【座談会】萱野稔人×小林よしのり×朴順梨×與那覇潤×宇野常寛

ナショナリズムの現在ーー〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来

※この記事は宇野常寛さんのメールマガジン「ほぼ日刊惑星開発委員会 2014.8.11 号外 萱野稔人×小林よしのり×朴順梨×與那覇潤×宇野常寛『ナショナリズムの現在ーー〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来』発売!」に掲載されたものです。

 

新刊!(電子書籍)

萱野稔人×小林よしのり×朴順梨×與那覇潤×宇野常寛『ナショナリズムの現在ーー〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来』 

 

1998年、『戦争論』で一躍ブームを巻き起こした小林よしのりは、2014年現在の「ナショナリズム」や「ネトウヨ」をどう見ているのか? そして、2000年代半ば以降「ナショナリズム」を理論的に分析してきた哲学者・萱野稔人、『中国化する日本』でまったく新しい東アジア像を描いた日本史研究者・與那覇潤、草の根のナショナリズム運動の現場を歩き、「ネトウヨ」的心性の広がりを見てきたフリーライター・朴順梨は、果たして小林にどう応答するのか?

 

今の「ネトウヨ」にはそもそも歴史観がない!?

宇野 この座談会では、哲学者の萱野稔人さん、漫画家の小林よしのりさん、フリーライターの朴順梨(パク・スニ)さん、歴史学者・與那覇潤さん、そして司会の私・宇野の5人で、いま日本で、おそらくはいびつなかたちで高揚しつつある「ナショナリズム」に対して、私たちがどう向き合っていけばいいのかについて話していきたいと思います。

議論を始めるにあたってまず振り返っておきたいのですが、今から16年前の1998年に、小林よしのりさんが『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』(幻冬舎、以下『戦争論』)を発表し、シリーズ累計で160万部の大ベストセラーになり、「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)の運動も盛り上がりました。この時期を境に、「戦前の日本を肯定的に評価することは絶対に許されない」というような、いわゆる「戦後民主主義」的な建前が壊れ始めていったといえると思います。当時学生だった僕は、小林さんたちの歴史観には賛同できなかったけれど、朝日・岩波的なものが相対化されたこと自体は小気味よく思っていたのを覚えています。

そしてちょうどその頃インターネットが普及しはじめて、「ネット右翼」いわゆる「ネトウヨ」と呼ばれるような人たちが現れはじめた。僕は今35歳ですけど、こうした「ネトウヨ」のボリューム層は、いわゆる団塊ジュニア世代と、その少し下の僕と同じぐらいの世代の人たちではないかと思います。

個人的な実感からいうと、『戦争論』が流行していた当時、20代前半で大学生だった僕はそういう人たちをちょっとバカにしていました。「かわいそうな男の子たちがネトウヨになって、歴史教科書論争をやって日々の鬱憤を晴らしているだけだろう」と思っていたんですね。

でもあれから10年経った今、まったくそんな悠長なことを言っていられない状況になっている。少なくとも彼らは自民党安倍政権のマーケティングの対象になるぐらいには層として厚くなってきていますし、フジテレビに対する「韓流ゴリ押し反対デモ」(2011年)や、在日韓国人の多い新大久保でのヘイトスピーチデモのようなかたちで、実際に社会問題として目に見えるかたちで街頭に溢れ出している。

まさに当時小林さんが描かれていたような、排外的な言葉を連ねることで自分を守ろうとする「寄る辺なき個」たちが溢れ返り、しかもそれが「一部のかわいそうな男の子」だけで済まず、実際に政治的な勢力となって今の世の中に影響力を持っている。それは田母神俊雄さんが都知事選で60万票を取ったことからも明らかですよね。そういう状況に対して我々がどう向き合って行ったらいいのかについて、みなさんに伺っていきたいと思います。議論を始める前にお一人ずつ、こうした状況について考えていることを聞いていきたいのですが、ではまず與那覇さん、いかがでしょうか。

 

與那覇 いま宇野さんは、小林さんも関わった「つくる会」の歴史論争から話を始めましたよね。この前もある新聞社から、2013年末の安倍首相の靖国神社参拝に関連して「日本にもう一度、歴史論争の季節が来ているのでは?」という取材を受けました。でも、僕は「安倍首相であれその批判者であれ、今の日本社会は、本当に歴史というものを必要としているのか?」という根本的な疑問を持っています。

90年代後半の歴史教科書論争の頃であれば、少なくとも「歴史観」どうしのぶつかり合いにはなっていたと思うんです。「第二次世界大戦をどのようなストーリーのもとに語るのか」について、意見が違う人のあいだで議論していたわけですね。靖国問題についてであれば、「そもそも、明治に作られた靖国神社とはどういう存在か」という地点まで遡って、そこからの歴史の流れを踏まえて「だから参拝すべきだ」「いや、すべきではない」という論争の構図になるはずだった。

でも今の「ネトウヨ」的なナショナリズムの盛り上がりって、もはや歴史観のぶつかり合いではないと思います。むしろ「韓国や中国が『参拝するな』とか文句を言ってきて、ムカツクから逆に参拝してほしい」というレベルの話でしょう。もはや歴史論争でさえなく、「今、この瞬間」しか見ない脊髄反射になっているんじゃないか、という気がします。

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