高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

液体レンズの登場:1000年続いたレンズの歴史を変える可能性

高城未来研究所【Future Report】Vol.522(2021年6月18日発行)より

今週は、金沢にいます。

日曜日に「まん延防止法」が解除された石川県は、飲食店の時短要請も解除されたため、夜の街に少しづつ活気が戻ってきました。

金沢の観光施設利用者数最大なのにも関わらず、ずっと臨時休園していた兼六園もようやく開園。
息絶え絶えだった観光業の復活を願う人が多数目につきます。
というのも、就業人口のおよそ10%以上が宿泊業や観光関連サービス業に従事していることから、もう金沢は、観光客が訪れなければ成立しない街になってしまっています。
北陸新幹線が開通し、ホテル客室数が名古屋を越え、稼働の25%〜30%まで膨らんだ中国人バブルもなかった十年前。
古都は、あっという間にテーマパークになってしまいました。

しかし、時代の潮流はあっと言う間に逆回転します。

来年オープンを予定していたJR西日本が手がける金沢駅前ホテル計画は凍結。
すでに金沢駅前にあったユニゾホテルも、昨年10月に閉館しました。

果たして、このまま観光ビジネスが、二年前の半分程度しか戻らないとしたら、金沢の街はどうなってしまうのでしょうか?
いま、「テーマパーク金沢」は、大きな局面を迎えています。

さて、思わぬ中期連載になったカメラとレンズの話しも、ついに最終回。
いよいよ未来の話題です。

デジタルカメラ市場を駆逐したスマートフォンですが、AppleのiPhoneやSamusungのGalaxyを抜いて、世界一のシェアの座についたHuaweiの天下も束の間。
米国からの横槍によって、2020年度は業界4位へと転落します。
次は、どの中国企業が槍玉にあげられるのか騒がれる中、2021年初頭にHuaweiの次のターゲットと言われるXiaomiから、画期的なレンズを搭載したスマートフォンが登場しました。
それが、世界初の「液体レンズ」付きスマートフォン「Mi MIX」です。

レンズの概念が登場してからこれまでの1000年間、被写体との関係性を変えるためには、レンズの光学の構造を変えるか、被写体そのものを動かすしかありませんでしたが、液体レンズは、その形状を変えることができる光学液体材料を用い、被写界深度 (DOF)の制限を克服した画期的レンズ・テクノロジーです。 

通常、カメラレンズはガラスや蛍石などの透明度の高い固体を利用して光を屈折させますが、一枚のレンズでは色収差、コマ収差といった収差が発生してしまうため、高額なレンズになればなるほど、複数枚のレンズを適切な間隔で配置されています。

しかし、液体レンズはガラスなどの代わりに水、油などを用い、液体に電圧をかけることで界面の形状を変化させ、自由自在に光を屈折させることが出来るのが特徴です。
簡単にお話しすれば、人の眼の水晶体と同じ様な働きを持っています。

スマートフォンが登場してから十年強、センサーは小型化し小さな箱に封じ込められても、どうしても物理的なレンズだけは、仕舞い込めませんでした。
その結果、行き着いたのが複眼レンズでしたが、液体レンズの登場により、ついにレンズは物理的制約から解放されつつあるのです。 

また、液体レンズはフォーカス速度と手振れ補正に秀でています。
いままで、トップエンドのスマートフォンは、約350ミリ秒でフォーカスの調整が可能でしたが、液体レンズのフォーカシング速度は、なんと50倍速!
その上、一つのレンズで、標準、マクロ、望遠の3種類の役割を果たせます。

かつて家電メーカーからミラーレスカメラが登場した際、当時、市場を支配していた一眼レフメーカーから「オモチャ」とバカにされましたが、結局、市場はミラーレスカメラが生き残りました。

同じく、液体レンズを伴ったスマートフォンメーカーを、現在、市場を支配しているミラーレスカメラメーカーは「オモチャ」とバカにするかもしれませんが、十年後はわかりません。

その上、既存のカメラメーカーのビジネスモデルは、カメラ本体ではなく、利益率が高いレンズによって成立しています。
自らのビジネスモデルを壊して、既存カメラメーカーからリキッドレンズを持ったカメラが登場するのか?
それとも、物理的な筒や箱の制約を破って、新興カメラメーカーが現れるのか?

このリキッドレンズの未来は、いわゆるカメラに限りません。
あらゆる「自動運転の目」になり、その次は人に埋め込まれる「第三の目」になる可能性があるのです。

レンズは、形状を変える「リキッドな時代」に突入。
2020年代は、1000年続いたレンズの歴史をガラっと変えるかもしれません。
実に楽しみです!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.522 2021年6月18日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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