高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

スマホが売れないという香港の景気から世界の先行きを予見する

高城未来研究所【Future Report】Vol.334(2017年11月10日発行)より


今週は、香港にいます。

11月に入り、香港マーケットは、10年ぶりの高値をつけています。
現在、世界同時株高が起きていまして、この背景には、金融緩和によって世界中で行き場を失ったマネーが、直近のリスクが少ないと思われる株に流れてきているという見方が一般的です。

しかし、街を見渡すと、景気が良いようには見えません。
もう30年に渡り、香港の定点観測地として僕が見ているモンコックの携帯電話ビル「先達広場」では、発売されたばかりのiPhone Xが山積みになっていて、驚きました。



ここ数年の傾向としまして、あたらしいApple製品は常にプレミア価格がつき、「先達広場」ビル内の店舗周辺の路上でも、まるでバナナの叩き売りのように、Appleの新製品が売られていました。
最新機種を求めに「先達広場」に来たものの、あまりに高値なプレミア価格に挫折し、本物かどうか疑わしいが、安価な同機種を路上で買う人たちでいつも賑わう、香港らしい光景が毎回見られました。
この路上で売られている製品のなかには、横流しやバラバラのパーツを組みあげて作られた製品(自動車でいうニコイチ)のようなものもあり、その上、店舗ではありませんので、壊れていたからといって返品できる保証もありません。
ですので、路上での購入者は、その場で持参したSIMを入れて動作を必ず確認しますので、いつも人だかりでした。

ですが、発売されたばかりのiPhone Xは、「先達広場」ビル内の店舗でも、そこまでプレミア価格がついてないどころか、定価と変わりません。
店員に話を聞くと、発売前まで人気の256Gモデルの予約価格は、いまの二倍以上だったが(19000HKD)、想像以上に購入者が少なく、一週間で半値になった(10000HKD)、と嘆きます。
当然、表通りの路上スマホ売りも閑古鳥が鳴いています。
こんな光景、はじめて見ました。

肝心のAppleの供給体制を調べますと、一部の電子部品(顔認識等)の不具合解消などに時間がかかる見通しで、2017年内の出荷量が当初計画の約半分にとどまると報道されています。
ということは、流通量は少ないはずなのに、そこまで香港では売れていないことがわかります。
では、Apple以外のスマートフォン、例えばサムソンや小米が伸びているかというと、「もっと売れないよ」と馴染みの店員は僕に話します。
これは、香港の実体経済を示しているように思います。

少し前まで、香港は明らかにバブルで、「先達広場」に並ぶスマートフォンには、意味不明に「PRADA」や「フェラーリ」のロゴがついた商品を多く見かけました。
いまや、まったく見ることはありません。
かつて、そんなの誰が使うのかと思っていた大型スマホも、まず香港人が使いはじめ、あっという間に中国で流行って、世界の潮流になっていき、Appleも「Plus」と呼ばれる大画面機を発売しました。
長年、世界の携帯電話流行発信源の香港で、いまスマートフォンが売れないのです。

西欧社会に最も近い中国である香港は、いまや東アジアの羅針盤、いや、世界の先行きを示しているように思う今週です。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.334 2017年11月10日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

サイバーセキュリティと官民協力の実態(やまもといちろう)
新宿が「世界一の屋内都市」になれない理由(高城剛)
改めて考える「ヘッドホンの音漏れ」問題(西田宗千佳)
「交際最長記録は10カ月。どうしても恋人と長続きしません」(石田衣良)
6月のガイアの夜明けから始まった怒りのデス・ロードだった7月(編集のトリーさん)
食欲の秋、今年は少しだけ飽食に溺れるつもりです(高城剛)
マイルドヤンキーが「多数派」になる世界(小寺信良)
VRコンテンツをサポートするAdobeの戦略(小寺信良)
「外組」と「内組」に二極化する時代(高城剛)
起業家は思想家でありアーティストである(家入一真)
相反するふたつの間にある絶妙なバランス点(高城剛)
これから10年で大きく変わる「街」という概念(高城剛)
「幸せの分母」を増やすことで、初めて人は人に優しくなれる(名越康文)
野党共闘は上手くいったけど、上手くいったからこそ地獄への入り口に(やまもといちろう)
セルフィーのためのスマホ、Wiko Viewから見えるもの(小寺信良)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