やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

古舘伊知郎降板『報道ステーション』の意味





 
 先日来、噂になっていた古舘伊知郎さんの『報道ステーション』降板が決まったということで、左翼業界だけでなくマスコミ全体がざわざわしています。まずは、11年間古舘伊知郎さんはお疲れ様でした。

 で、すでに見聞きしている話を総合してメルマガ本編で記事にしようと思ったら、リテラが完全に事実関係を抑えた記事を出しておられましたので、こちらを読んでいただければ間違いないです。そのとおりです。

『報ステ』降板、古舘伊知郎を追い詰めた安倍政権とテレ朝上層部の癒着!「原発のゲの字もいえない」と不満を

 私ども在野武将みたいな連中からしますと、そこのコメンテーター枠というのは噂の具になるものでありまして、ただ私はこれ以上電波に乗ること自体あまり前向きではないので、ご打診があっても原則として「他の方に頼まれて、なお断られるなどして席があるようであれば」という言い方でやんわりとお断りしています。というのも、私自身に海外出張が多いことと、夕方から夜の時間というのは家族と過ごす時間と決めていて、東京にいるときはなるだけ食卓を囲んだり、子供の勉強を見たりする「予定」がびっしり入っているからなんですよね。徹夜で議論とかもってのほかです。

 で、その報道ステーションのコメンテーターも含めてですが、テレビ朝日はものすごく懐の広い会社で、右から左まできちんと目配せしてリサーチャーから取材まで取り組まれている制作体制でして、その点では物凄く信頼できる人たちが担当されていると思います。いままで何度か取材や事実確認などでご一緒したことがありますが、私が見聞きしている中で、際どい分野や話題のものであっても、これはまったく違うぞというような報道のされ方をしたことは一度もありません。しっかりと両論で出されたり、朝日なりの味付けが話題全体の正確さを崩さない程度に映像にされているという印象があります。どちらかというとケチをつけることも多い私でさえ、報道ステーションやテレビ朝日の報道には信頼を寄せ得る品質と能力を持っていることは理解していただければと思います。

 その報道ステーションに対して、官邸から圧力がかかった云々というのは、リテラに書かれているとおりで、ある程度は、政権が「望ましくない報道」に対してプレッシャーをかけるのは日常茶飯事です。それが良いこととはまったく思いませんが、たとえば事実ではないことや、党派性が明らかに出ていること、特定の政策の本筋を理解させずに反対のための反対を視聴者に喚起させるような内容があった場合は、日常的に関係者に対し「それはさすがに偏っているんじゃないの」ということで是正を求めることはあるでしょう。

 つまり、報道番組というのは例外なく何らかの政策的意図に基づいて情報がリークされたり、恣意的に扱ったりして放送法の定める不偏不党とは程遠いことが頻発する中で、常に圧力にさらされて微妙なバランスをもって放送してきているといえるわけです。久米宏さんが偉かったという話も、故・筑紫哲也さんのすばらしい対応のあれこれも、それが左翼的か政権に批判的かどうかは別としてひとつの「芸」であったと言えます。

 その点で、古舘伊知郎さんは非常なる「正直者」でありました。エピソードはいくつも耳にするわけですが、この人は自分で考える能力のある、非常にまっとうな常識人のレベルであって、あれこれ暴れながらも自分なりの折り合いをきっちりとつけて10年以上本職でないはずの報道で最前線に立ってきたわけです。普通なら、気が狂うか、ビッグブラザーを探して誰かの子飼いにならざるを得ないでしょう。

 この場合のビッグブラザーはいうまでもなく幻冬舎の見城徹さんであり、その背後にはバーニングで芸能界を束ねる周防郁雄さんがおられます。これが良い悪いではなく、そういう仕組みであるということで、その見城さんが安倍政権と極めて近く、その豪腕と人間関係の深さで官邸から愛され、報道に対する圧力釜みたいな役割を担ってメディアコントロールの中枢にいるということは背景として理解しておいて損ではありません。それも、彼らにとってはそれが仕事であり、別に言論の正しさや意義で仕事をしているわけではありませんから、しっかりとメディアに食い込んで、頑張って取り組んでいるだけの話なのであります。

 この構造を差し置いて、報道ステーションで古館さんが降板に追い込まれた、政権に批判的な報道番組の火が消えると騒ぐのは、そもそもお門違いです。本当に政権に批判的な報道が必要だというのであれば、官邸からバーニングに繋がる線でテレビ朝日トップが陥落するようなことのないように、資金的にも影響力的にもがっちりガードをしていかなければならないのは言うまでもないことです。

 何が良いとかどう駄目だという話でも本来はない、というのが今回の降板劇であって、ただただ我慢して報道分野の最前線で最後の一線を守って降板を決めた古館さんに幸あれという気分でいっぱいです。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路

Vol.144 古舘伊知郎降板、パチンコ業界大乱、そして課題山積みのネット広告と世間は年の瀬になっても騒がしいですね
2015年12月25日発行号 目次
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【0. 序文】古舘伊知郎降板『報道ステーション』の意味
【1. インシデント1】2015年大晦日パチンコ業界大乱
【2. インシデント2】ステマ以外にも色々と課題を抱えたネット広告を巡る最近の動向など
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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