やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

イマイチ「こだわり」が良く分からない岸田文雄さんが踏み切るかもしれない早期解散


 個人的には早期解散は無いのかなと思っているのですが、どうも周辺が7月23日もまだあり得るということで、無いと見込みつつも有ったら大変なことになるので事務方以下調査が回らざるを得なくなるのもまた当然のことと言えます。

 繰り返しますが、私は無いと思ってるんですよ。

 ただ、この辺のあるかないかは野田佳彦さんや安倍晋三さん、菅義偉さんなど間近で見てきた人たちのオーラとか周りの人たちに何を言ったか、何をさせているかから「これはあるぞ」とか「あ、これは踏み切らないな」というのは割と読めるもので、岡目八目ではありませんが「ここでは勝てる(負けとは言えないラインを超える)し、踏み切らないと次にやるタイミングが無いから次で負けて長期本格政権にはならないぞ」ってのはなんとなく分かる感じがします。

 私は第一次安倍晋三政権→福田康夫政権→麻生太郎政権という流れではあまり近くで見る機会もなかったのですが、ご同業先輩方は、いつ政権が崩壊するか気が休まらず、また本当に放り投げのような禅譲があったときは非常に苦しい気持ちになったと体験談をお聞かせくださることがあります。尊敬する御大はこの自民党下野から旧民主党政権のどうしようもない機能不全の真っ只中で苦労された経験がおありなだけに、その言葉を嗣ぐ者として、短命政権が安定した政策を実施できず苦しむのは国民であるということで、やはり長期政権こそ国民の利益に資するという認識を強く持っています。

 他方、今回の総大将である岸田文雄さんに関しては、政治家としてのプリンシプルは相応にはっきりとした輪郭を示す一方、あまり明確に外部にそれを仰らないので、側近とされる人物にも漠然とした意向しか降りて来ず、よく「岸田さんは何にこだわっているのか」を推測するという儀式が発生します。

 分かりやすいのは安倍さんが横死され、その悲運に対して岸田さんがいままでの権力闘争とは別の次元で感情移入してしまい、なぜか国是が「国葬の開催」になってしまって特に政権にポイントにもならないのに対策に奔走させられたケースがありました。一番厄介なのはメディアで、しかも国葬するしないなんて政治的にそうたいした話題でもありませんから、有識者も国葬についてたいして詳しくなくコメントも取りづらいのでメディアに「この人にインタビューを出してください」というようなコントロールもしづらいわけですよ。正直、みんな安倍さんの死は痛みつつも、途中まで本当にどうでも良かったと思うのです。

 この前後から、ある事件が理由で最側近と目されてきた官房副長官の木原誠二さんが岸田さんの信頼を失い始めて木原さん経由で総理に話が上がらなくなるわけですが、そういう総理のこだわりに触れられる人が減れば減るほど御前会議で漠然とした内容が降りてきてそれの真意をみんなで想像するイマジンの会みたいなのが立ち上がります。そこでなぜか番記者の方が詳しかったりもするので微妙ですが、とにかく良く分からない。

 これは猛烈に揉めた創価学会の質問権行使から裁判所による解散命令申し立ての是非などのロードマップに絡んでくるし、またG7広島サミットに間に合わなかったLGBT法案、また並行して入管法改正についても、御大将が飄々とし過ぎていて周りも何をされたいのかよく分からんぞということになります。

 さらに、選挙戦をやるやらないとなるタイミングで霞ヶ関では歴史のある恒例行事になってしまった骨太の方針に詰め合わせる短冊集をどうまとめるのかという伝統芸能が発生します。そこに一文入れる入れないで翌年度、翌々年度の政策骨子や予算の盛り込みにダイレクトに影響するものですから、閣議決定で適当に決まる政策方針の中でも超ビッグな代物であるはずなのですが、これがまた見事に話が進みません。選挙があるのだから当然とも言えますが、じゃあ本当に6月15日ごろ解散、7月23日投開票日で決めるとして6月中の閣議決定は強行するのか、いや途中まで作業しておいて勝っても負けても夏に持ち越すのかという話になります。ここには当然防衛費増額や異次元の子育て政策予算なども積まれたうえ、今年の夏がうっかり猛暑だと電力代金の値上げで国民生活は打撃を受けるし秋にはガソリン補助金も実質的に打ち切りとなると地方経済はさらに低迷してしまいかねません。

 一事が万事このような状況なので、調査面でも「岸田さんがどのようなご判断をされても大丈夫なように」網羅的な内容にならざるを得ません。もちろん必要なことですから作業量が増えようが方針が不明瞭だろうが現状の政治状況をせっせとヒヤリングしながら粛々と着地に向けて走るしか方法はないのですが、しかし曲がりなりにも20年選手としてベテランの立場で言うならば総大将の精神的なイラつきがもろに現場まで伝わってくるけど、御大将が何をしたくて手を打っているのかよく見えない中で副や総理室から大きめのアクションが聴こえてくると「ああ、まだご判断には至っていないのだな」という感じになります。いわば、組織的な決定が遅延していることを意味しますから、いろんな意味で緩(ゆる)むわけですよ。字義的にはこっちの弛(ゆる)むなのかもしれませんが。

