【座談会】萱野稔人×小林よしのり×朴順梨×與那覇潤×宇野常寛

ナショナリズムの現在ーー〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来

左派陣営はネトウヨ的世論の背後にあるものを見過ごしている

萱野 私はこの数年、ナショナリズムについていろいろと発言してきましたが、その大きな動機の一つは、ナショナリズムを批判する左翼の側の知識人たちが、「今なぜナショナリズムが高揚しているのか」についてまったく理解していないと思ったからなんです。

彼らはみな「社会から疎外されているかわいそうな人が、国家や民族のような『大いなるもの』に頼ってアイデンティティを安定させたいんだ」などと言って済ませている。私はもともとナショナリズムを批判する側だったのですが、彼らがあまりにお粗末なので、私自身は「ナショナリズム批判を批判する立場」に変わってしまいました。

私は、「ネトウヨ」と言われている人たちには、真っ当なところがあると思っています。たとえば今年の1月に神戸で、不正に生活保護を受けながらポルシェに乗っていた在日韓国人が万引きで逮捕されたというニュースがありました。「Yahoo! ニュース」上でのユーザーからの反応を見ていたら、トップに来ているコメントが「なんで日本人で生活保護をもらえない人がいるのに、外国人でもらえる人がいるんだ? おかしいじゃないか!」という内容でした。「Yahoo! ニュース」ではコメントに対して賛成か反対かを表明する機能があるんですが、このコメントに7万件ぐらい「賛成」のボタンが押されていて、一方で「反対」は900件ぐらいでした。ここに今の日本のナショナリズムの一つの本質があると思います。

要するに、今の日本は経済が不調で、財政赤字も増えていて、このままいくと社会保障も立ちゆかなくなる。つまり「日本人がこんなに苦しんでるのに、なんで我々日本人自身で作りあげた福祉のパイを外国人にまであげないといけないんだ」という心情があるわけです。

海外の例を出すと、オランダでは2002年に極右政党(=ピム・フォルタイン党)が初めて結成されて、わずか3ヶ月で議会の第2党になって連立政権入りしています。そのとき彼らは「オランダはもう満員ですよ」というスローガンを掲げた。もともとオランダは外国人移民に寛容だったけれど、財政赤字が膨らんで、生活保護の受給額がどんどん減っていく状況で「これ以上、移民は受け入れられませんよ」と言っていたんです。そういった感覚と、先に触れたYahoo!ニュースのコメントはとても似ていますよね。

今の日本のような経済が拡大しない閉塞した社会で、「国家の貴重なリソースは、よそ者の外国人より我々自身のために使うべきだ」という要求が出てくるのは自然なことです。ここを見逃してしまうと、ナショナリズム批判は、単に「社会から疎外された人間が、国家や民族とかの『大いなる物』に結びつきたがっている」という非常に単純化された話や、「差別は良くない」「他者の排除は良くない」という、単なる道徳主義的なお説教に陥ってしまいます。左翼のナショナリズム批判はそこがダメだと思いますね。

 

宇野 「ネトウヨ」的な世論の背景には間違いなく、「今の日本の景気が悪い」「富の再分配がきちんと行われていない」という心情があるということですね。現代の日本はもはや成長社会ではない、成熟社会としての日本の基礎設計がなされなければいけないのにそれがうまく行っていなくて、その不満のはけ口として排外主義が生まれている。そのことを、ナショナリズムを批判する側の左翼はわかっていない、と。

 

萱野 そうなんですが、たとえ富の再分配や社会の設計が当面うまくいったとしても、「パイが縮小している」という危機感があるかぎり、「このパイは誰の物で、誰がパイを受け取るべき人間なのか?」という議論が出てこざるを得ない。そしてそれは、必然的に国籍や民族のアイデンティティの話に行き当たります。ここが難しいところだと思いますね。

 

宇野 もうひとつ僕の方から問題提起的に指摘しておきたいのは、リベラル側の人たちは「安倍政権の支持層なんて、どうせネトウヨでしょ」というふうに単純に捉えすぎていないか、ということなんです。僕の感覚では、普通のサラリーマンや主婦の人たちが、常識論に基づいて安倍政権の動きを支持している部分も大きいのではないか、と思うんですね。

たとえば「中韓の反日教育に対して何も言わないで、外交でもやられっぱなしなのはダメなのでは?」とか、「戦後民主主義の建前が当時はそれなりに意味はあったのかもしれないけれど、もう冷戦も終わって久しいし、やっぱり常識的に考えて国家に軍隊は必要なんだから憲法にもそう書いたほうがいいんじゃないの?」とか、そういった常識論にもとづいて、ネトウヨではない普通の人たちが憲法9条の改正について考え始めているのではないか、と思うんですね。僕はこうした感性は少なくとも間違っていないと思う。

そういう人たちが抱く「理想論はいいけれど実際の国防や外交はどうするの?」という真っ当な疑問に対して、リベラル派の人たちは昔の左翼のテンプレートで思考が固まってしまっているせいで正面から答えられない。「戦争はダメだ」「憲法9条を変えるなんてもってのほかだ」、というお題目を唱えているだけなわけです。そういう思考停止したリベラル派に失望していった多くの有権者が、いま消去法で「どちらかというと」安倍政権を支持しているという図式があるんじゃないでしょうか。そこが見えていないのが現在のリベラル派の大きな問題だと思います。

1 2 3

その他の記事

世界でもっとも自然災害リスクが高いのに世界でもっとも幸せな国の一つと言われるバヌアツの魅力(高城剛)
「韓国の複合危機」日本として、どう隣国を再定義するか(やまもといちろう)
目のパーソナルトレーナーが脚光を浴びる日(高城剛)
誰がiPodを殺したのか(西田宗千佳)
ようこそ、あたらしい体験「サウンドメディテーション」へ(高城剛)
「価値とは何かを知る」–村上隆さんの個展を見ることの価値(岩崎夏海)
(1)上達し続ける人だけがもつ「謙虚さ」(山中教子)
「履歴」をもっと使おう(西田宗千佳)
スマートスピーカー、ヒットの理由は「AI」じゃなく「音楽」だ(西田宗千佳)
見た目はエントリープラグ? 驚異の立ち乗りロケット「ティコ・ブラーエ」を見てきました(川端裕人)
本当に大切な仕事は一人にならなければできない(やまもといちろう)
「見たことのないもの」をいかに描くか–『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(切通理作)
「消費者安調査全委員会」発足、暮らしの事故の原因究明は進むのか?(津田大介)
話題のスマホ「NuAns NEO」の完成度をチェック(西田宗千佳)
これからの時代をサバイブするための「圏外への旅」(高城剛)

ページのトップへ