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時代を超越した自然と人間の融合

高城未来研究所【Future Report】Vol.702(11月29日)より

今週は、スリランカのアーユルヴェーダ施設「ウルポタ」にいます。

「ウルポタ」は、僕が一番好きなアーユルヴェーダ施設ですが、水道電気ガスがないどころか、部屋にドアもないところですので、滞在者を選ぶ場所です。

今から30年ほど前、何もない場所に小さなヨガのリトリート施設を立てたことからウルポタの歴史は始まりました。
その後、20年前にアーユルヴェーダドクターが参加して、アーユルヴェーダのリトリートとして本格的にスタートしました。

まず、この施設は一般的な観光ビジネスや医療ビジネスとは少し違い、この施設で得た利益から週に1度誰でも通院することができる無料のアーユルヴェーダ診療所を村人たちに提供しています。
ウルポタの運営は、6人の村人で構成された委員会によって管理されており、そのうち2人は常任メンバー(1人は女性、1人は男性)で、残りの4人は毎年交代制になっており、利権化するのを防いでいます。
委員会は必要に応じて創設者たちに相談し、建設や投資の決定を緩やかに監督しているのが特徴です。
ウルポタが周囲の村人のために運営している無料のアーユルヴェーダ診療所は、コミュニティへの恩返しの一例ですが、診療所のほかにも、地元の寺院や神社を支援し、学校、病院、村レベルの慈善活動、水管理など地域支援も行っています。

こうして他に類を見ない地域振興モデルが出来上がって、このシステムこそがスリランカ経済の先行きが怪しくなっても30年にわたって「ウルポタ」が続けてこられた秘訣だと考えています。

また、ここのアーユルヴェーダドクターは、精神疾患に精通しており、スリランカならではの伝統医療ヘラウェダカマをミックスしているのも特筆すべき点です。
ヘラウェダカマは、スリランカの伝統医学で、古代から続くスリランカ独自の医療体系です。
紀元前の時代からスリランカに存在し、古代シンハラ王朝の時代に最も発展。
その後、アーユルヴェーダの影響を受けつつも、地元の植物や文化的要素を取り入れることで、スリランカ独自の医学体系として確立されました。

特に優れているのは、ストレスによる消化不良や胃腸疾患、不眠症、慢性の関節痛や筋肉痛、皮膚疾患(湿疹、アトピーなど)などで、スリランカ特有の植物を使った薬草療法が治療の中心です。
アランダ(Aralu)、ベル(Bel)、クドゥンバ(Kadunumba)などの薬草を用いて、これにココナッツオイルやセサミオイルを混ぜ、特製の薬草オイルを作り、治療されます。

歴史を振り返れば、紀元前6世紀頃、シンハラ人がスリランカに到達した時から、ヘラウェダカマの基盤が形成され始めました。
初期の治療は自然崇拝と密接に関係しており、薬草や祈祷を用いた簡易的なものでした。

その後、紀元前3世紀、アショカ王の影響で仏教がスリランカに伝来すると、仏教僧が医学の普及に貢献します。
仏教寺院は医療の拠点となり、僧侶がヘラウェダカマの医師として活動しました。
そのため、世界最古の仏教寺院ミヒンタレー寺院には巨大な薬草園があり、人々の治療に使われていました。

地元の伝説によれば、ヘラウェダカマの実践を最初に始めたのはラヴァナ王だとされています。
彼は、治療儀式でパンチャンガヤ(花、果実、葉、樹皮、木の根)を使用。
アルカ・プラカシャ、クマラ・タントラ、ナディ・ヴィグナーナなど、多くの文献がヘラウェダカマを使用して個人を治療した記録が残され、過去3000年間にわたり世代を超えて伝えられてきた一連の処方が今も使われています。
古代の王もまた著名な医師であり、王ブッダダサは(西暦398年)は、これらの古代治療法を用いた最も影響力のある医師の一人として、現在も民間信仰の対象となって祀られています。

ヘラウェダカマやアーユルヴェーダの長い歴史を考えれば、ウルポタの歴史はまだ30年に過ぎません。
しかしここには時代を超越したアーユルヴェーダの本質にある自然と人間の融合が残されています。
人間はこの一万年でほとんど変わっていないのに、この50年で急速に我々を取り巻く環境は変わってしまいました。
ビジネスという言葉が、日々正義のようにふりかざされる中、人々は心身ともに健康を失っているように思えてなりません。

近代都市生活は確かに便利ではありますが、不自然極まりない大都会の暮らしを送る中、再び自然とつながることを教え、本来の人間の力を呼び覚ますヘラウェダカマとアーユルヴェーダ、そしてウルポタ。

この施設とシステムは100年後も変わらないだろうなと感じ、僕も一介のクリエイターとして、いやビジネスマンだろうが、すべての人たちは100年後に残る何かを、今こそ考えねばならないと強く思う今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.702 11月29日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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