※高城未来研究所【Future Report】Vol.389(2018年11月30日発行)より
今週も那覇にいます。
先週、北半球で日照時間が長くなる春から秋は撮影やイベントのために移動が続き、冬季になると帰国してトレーニングをする野球選手のような年間スケジュールを送っている、とお話ししたところ、いくつもご質問を頂戴しました。
実はこのような年間を通じたスケジュールは、僕に限らず、意外な人たちも同じような動きをしています。
今週、沖縄でもっとも羽振り良く暗躍しているのは、その存在すら知られることがない「闇うなぎ業者」です。
長い読者の方はご存知だと思いますが、僕はきっての鰻重好きでして、その理由は、近年、他国で美味しい寿司は食べられても、鰻重を食べられる機会がいまだにないことが、ひとつの理由です。
うなぎ消費のピークは、ご存知「土用の丑の日」。
この日にうなぎを食べるようになったのは、江戸時代を代表するクリエイティブ・ディレクター平賀源内のキャッチコピーからだと言われておりますが、いまやその習慣は、ファストフード店でも用いられるほどの夏の国民的食事の機会になるとは、彼自身も想像していなかったに違いありません。
この「土用の丑の日」にあわせ、養鰻業者は養殖スケジュールを立てています。
現在、多くの養殖うなぎは、ブロイラー鶏と同じく、ハウス内に作られた養鰻池で管理され、冬眠させずに、急速に太らせます。
いわば「ブロイラーウナギ」ともいう育成方法は、通常2〜3年かかるところを、半年強で出荷サイズにすることが可能となり、うなぎの稚魚であるシラスウナギを、できるだけ早く養鰻池に入れ太らすことができれば、うなぎ消費のピークである「土用の丑の日」に向けて、もっとも高値で売ることができるのです。
宮崎や鹿児島などの南日本の各県では、12月5日から10日を解禁として漁を認め、年々高値を続けるうなぎを争うように乱獲し、高値で売買されています。
しかし、美味しい寿司屋である理由が、客に言うことはない「密漁」が裏にあるように、うなぎも密漁が盛んです。
密漁という限りには、解禁日の前に獲る必要があります。
美味しいシラスウナギが多く取れるのは、新月から10日間と決まっており、11月中旬、各地でシラスウナギの密漁がこっそり行われています。
当然、ここには反社会組織の関わりも多く、なぜなら、2014年に1キロあたりのシラスウナギの価格が「銀」を超え、国連によって絶滅危惧種と指定されて以降さらに高騰し、昨年、ついに1キロあたりのシラスウナギの価格が「金」を超えてしまったのです。
最近、香港から「金」を密輸する人たちが後を絶ちませんが、彼らと話すと、日本の川に泳ぐシラスウナギこそ「金」以上の価値を持っていると知りません。
そこで、いまも秘密裏に、ゴールドラッシュならぬ「シラスウナギ・ラッシュ」が、ここ数年密かに日本で起きているのです。
こうして、11月中旬に南日本で密漁を終えたブローカーは、世界でもっとも早い時期にシラスウナギを捕獲できる台湾の業者と、中間地点であり物流ハブとして急成長する那覇で11月最終週にあって、翌年の「土用の丑の日」の基本となる取引価格を密談します。
その後、彼らは香港のブラックマーケットを通じて取引を行い、春先からヨーロッパウナギを求めて、欧州へと向かいます。
このように「闇うなぎ業者」は、毎年同じようなスケジュールで移動を繰り返しています。
現在、日本は表層的な美食ブームに湧き上がり、レストラン側のPR担当として重宝されるだけのフード・ジャーナリストは、食材のトレーサビリティを「あえて」無視しているように見受けられますが、実態は魑魅魍魎です。
だから、興味深く、面白いとも言えます。
国境に近い島々は、地政学的に密輸のハブに必ずなっていきます。
観光に沸く沖縄も、例外ではありません。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.389 2018年11月30日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


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