川端裕人メルマガ・秘密基地からハッシン!より

川端裕人×松本朱実さん 「動物園教育」をめぐる対談 第2回

川端裕人のメルマガ『秘密基地からハッシン!』Vol.084より、川端裕人×松本朱実さん<『動物園教育で子どもたちがアクティブに! 〜主体的な学びを支援する楽しい観察プログラム〜』をめぐって>を無料公開でお届けします!

松本朱実(まつもと・あけみ)さん

博士(教育学)。動物教材研究所pocket主宰。学習論を踏まえ、動物や動物園・博物館を教材化した理科教育、環境教育のプログラムデザインと評価、教育コーディネートなどを行う。甲南大学/近畿大学/福山大学非常勤講師(学芸員養成課程 アクティブ・ラーニング担当)著書に『動物園教育で子どもたちがアクティブに! 〜主体的な学びを支援する楽しい観察プログラム〜』(学校図書)

メルマガ「朱い実通信 動物園教育~環境教育めぐり」

 

<筆者より>

「動物園教育で子どもたちがアクティブに! 〜主体的な学びを支援する楽しい観察プログラム〜」という本が話題になっています。

動物園は教育の場という認識は、多くの関係者が共有している「コンセンサス」だと思いますが、じゃあ、そこでなにをするの? なにができるの? というのが長年、暗中模索の状態だったのではないでしょうか。

よくあるパターンとしては、なにはともあれ飼育している動物について「正しい知識」を伝えようとするものですね。そこには、この動物はどんな種類でどんな生活史なのか分類学、行動学などの知識は当然入ってくるでしょうし、生息地の状態や絶滅の懸念といった保全についてのメッセージもぜひ入れたいと思うでしょう。そういったことを過不足なく伝えるキーパーズトークをするために頑張っている人たちはあちこちにいると思います。

でも、それだけでいいの? というのは大いに悩むところです。せっかく動物園に来て眼の前に生きた動物がいるのに、まるで学校の教室で講義を受けているのと変わらなくないですか? 

もちろん、目の前にいる動物について、飼育管理の方法や環境エンリッチメントについてなど実例を見せながら、遠くの野生に思いを馳せることは、大いに意味があるだろうと期待できます。けれど、それでも、やり方がちょっと「一方通行」になりがちだというのは、日本の学校の授業と変わりませんよね。

一方、松本さんは、いわゆる「学習者が主体」「能動的な学び」といったことをキーワードに、学びの場としての動物園を探求しています。これは、従来型の動物園教育を「一方通行」から救い出す可能性に満ちたものです。

ぼくは大いに感銘を受けまして、本を読んだ後、松本さんと何度かやりとりをしました。ここではそれをインタビューとして構成します。

かなりマニアックですが、どうぞお付き合いくださいませ。前提としては、「動物園教育で子どもたちがアクティブに!」を読んでいるものとします。あるいは読んでいないけれど、どんな話なのか推し量りたい人も想定読者です。後者の場合には多少わからないことがあっても気にせずに進んでピンとくる部分を探してください。

そしてその後に、やはり読んでください。まあ、どんな本か知りたいだけなら、素直に書評を探したほうがよいかとは思いますが(笑)。

https://www.zoopocket.com/blank-7

前回の記事はこちら!
川端裕人×松本朱実さん 「動物園教育」をめぐる対談 第1回

今回は、第2回目をお届けします。

 
 

「到達点を見る評価」と「学習状況を見る評価」

川端 前回、今、動物園の現場で、2つのことが共感を得るし、また、質問を多く受けると聞きました。それを具体的に教えてください。1つ目は、「評価」でしたね。これは、教育プログラムを行ったとして、その評価を行うということですね?

松本 そうですね。どうやって評価をすればいいかと、よくご相談をうけます。

まず、目標がないと評価ができないので、そのコンセプトを明確化させることです。自分たちはこの動物園・水族館で、このプログラムで、こういうことの理解を図りたい、考えてもらいたい、という目標、軸を、職員間で話し合って確認することが重要です。

そのうえで、評価することになると、大きく分けて、「到達点を見る評価」と「学習状況を見る評価」があり、私は後者を主に研究しています。さらに本の中では、複数の方法を使って学びを多角的に見て支援する方法を提案しています。
 
川端 本で言えば、36ページ以降ですね。

松本 「学習状況を見る評価」というのは、学習者の考えに着目して学びを形成的に支援する評価です。つまり、お客さんの考えに寄り添って気付きや考えを引き出すことです。方法の例としてパフォーマンス評価を本で紹介しました。

言葉を聞くと難しいかもしれませんが、パフォーマンスとは、考えの「表現」です。考えは黙っていれば外から見えません。身体を動かす、絵を描く、談話する、記述するなど、様々な表現を通して、考えを「見える化」させることで、教育者はその考えに基づき、支援することができます。お客さんもまた、表現することで自分の考えや学びをふりかえることができます。

