やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

暗転の脱炭素、しかしそこに政府方針グリーン投資10年150兆の近謀浅慮?


 てなもんやで、先般29日、総理大臣官邸で第10回経済財政諮問会議がしめやかに執り行われました。

経済財政諮問会議

 興味のある方はその辺に転がってる動画でも観ていただきたいのですが、「歳出効率化努力」を払う前提で国家財政を運営できれば基礎的財政収支は25年度には黒字化するぞという、若干ほんまかいなという議論がベースになって、さてそこからどうやって脱コロナ、イノベーション喚起しようって流れになっていくわけであります。

 経済成長のエンジンに「10年間で(政府支出として)150兆円超の官民連携によるGX(グリーントランスフォーメーション)投資、5年10倍増を目標とするスタートアップへの投資などを実行」という、具体的な税金つかみ取りの方針が新たになったなあという感じで推移しております。これで本当に大丈夫なのかという気もしますが、たぶん大丈夫ではないので、岸田政権が続いているうちからの軌道修正やパッチワークもまた必須になっていくのでありましょう。

 その大枠にはみんな大好きデジタル田園都市国家構想による、こちらもイマイチ茫洋とした短冊集の集大成のような仕組みがすでに示されています。で、この辺の関係者と議論していると、幅広な議論を集約して「デジタル田園都市構想ですよ」という話になっているので、政策や予算の全体像をきちんと把握できている事務局の人はおらんのではないかという話になりますし、菅義偉政権の終了とともに実質的に手じまいとなったスマートシティ・国家戦略特区構想の看板かけ直しという図式もまた明確になっています。

 もちろん、昨今のウェブスリー(Web3)界隈も、平井卓也さん方面の自民党筋や、半導体議連で頑張っていた甘利明さん関連の話がいまなお乱舞する中で、アクセンチュアなどコンサル企業のロビー活動的食い込みがある種の利権構造になっていることは明白になっておりますので、このあたりはどこかのタイミングでモリカケ問題に似たような感じで炸裂することもあるのではないかなと思います。岸田文雄さんが悪いというわけではないので、いきなり政権の屋台骨が揺らぐぞという話ではないのですが。

デジタル田園都市国家構想実現会議

 で、これらの一切合切の各項目の方向性については、先に取りまとめられた短冊集にだいたいのことが書いてあります。言うなれば、デジ田も経財諮問会議も骨太の方針も同じような方向性のことが書いてあるのですが、この手の話でよく出る批判というのが「結局は各省庁から上がってくる要望を取りまとめた短冊集でしかないので全体像が分からない」のと「おおまかな方針は示されるものの具体的な詰めは各省庁課長レベルにぶん投げとなるため実際に何を政策的な着地とし事業者支援に結びつけるのかは不明である」などの意見に集約されます。もっとも、腐っても世界3位の経済大国である日本がその経済政策や社会制度政策の方針を考えるにあたってすべての分野において確実に熟達しているわけもなく、みんなケツに締め切りの火を付けられて走り回っているだけという構造ではありますので、誰かが悪いので責任を取らせろというよりはむしろ日本政府という組織、制度の習い性であり、行動規範みたいなものだとも言えます。

 むしろ、私が問題を感じるのは「使い終わったテーマがぶん投げられて放置されることへの懸念」です。先にも述べたスマートシティ構想は、亡くなった安倍晋三さんのころから、意外と忠実に路線を踏襲した菅義偉さんまではかなりガチでちゃんとやろうとしてきた経緯はあります。候補地選定でそれこそアクセンチュア漬けとなっていた会津若松の落選の件だけでなく、採択となったつくば市、大阪市といった選定にあたっては、関係者から「大きな揺り戻しがあった」「政策的な意義についてはかねてより異論のある中で、仕組みとして見直しをする必要があった」と、言い訳なのか正論なのかいまひとつ判別のつかない事情説明があったのもまた事実です。いずれどこぞネット媒体でも「こんな体たらくでよいのか」という記事は書きたいと思いますが、しかし、それもこれも「人口減少下で経済低成長のいまの日本が、大きな投資をぶん回して社会全体の生産性が上がるようなイノベーションの亢進を企図してもなかなか上手くいかないだろう」という全体構造の問題があることは指摘されなければなりません。

 同様に、経済生産性だけのことをまず考えろというのであれば、これらの諸投資を国が大盤振る舞いするよりも、正規労働者を中心に報酬がなかなか上がらない経済構造上の問題のほうを先に手を付けなければなりません。簡単に言えば、人手不足で外から技能実習生を入れてでも労働力を確保しなければならない高齢化の日本が、労働力そのものである雇用・賃金に対してビタイチ昇給がないばかりか労働市場も硬直化してしまい身動きが取れなくなっているという労働政策上の問題もここにあります。旧厚生省と旧労働省が一緒になって、非常にデカく異様に忙しいマンモス省庁ができてしまった弊害もあるのですが、高齢者を支える年金・介護・医療制度も、働く人たちの現実に向かい合う労働政策も、日本人の子どもの減少に歯止めを掛けなければならない出生率改善、育児、教育政策も、おおよそにおいて拭い難い非効率が蔓延してしまっていて、これを「デジタル田園都市ですよ」といって一気通貫に改革を果たすことなど岸田政権には極めて難易度の高いものなのだという理解はしておいてよいと思うのです。

 ぶん投げで言えば、おそらくはSDGs、ESG投資のようなサステナブルで持続戒能な開発経済の問題も、ロシアによるウクライナ侵略で一時的な資源高・欧州へのガス供給ストップで、これらの旗振り役であったはずのドイツを中心とした欧州勢が腰砕けになり、脱原発どころか原発も持続可能なんやとか、天然ガスぼんぼん燃やしてもカーボンニュートラルなのだというようなご都合主義以外の何物でもない軌道修正を余儀なくされて、威信も信頼も何もあったものではない世界観に漏れなく突入していきます。

 一方で、昨今の猛暑や豪雨もそうですが、温暖化による地球環境の悪化で生態系の一部が不可逆なレベルで劣化していっているよという話もまたあるわけで、戦争を伴う政治と経済という人間の都合で脱炭素をやったりやらなかったりするというのもどうなのよという気もしないでもありません。

 このあたりの本当に長期的な問題に対して政治がどう取り組みとして向かい合っていくかは真に大事なことであるのは間違いないのですが、残念なことに、気候変動も少子高齢化も選挙で投票所に向かう有権者からするとまず「雇用・経済政策」であり、次いで「年金・社会保障」が関心事ワンツーであることを考えると、まあ一足とびに改善することなどまずないのだろうなあと思わずにはいられません。

 人間、やはり目の前のカネが一番大事なのだということで。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.376 我らが政府のいたすグリーン投資や経済安全保障話にあれこれツッコミを入れつつ、話題のWeb3教本回収事件の顛末に触れてみたりする回
2022年7月31日発行号 目次
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【0. 序文】暗転の脱炭素、しかしそこに政府方針グリーン投資10年150兆の近謀浅慮?
【1. インシデント1】増殖する「政策ロビー会社」、中核となるコンサルまがい商法に鉄槌は下るか?
【2. インシデント2】Web3入門書販売停止事件の顛末を考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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