※高城未来研究所【Future Report】Vol.423(2019年7月26日発行)より
今週はベルリンにいます。
この夏、歴史が変わることになった「汎ヨーロッパ・ピクニック」から30年が経ちます。
1989年当時、ソ連のペレストロイカに続き、ポーランドやハンガリーでも民主化に向かいつつありましたが、分断された東ドイツでは、いまだ発言の自由も渡航の自由もままならない状況が続いていました。
そんな中、ハンガリーの鉄条網が撤去されたニュースを聞いた東ドイツの人々は、ハンガリー、オーストリアを経由して西ドイツに行けるのではないかと考え国境に押し寄せましたが、通行を許可されるのはハンガリーのパスポートを持った者だけに限られていました。
そこで、東欧を民主化したい、東西の壁をなくしたいと考えるハンガリーやオーストリアの人たちは、「ピクニック」というアイデアを思いつきます。
オーストリアとハンガリーの国境地帯へ、双方「ピクニック」に出向き、たき火をしながらバーベキュー・パーティを行って国境のフェンスを囲い、ともに騒いでヨーロッパの東西を分断するフェンスの無意味さを世界に知らしめよう!と、冗談からはじまったアイデアが、徐々に現実に向かいました。
そしてついに、1989年8月19日、「ピクニック」は、実現されたのです。
国境でブラスバンドが鳴り響き、チロル民謡で踊って盛り上がる「ピクニック」会場には、東ドイツ市民が殺到し、彼らをハンガリー側と西ドイツの領事館のスタッフが西側へと誘導します。
この「ピクニック」以降、東ドイツ国内でも一気に民主化の動きが強まり、政府は対応を迫られ、政治的な混乱に陥いりました。
そして1989年11月9日、ドイツ社会主義統一党(共産党)の政治局広報担当だったシャボフスキーは、記者会見の中で、これまで厳しく制限してきた西ドイツへの出国を、希望すれば誰でも条件なしでビザを発給し、直接西ドイツに出国できるよう、大幅に制限を緩和すると発表しました。
このとき、「いつから発効するのか」と記者団に聞かれたシャボフスキーは、「私の知るところで、直ちに、遅滞なく」と「うっかり」答えてしまったため、この直後からベルリンの壁に西ドイツへの出国を求める東ベルリン市民が殺到し、壁の倒壊につながります。
こうして、東西の壁が壊れた映像を、日本のニュースで見ていた僕は、世界が大きく変わる瞬間に立ち会いたいと思い、居ても立っても居られなくなって、ベルリンに向かい、壁を壊すのに参加したのです。
「ピクニック」と「うっかり」によって、大きく変わった世界。
これ以降、世界はひとつに向かい、グローバリゼーションと新自由主義の嵐が吹き荒れます。
大きく歴史が動くのは、革命や熾烈な争いではなく、「ちょっとした冗談のようなこと」からはじまるんだと、真冬の寒空から想像できない好天に恵まれたベルリンの壁の跡で考える今週です。
そしていま、歴史は再び大きく動こうとしているように感じています。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.423 2019年7月26日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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