※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年11月2日 Vol.195 <考えてみりゃわかる号>より
ちょっと、人によっては「それは当たり前だろう」と思われることを、改めて書いてみたいと思う。
仕事柄、いろいろな人とファイルのやりとりをすることが多い。そうするとありがちなのが、「やりとりをするごとにファイルが増えていく」ということ。「本番」という文書ファイルがあるとすると、そこに改変が加わると「本番 10月30日」とか「本番 西田チェック」とかいう風に追記されていき、多数のファイルができるのだ。
まさに「あるある」なのだが、これ、ほんとうに必要なのだろうか? 「ファイルの変更をするたびに、ファイル名は変えて残すのが基本」という人がいるが、はっきり言って、「本当にそう?」としか思えないのだ。
というのは、これだとむしろ混乱が増えるからだ。どれが最新かわからなくなる、ということは日常茶飯事である。
「理解できるように名前を変えているんじゃないの?」
まあ、そうなんだが、命名規則を考えたり、ファイル名で見分けたりするのに頭を使うのは、無駄じゃなかろうか。
はっきりいって、文書の履歴管理を「ファイル名」で行うのは悪癖だと思うのだ。
まず、現在ビジネス文書として多く使われているマイクロソフト・オフィス文書には、きちんと「変更履歴」を残す機能がある。別にファイル名に頼る必要はない。Google Documentだったら、ネット上の同じファイルに履歴をつけて編集することになるので、ファイル名を気にする必要はない。
ファイルの保存についても同様だ。現在のクラウドストレージには、ファイルの保存履歴を記録しておく機能がある。以前の状態が確認したければ、履歴にアクセスして内容を確認すればいい。この場合、テキストファイルのような、履歴保存機能がないものでも問題ない。
・Dropboxの「履歴」機能。このメルマガは、実際にこの機能を使ってコラボレーションをしながら編集されている。
そして現在は、「GitHub」などのバージョン管理ツールもある。クラウドストレージにおける「履歴」機能は、本質的に簡易的なバージョン管理ツールであり、DropboxにしろOneDriveにしろ、ビジネス向けのプランは、まさにバージョン管理をウリのひとつとしている。ファイル名をいちいち変えるよりも、こういうものを使って管理した方がいいはずだ。
GitHubや文書管理システムの導入は、すでにあたりまえになっているところもあるが、意外なほど浸透していない。個人レベルだとさすがに大掛かりなシステムは難しいだろうが、クラウドストレージの履歴機能を使ってみるくらいならできるはずだ。macOSの「TimeMachine」のように、バックアップ履歴を管理しやすくしたシステムもある。
「働き方改革」と言われるが、本質はこんなところにあるんじゃないか、と思っている。ひとつひとつの作業はほんの数秒でも、日常的に積み上がるとけっこうなものになるし、それを全員がやっていると思うと大変な時間になる。そして、いっせいに止めてみると「なんて快適なんだろう」と感じる。
そんなことはたくさんあるはずなのだ。集計を手作業でする前提で出欠を聞いたり、「お世話になっております」でメールを書き始めたり、無駄に書式に凝ったり。
どれが儀礼でどれが無駄な作業なのかは、人によっても意見が異なるかもしれない。だが、システムがカバーしてくれることは、システムに任せて、もっと楽をしてもいいのではないか。履歴にあわせてファイル名を変えることの問題は、そのきっかけになりうるのではないか、と思うのだ。
まず、あたりまえになった作業を「ちょっと見直す」ところから始めてみてほしい。自分達の働き方に無駄が多いことに、改めて気づくはずだ。
もちろん、作業プロセスの変更は、個人レベルではなく会社・部署レベルでシステマチックに導入した方が良い。そうでないとむしろ混乱が起きる。ファイルの履歴を管理することにしても、部署や働き方によっては、「システムによる履歴管理」が向かないところもある。だが、それは相当に特殊な状況だろう、とは思う。
ただ、過去には「混乱が起きるから」という理由で変えずにきたが、そろそろ「変える」ことを前提に考えてもいい時期に来ている。そのくらい、わたしたちの働き方はめんどくさいことにあふれているのだから。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2018年11月2日 Vol.195 <考えてみりゃわかる号> 目次
01 論壇【小寺】
「私的録画に関する実態調査」から見る、イマドキのユーザー動向
02 余談【西田】
「履歴」をもっと使おう
03 対談【西田】
境治さんに聞く「バズで売れるってどういうことなのか」(1)
04 過去記事【小寺】
オリジナルドラマはネットからやってくる?
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!
その他の記事
名称だけのオーガニック食材があふれる不思議(高城剛) | |
ファッショントレンドの雄「コレット」が終わる理由(高城剛) | |
週刊金融日記 第291号【SegWit2xのハードフォークでまた天から金が降ってくるのか、日経平均は1996年以来の高値にトライ他】(藤沢数希) | |
心身や人生の不調対策は自分を知ることから(高城剛) | |
できるだけ若いうちに知っておいたほうがいい本当の「愛」の話(名越康文) | |
これからのビジネスは新宗教に学んだほうがいい!(家入一真) | |
シュプレヒコールのデジャブ感—大切なのは、深く呼吸をすること(名越康文) | |
ロシアによるウクライナ侵攻とそれによって日本がいまなすべきこと(やまもといちろう) | |
「狭霧の彼方に」特別編 その2(甲野善紀) | |
「不自由さ」があなたの未来を開く(鏡リュウジ) | |
冬の間に眠っていた体内の問題が目を覚ます季節(高城剛) | |
日大広報部が選んだ危機管理の方向性。“謝らない”という選択肢(本田雅一) | |
得るものがあれば失うものがある(甲野善紀) | |
「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか(津田大介) | |
一寸先は、光。自分しかない未来を恐れなければ道は開けるものです(高城剛) |