やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

大揉め都議選と「腐れ」小池百合子の明るい未来


 この「腐れ」というのは某都民ファースト関係者の方の暴言です。

 ただ何というか、都民ファーストの都議の中にも結構まともな人はおられて、一桁ちょっとかもしれないけれども議席を守る人は東京都民にとって大事な人物に育つ可能性はあります。注目してきたいと思うんですよ、かなりの都ファの都議が一期で死に絶えるとしても。

 で、問題となるのはその「腐れ」の理由なんですが、やはり大きいのは「都民ファーストは小池百合子さんが主宰した私党としてスタートした、比較的まともな人たちの集う政党であった」という点です。政治塾を小池さんがやり、我こそはという人がどんどん出てきて、そこへなぜか渡辺喜美先生とかおられましたけれども、将来は国政復帰、地域政党を超えて全国政党へという夢もあり、場合によっては維新の会や減税日本といった都市型地域政党の並びで政党政治の一角に成り上がる可能性もあったのです。

 その点では、都ファができたときに呼応した人は比較的まともな人でした。その後の希望の党での公募でやってきた人にはアカン感じの人が多かったですが、例えば大阪維新の会のころの小学校校長公募でやってきて採用された人が軒並みあんな感じで、一連のフレッシュ登用で何とか登り詰めたのは「浪花の進次郎」こと吉村洋文さんだけだった、というのも良い思い出であります。

 さはさりながらも、この3月ぐらいに「小池百合子さんがホスト都市の知事として電撃五輪中止を宣言するかも知れない」という話が出ました。おりしもワクチン調達が概ね目途が立ち、これから接種しようかというところで感染者の数が増大し、緊急事態宣言を打とうというタイミングでありましたので、世論も比較的「五輪中止もやむなし」に傾いていました。

 機を見るに敏というか、機会しか窺っていないように見える小池さんのことを、ことあるごとに文句を言うのは別の意味で機を見るに敏な我らが総理大臣・菅義偉さんであることは言うまでもありません。どちらも風向きを読んで退くべきところは退き目立つところでしっかりと役割を果たそうとするという点で、やや似たところはあるんでしょうけれども、国民的人気のアリなしで言うならば圧倒的に小池さんなわけですよ。中身はともかく。

 菅さんからすれば、ケミカルとしてそんな小池百合子さんの存在が面白くないし、その小池さんをとても買っている(風に見せる)二階俊博さんが幹事長であるというのは寝首を掻かれるリスクと隣り合わせであることもまた意味します。

 実際、今回オリパラ直後に解散を打ち総選挙をやるとして、9月26日投開票か、はたまた公選法上引っ張りに引っ張って11月28日にという方策もあります。かたや、戦後憲政史二度目の任期満了に伴う総選挙も9月26日か10月中に実施することが大前提となります。その場合は、9月末の自民党総裁選を挟むことになるわけであります。

 そこに、本当であればオリパラの成功とワクチン接種の推進で功績のあった菅義偉さんが、対抗馬である河野太郎さんや小泉進次郎さんがいずれも入閣中であるということも踏まえて無投票総裁選出をという流れを目指すのは当然のことです。

 ところが、今回本来ならば従順な私兵であり肩入れすればそれなりに議席を守る人もいたはずの都ファを半ば本格的に見捨てる形で小池百合子さんが都議選を静観しているのも、建前では都知事で都ファの顧問に退いているという名目はありつつも、実際には自民党幹事長の二階俊博さんから自民、公明、都ファの三党を無理に応援しないという密約を組んでいるからだという話が公然と語られています。自民党や都庁周りと話をしていてみんなその辺はコンセンサスであるという風の流れになっているのも、何らかの話し合いが自民党本部と小池百合子さんのあいだであるからだろうと思います。

 他方、知事与党として自民公明都ファで頑張りますと言ったところで、小池百合子さんの関心事はおそらくもはや都政にはなく、あれだけあった準備金(都の財政余力)もコロナ対策で一気に枯渇し、どうにももうやる気はないようです。いまや次の都知事は副都知事の宮坂学さんや女性タレント、身障者の教育評論家など何名かの名前が取りざたされるような状況となっていて、都民からすれば女帝に見放されて残念だなとすら思う事態になってしまっています。

 となれば、小池百合子さんが考える先というのはその大きな選択肢の一つとして二階俊博さんに呼びこまれる形での自民党総裁選への電撃出馬であって、もしもここでオリパラ終了後、ワクチンを打っているのに感染者増大や景気不振などで菅政権の支持率が伸び悩み、選挙で落選者を多く出しそうだとなれば、自民党議員は雪崩を打って菅義偉さんという神輿をかなぐり捨て、小池百合子新総裁、女性初新総理を立てて総選挙に打って出る可能性も否定できません。

 その怖れを省くには、やはり菅義偉さん自らの手でオリパラ終了直後の9月5日前後に衆議院解散を宣言し、9月26日投開票日で進む以外に方法は無いのでしょう。もしも身内の造反で寝首を掻かれるぐらいならば、身を賭して政権を守る方向に傾くのか、その場合は自民大敗の危険もなくはないので自らが亡国の宰相となるのかはかなりの部分で瀬戸際に立たされるのではないかと思います。

 負けた場合の戦後処理として、自公連立で過半数が成立しなければ菅政権退陣はもちろん、自公と維新、または国民民主党、さらには四党連立での与党として死守することも考えられます。その場合の首班指名は玉木雄一郎先生や意外な人物になる可能性さえもあります。いまや左派政党となっている自民党が労働政策やエネルギー政策の基本に立ち返り連合と一緒になっても何ら不思議はない環境下で、どのような流れになるのか皆目見当がつきません。ただ、いずれにせよ9月末の総裁選を巡る小池百合子さんの去就が、大きな影響を及ぼすことは間違いなく、さてどうするのかといったところではないでしょうか。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.336 小池百合子さんの明るい未来をあれこれと詮索しつつ、高度成長時代を彷彿とさせるデジタル庁問題やサイバー犯罪対応のモラルハザードなどを語る回
2021年6月30日発行号 目次
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【0. 序文】大揉め都議選と「腐れ」小池百合子の明るい未来
【1. インシデント1】自民・平井卓也恐喝事件とデジタル庁問題で見る、政府委員の「身体検査」問題
【2. インシデント2】サイバー犯罪対応をめぐるモラルハザードの問題とか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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