高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

シアトルとアマゾンの関係からうかがい知る21世紀のまちづくりのありかた

高城未来研究所【Future Report】Vol.352(2018年3月16日発行)より


今週は、シアトルにいます。

毎年のようにこの街を訪れていますが、シアトルは、ここ数年で激変したと感じます。
その理由は、ご存知のあるひとつの企業にあります。
それがアマゾンです。

破竹の勢いを続けるアマゾンは、脱オンラインの実験場としてシアトルの街を活用しています。
今年1月も、「Amazon GO」と名付けられた実験的未来店舗を開業しました。

無人どころかレジすらないコンビニ「Amazon GO」は、自動運転のセンサーや画像認識、ディープラーニングの技術を使った店舗で、開業延期が続いていましたが、この1月についにオープンしました。

まず、日本の駅の改札のように、入店する際にスマートフォンのアプリにあるQRコードをスキャンして入ります。
その後、陳列棚から手に取った商品はスマホ上に自動的に表示されますが、もし、購入や会計内容が間違っている場合は、その場で自分で削除することが可能です。
また、帰宅後商品に満足しなかった場合、Amazon GOアプリ内で「払い戻し」ボタンを押すことによって返金をおこなうことができる上に、商品の返品は必ずしもおこなわなくて良いというオンライン以上に手厚い顧客サービスがあります。
このあたりが、実験的なのでしょう。

「Amazon GO」は、この無人店舗技術を「Just Walk Out Technology」と名付けました。

また、Amazon新本社ビル「Day 1」の前には「Amazon Spheres」と呼ばれる、3つのガラスドームからなるワークスペースを開業しました。
この建物は温室構造で、世界中から4万本以上の植物を集めて植物園並の施設になっており、最大800人を収容できる巨大なワークスペースになっています。

しかし、本当の問題はこのような意欲的な取り組みではありません。

アマゾンによると、同社の社員数は昨年末時点で34万人。
昨年1年だけでも、11万人も社員が増えたそうです。
すべての社員がシアトルにいるわけではありませんが、大半はシアトルに住んでおり、これだけ急激に人が増えると、シアトルに住宅難が起きはじめます。
現在、シアトルの人口はおよそ70万人、全米で人口増加率第一位です。

ただでさえ、大きいとは言えないシアトルの中心地に、アマゾンはビルを続々と建設し、シアトル市内にアマゾンが保有しているオフィススペースの延べ床面積は、なんと東京ドーム約17個分という広大なものになっています。
これは、市街地にオフィスを構える企業としては、全オフィス面積に占める割合、総延べ床面積の双方の観点から全米1位となります。
現在、シアトル市内中心部のオフィス面積全体のおよそ20%が、アマゾン関連なのです。

この拡大を続けるアマゾン同様、ここに勤める従業員や家族を受け入れる住宅や施設が不足しています。
不動産価格も高騰し、この一年だけでも15%も値上がり、古いビルも続々と壊され、まるで5年前と別の街にいるように錯覚するほどです。

これだけ町の様相が急速に変わることを、最近は「Amagedon(アマゲドン)」と呼んで揶揄する人も増えています。
現在、この街はアマゾンおよびアマゾンの利害関係者と、そうではない人たちの分断がはじまっているように見受けられます。

また、アマゾンは、2020年までにバンクーバーで技術者を採用し、従業員数を2倍に増やすと発表しています。
トランプ政権下の米国では、高度の技能を持った外国人労働者を採用する場合に、就労ビザを適時に確保することが困難になったため、国境を跨いで、シアトル&バンクーバー経済圏を作ろうとしているのがうかがえます。
カナダのトルドー首相は、「迫害、戦争、テロから避難してきた人々へ。信仰にかかわらず、カナダはあなた方を歓迎します。多様性は我が国の強みなのです」というメッセージを発表し、近年、難民・移民を歓迎する姿勢を打ち出しました。
事実、カナダは毎年25万人以上の移民を受け入れ、この多様性を生かしたイノベーションによってグローバル化を推し進めています。

シアトルにおけるアマゾンを見る限り、21世紀のまちづくりは、役所の手を離れ、企業や一部の富裕層に主導権があるのは確かです。

ブラジルの過疎地に過ぎなかったフェルナンドノローニャ島を、世界一の島に作り上げたのは、政府から引き取った一個人だったように、シアトルの未来はアマゾンのCEO兼企業城下町の殿様ジェフ・ベゾスに、もはや完全に握られているのです。

ただ一言、彼が「引っ越す」と言えば、シアトルは終わりですから。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.352 2018年3月16日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

何でもできる若い時代だから言えていたこと(やまもといちろう)
iliは言語弱者を救うか(小寺信良)
親野智可等さんの「左利き論」が語るべきもの(やまもといちろう)
有料のオンラインサロンを2年やってみて分かったこと(やまもといちろう)
就活解禁になっても何やっていいのかわからない時に読む話(城繁幸)
『「赤毛のアン」で英語づけ』(4) 大切な人への手紙は〝語感〟にこだわろう(茂木健一郎)
東京オリンピックを痛快に破壊 ――アナウンサー吉田尚記は なぜ”テロ計画” を考える?(宇野常寛)
ソフトバンク・Pepperの価格設定から見る「売り切り時代」の終わり(西田宗千佳)
クラウドファンディングの「負け戦」と「醍醐味」(西田宗千佳)
「実現可能な対案」としての『東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』(宇野常寛)
時の流れを泳ぐために、私たちは意識を手に入れた(名越康文)
なぜ今、「データジャーナリズム」なのか?――オープンデータ時代におけるジャーナリズムの役割(津田大介)
週刊金融日記 第267号<クラミジア・パズルとビジネスでの統計の使い方他>(藤沢数希)
なぜ「もしドラ」の続編を書いたのか(岩崎夏海)
移動速度とアイデアは比例するかを考える(高城剛)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 864円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