 そんなわけで、足下の大騒動は創価学会ですが、これはもう岸田政権の問題というよりは、いままで佐藤浩さんと菅義偉さんとの間で上手く阿吽の呼吸で何とかしていた座組みが、その調整弁を失って自民党の本音がダイレクトに創価学会に伝わるようになり、創価学会もそんな嫌われてるなら自民党なんて支援しなくていいんじゃないかという当然の反応になって空中分解しかねない状況というのは間違いありません。これもうどっちサイドからもさんざん話を聞かされましたので、事実は多分そうなのでしょう。

 「そんなしょうもないことで」と感じつつも、山口那津男さんの後継人事を考えて選挙で勝って花道をと思っていたら、まさか足掛け24年の伝統である自民党との連立不調と大阪都構想一服で維新からの優遇満了で大阪兵庫の6議席が下手すると全滅、1議席だけ北側さん勇退からの山本香苗さんだけという状況になると非常に厳しかろうと思います。国政政党としての公明党最大の危機に直面しているといっても間違いありません、それでいて比例は衰えたりといえども前回618万票ですから、まだ全然支えられる状態なんですよ。

 これ、ある程度政治の世界での立ち居振る舞いと、創価学会も含めた普通に暮らす人たちとの生き方に対する意識の差なんだ、と強く思います。政治の世界では剥き出しの利害関係を率直に語るのは善だけど、信仰も含めて慎ましく暮らしている人たちに「お前らは衰退し始めてきたから用なしなのだ」とか名指しで言われたら悲しむのは当然です。信頼関係が地に堕ちるのも良く分かるし、そんなに私らが嫌いなら支援したくないと思うのも当然です。

 よりによって、公明党の中でももっとも学識深くまともな議員として一本立ちをしている岡本三成さんに対して、自民党都連の幹事長として高島直樹さんが言い放った文言はまずいを通り越してあれは宣戦布告じゃないのと思うだろうし、旧12区で自民党から公認出馬予定なのがよりによって人望のない高木啓さんであって、新28区での揉め事も前回旧9区で出馬してさんざんだった安藤高夫さんが自民党都連代表でもある萩生田光一さんの選挙区内でのパトロンだからという理由で公明党との選挙調整をぶっ飛ばすとか、それはもう公明党からすれば信頼関係はないですよね…。

 第三文明で一部情報が解禁になり高島直樹さんの話がダイレクトに出たので、てっきりこれは「高島さんを切れば公明党は許してくださるというメッセージかも知れない」と思ったら、その翌日か何かに萩生田光一さんがブログで強めのメッセージが出て台無しになるとは思いもよりませんでした。これは早期解散であるならば、東京選挙区は小選挙区も一部比例も得票をかなり落すぞという危機感は持たざるを得ません。下手をすれば、新7区に鞍替え出馬予定であった丸川珠代さんや副の木原誠二さん、松島みどりさん、大臣の小倉將信さんも苦戦しかねません。それ以外の自民党議員は当然全滅の様相です。

 遠因としては、かねて東京都連代表であった下村博文さんの時代からおかしかったのだ、と言われるとまあそうなのかなとも思いますが、返す返す菅義偉さんの存在は大きかったのだろうし、左手でしっかりと公明党と向き合い利害調整をし、右手で維新の会と握って政策から立候補調整までやれるやじろべえみたいな芸当ができたのがあの言葉少なな菅義偉さんであり、その点ではやはり傑出していたのだと言えます。

 また、公明党も誠実な組織であって、一連のアレは駆け引きではなく本音だったのだということを、自民党の幹事長職にある茂木敏充さんに読み取れというのもむつかしかったのかなあと思います。いろんな意味で、ボタンの掛け違いというか然るべき能力の人があるべきところにいない不運であり、その不運がひとたび起きると明らかに相互補完的な自民党と公明党との関係も簡単に崩壊してしまうのだ、ということがよく理解できました。

最悪のケースで3勝26敗……自公の選挙協力解消によって、次の衆院選東京選挙区で自民党を待ち受ける壊滅的結果へのシナリオとは

 選挙ドットコムにも経緯については書きましたが、記事書いてるうちにどんどん状況が悪い方向に進んでいって、なんだかなあと思いましたね。ええ。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.407 困難事態に遭遇した海外邦人救済のあり方に危惧を覚えつつ、衆院解散や2024年問題、AIブームなどについてあれこれ考える回
2023年5月29日発行号 目次
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【0. 序文1】グアム台風直撃で取り残された日本人に対して政府に何ができるのかという話
【0. 序文2】イマイチ「こだわり」が良く分からない岸田文雄さんが踏み切るかもしれない早期解散
【1. インシデント1】物流業界限界問題と法制度 実務上の制約から見た働き方改革関連法対応の課題
【2. インシデント2】AIは必ずしも正しい答えを出さないという現実を社会は受け入れられるのでしょうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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