ブリストルZOOの質的評価例や、天王寺動物園の下村さんがはじめたホワイトボードを使う方法などを、動物園で簡単にできる評価方法として紹介しました。お客さんにとって、自分の考えを出発点とした学習活動は実感をもち楽しいものとなり、また教育を行う側も自分たちのプログラムの意味づけができて面白くなります。

川端:このあたりは、お役立ち情報です。ぜひ、本で確認していただければと思います。さて、2つ目にいきましょう。「問いかけ」とおっしゃっていましたが、これはどういうことでしょうか。

 
 

「問いかける」というアプローチ/スー・タニクリフさんの「ZOO TALK」

松本 来園者からの質問に対して、正しい答え、十分な知識を伝えなければならない と思っている職員の方が多くいらっしゃいます。

しかし、すぐに説明を受けると、わかった(つもり)になり、その人は自分であまり考えないかもしれません。また、なぜ、お客さんはそのような質問をしてきたのかというその問題意識をこちらが把握した方が、より相手にとって実感を伴うやりとりができます。ですので、先ほどお話した、学習状況を見て支援する評価方法の一つとして、「問いかけ」が有効です。問いかけ方法をちょっと工夫すると、お客さんの考えを引き出して、学びを深めるお手伝いになり、対話がかみあい楽しくなります。
 
川端 ああ、たしかに、なにかを聞かれたら動物園職員の沽券に関わるとばかりに動物学的な説明をしようとする人っているかもしれませんね。少なくとも、昔はよくいたと思います。で、これに関連する記述は、本の中で69ページあたりから始まっていますが、ここに、ぼくはすごく懐かしい名前を見つけたんです。スー・タニクリフさん。ぼくの「動物園にできること」でも話を聞いている動物園教育の専門家ですよね。

松本 そうですよね。川端さんの本にも登場され、うれしかったです。タニクリフさんには、私が多摩動物公園在職中に参加したIZE http://izea.net/ の国際研究大会(コペンハーゲン、1996年)で初めてお会いしました。その時に談話分析の発表をされていて、このような評価方法があることに、興味をもちました。談話内容をコード化されて、来園者は保全に関わる発話が少ないなど、報告していました。

タニクリフさんの著書「ZOO TALK」では、子どもを引率する教師や保護者はついつい説明をしすぎる。学びを引き出すにはこのような問いかけが有効だとして、Learning access conversationを提起しています。その項目を基に、自分の研究で談話分析の枠組みを構築してみたのが本の69ページから71ページのあたりですね。
 
2014年の香港でのIZE大会でも、タニクリフさん、パトリックさん(ZOO TALK共著者)にお会いし、自分の発表内容(談話分析や描画の質的評価をポスター発表)を評価いただきうれしく思いました。

タニクリフさんに、ZOO TALK の本はたくさんの動物園関係者に読まれていますか? と尋ねたら、現場の人たちにはまだあまり関心をもたれていないということでした。欧米の動物園教育は、保全教育のミッションは明確ですが、保全行動を促すプログラムや、知識・関心・行動の到達点を量的に評価する方法がまだ主流なのかもしれません(『動物園教育で〜』36ページ)。
 
また、ハズバンダリートレーニングのガイドについての発表を一緒に聞いて、タニクリフさんが私に、あれをどう思う? とも尋ねられました。

学位取得や本の刊行のご報告をまだしておらず、改めてお会いしたく思っております。
 
川端 ぼくとしては、自分が20年前にやっていた取材が、松本さんのような動物園教育の専門家から見ても的外れではなかったと分かってうれしいです。タニクリフさんの本の邦訳はないですが、誰かがやるといいかもしれませんね。といいますか、ぜひ松本さんやってください。出版社の人興味ありませんか(笑)。

それはそれとして、「問いかける」というのはあれこれ応用のしがいがありそうなアプローチですね。

松本 タニクリフさんや私が着目した、問いかけの工夫は、現場の職員ならすぐにできる方法だと思っています。職員に関わらず、お客さんにたくさん接するボランティアの方、子どもであれば先生や保護者などだれでもできます。実際、動物園職員の方々と勉強会をすると、その翌日から試してくださる人が何人もいらっしゃいます。ちょっと意識して、聞かれたことをそのまま戻してみたら、子どもの目がぱっと輝いたと教えてくださいました。機械的に用意された知識を伝達する教育ではなく、お客さん自身が考えて納得する教育が、動物園教育に留まらず、今の社会に求められている教育だと思っています。

SDGsに向けた教育でも、学習者を軸とした学習環境を重視しています。
UNESCO,2017:Education for Sustainable Development Goals –Learning Objectives-
http://unesdoc.unesco.org/images/0024/002474/247444e.pdf

(つづく)

『動物園教育で子どもたちがアクティブに! 〜主体的な学びを支援する楽しい観察プログラム〜』(学校図書)

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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