 
電子出版→ http://amzn.to/2mGMOUN
紙の本→ http://bccks.jp/bcck/149418/info

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川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!

2017年4月7日Vol.037
<大英自然史博物館展からその先へ~どこよりも(まだらに)詳しい特別展ガイド/宇宙通信:午後3時、JPLで待ち合わせ/2週間で電子書籍を作ってみた!/蜂須賀正氏のドードー本が届いた>ほか

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目次

01:巻頭特集【カナダ、恐竜と古生物の旅】
02:keep me posted~ニュースの時間/次の取材はこれだ!(未定)
03: 大英自然史博物館展からその先へ~どこよりも(まだらに)詳しい特別展ガイド その1
04:宇宙通信:午後3時、JPLで待ち合わせ
05:2週間で電子書籍を作ってみた!
06:連載・ドードーをめぐる堂々めぐり(37)蜂須賀正氏のドードー本が届いた
07:著書のご案内・イベント告知など
08:特別付録「動物園にできること」を再読する:第八章「野生復帰の夢」

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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