※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2017年7月21日 Vol.135 <歳を考えれば号>より
そろそろ1ヶ月近く前の話になるが、6月の中旬、筆者はE3取材のためにロサンゼルスにいた。
今年のE3は、歴史上初めて一般のゲームファンに入場枠を提供したため、来場者が増え、とにかく会場が混んでいた。一番人気の任天堂ブースは、まったく身動きができないくらい、人が試遊台に貼り付いている状況だった。しかも、ブースの周囲には試遊台の順番を待つ人の列で完全に取り囲まれており、さらには少し離れた場所に、別途待機列まで出来ていたほどである。10時の開場と同時に行列が出来、試遊台にたどり着くまでには2時間以上待つ場合が多かったようだ。
・E3任天堂ブースの中をパノラマ撮影で。とにかく人の山。
これは、任天堂のゲームに対する人気を示すものでもあるが、一方で、行列への対策に問題があった、ということでもある。1箇所で数時間並んでしまったら、もう他のブースではあまり遊べない。全力で鳴らんでも1日で2、3のゲームしか試遊できないわけで、イベントの「時間的・体力的コスパ」としてはかなり悪い、と言わざるを得ない。
そのことを考えてか、ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、スマホアプリによる予約制を採っていた。行列を作らず、予約時間にブースに来ればいい……というやり方だ。だが、これもうまくはいっていなかった。ブース予約がとりあいになってしまい、朝と昼のごく短い時間に、アクセス集中を覚悟でチケット予約を努力しないと、結局遊べなかったからだ。アプリの不具合か、予約したはずのデータが入っていないこともあったし、ブースにやってきたはいいものの、アプリ予約のことが分からず、遊べずに帰っていく人もいた。これはこれで、任天堂とは別の意味で問題だったろう。
・E3でのSIEの予約アプリ。「予約を入れるための競争」が厳しく、体験はお世辞にも良いものではなかった
イベントはどんどん「ユーザー向け」になっており、来場者を増やすことが価値に直結している。一方で、来場者が増えれば増えるほど行列問題は悪化し、体験は劣化する。
こうした問題を解決するアプローチは、2つ考えられる。
ひとつは、スマホアプリ予約などの「技術的解決」の精度をあげることだ。バンダイナムコエンターテインメントが先日新宿にオープンしたVRエンターテインメント施設「VR ZONE SHINJUKU」では、チケットは基本的に「ネット予約」だ。何日の何時、という風に予約して買うことで、体験の確実性をあげ、行列も最小限にしている。アプリもわかりやすい。常設施設とイベントではかなり異なるだろうが、事前に予約する仕組みをうまく使い、行列対策をすることは必須になるだろう。
・VR ZONE SHINJUKUのチケット予約アプリ。どの日の何時が空いているかを確認して、簡単に予約ができる
もうひとつは「並んでいる最中にも楽しめるようにすること」だ。ちょっと聞いた話だが、東京ゲームショウは、「1つも試遊を体験できない一般来場者」が3割から4割はいるのだという。だが、来場者の満足度はそんなに低くない。なぜならば、「その場にいることだけ」で楽しい、と感じる人が少なくないからだ。ステージイベントは、最前列にいこうとしなければ並ぶ必要はないし、音楽や演出など、ブームや会場の雰囲気が楽しければ、それもまた思い出になる。ファン向けのイベントにするならば、そうした「並んでいる時でも雰囲気を楽しめる」「並んでいなくても参加感がある」ことが大切だ。
結局完全な解決が望めないならば、テクノロジーと演出の両方で満足度を高めるしかない。それが、「広くコンシューマ向けにイベントを運営する」ことの重要なノウハウなのだろう。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2017年7月21日 Vol.135 <歳を考えれば号> 目次
01 論壇【小寺】
そろそろ確認しておきたい、相続の話
02 余談【西田】
イベントの「行列待ち」に解決方法はあるのか
03 対談【西田】
まつもとあつしさんと探る「アニメビジネスの今」(6)
04 過去記事【小寺】
仕事部屋はなぜいつも散らかっているのか
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!