高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

オーバーツーリズムの功罪

高城未来研究所【Future Report】Vol.645(10月27日)より

今週は、バルセロナにいます。

すっかり秋模様になった地中海沿岸部は、夏の観光シーズンも終わって「日常」を取り戻したように思えますが、実際はオーバーツーリズム状態が続いています。

一番人気の観光地であるサグラダファミリアは、当日は言わずもが、たとえ平日でも数日先まで入場券が購入できず、二番人気の観光地ボケリア市場は観光客で溢れかえり、歩くのもままなりません。

単なる混雑ならまだしも、旧市街の不動産価格が驚くほど高騰し、多くの賃貸がAirbnbなど民泊に転用され、住民が追い出される事態に発展しています。
街には「ツーリスト・ゴーホーム」と書かれた落書きが増え、アパートを所有している大家は、地元の人たちへ貸し出すより観光客に貸し出したほうが遥かに儲かるので、地域住民が住む場所がなくなっているのが現状です。
不動産、商品、資産の評価会社「ソシエダ・デ・タサシオン」によると、一部では2008年のバブル期よりもすでに新築価格が上昇しています。

このような状況はバルセロナに限らず、ベネチアやアムステルダムなど、欧州主要観光地はどこも大問題に発展し、住民との軋轢が絶えません。

現在、観光産業は世界全体のGDPと雇用の少なくとも10%を占め、バルセロナのような人気渡航先では観光GDPが15%を超え、これが国際収支と経常収支の赤字を相殺する役割を果たしており、まだコロナ禍だった2022年のスペイン経済の成長率に対する観光産業の寄与率は、60.8%まで高まっています。

バルセロナの旧市街のような観光客が特に多い地域では、3〜4人に1人が観光産業に従事し、口では「オーバーツーリズム」の問題を話しますが、安易に儲かるこの産業を手放す様子は見受けられません。
旅行者の大半が、「地元の人たちしか知らない穴場のバル」を求めるため、数年前には地元の人しかいなかったバルは、現在、殺到した観光客に占拠されてしまいました。
こうして「観光のモノカルチャー」化がスペイン全体で進んでいます。

そこでバルセロナ市は、オーバーツーリズム対策として、7割を超える違法民泊の取り締まりや新規ホテル建設の制限、ボケリア市場の団体入場制限等を実施し、「サステイナブルな観光地」の実現を目指しています。

しかし、これでも、増え続ける観光客の速度に追いつきません。

しかも、中国人やロシア人はコロナ以前のように戻ってきておらず、それでも「観光パニック」状態に陥っています。
このまま世界経済が健全さを保ち、戦争が終わってロシア人や中国人が以前同様バルセロナに大挙すると、パニックになることは想像に難くありません。

今週、バルセロナ市政府観光局長や環境学者、観光を専門にする大学教授にお話しを伺い、データを参考にしながら正しい現状と今後の展望、そして各種対策をお聞きしています。

オーバーツーリズムは、単にコロナ禍の反動なのか、「プラットフォーム経済」がもたらす新しい労働形態や「シェア」の行き過ぎた結果なのでしょうか?

成功事例も含む「オーバーツーリズム」に関して来年一冊にまとめる予定で、観光業を入り口にして欧州の未来を見通したいと考えています。

問題の本質と解決の糸口含め、ご期待くださいませ!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.645 10月27日日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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