名越康文
@nakoshiyasufumi

『驚く力』文庫版より

なぜ人は、がんばっている人の邪魔をしたくなるのか

世の中は、他人の足を引っ張る人であふれている。それは、自分が努力するよりも、他人の邪魔をしたほうが、簡単に競争に勝てると考えているからだ。

 

驚く力 矛盾に満ちた世界を生き抜くための心の技法』(名越康文 著)より

 

「人生は長いようで短い」と言いますが、ひとつの道を何十年も掘り下げて学び、成長を続けている人と、そうでない人とでは、五〇歳、六〇歳と年齢を重ねたときには、人生の豊かさや幸福の質に、大きな差が生じてしまいます。

では、そうした継続的な学びを支える「絶え間ない情熱」は、どこから生まれてくるのでしょうか? 受験勉強や資格試験のために一生懸命勉強した人でも、受験が終わり、学校を卒業すると「新しいことを学ぼう」という情熱がなくなってしまうことも多いようです。

学校教育の場では一般的に、「受験」や「試験」を最終的な目標やゴールに設定しています。こうした学びの最大の問題は、「動機づけが弱い」ということであると私は考えています。

極端に言えば、今の学校制度のなかで「学びの意欲」を邪魔しようと思えば、たった一言で十分なんです。

それは「お前、そんなに勉強してどうすんの?」という一言です。

イラスト:伊藤美樹

 

皆さんも、小学校のころを思い起こしてみてください。夏休みの宿題を真面目にやろうかな、と思っていると必ず、そうやって茶化してくるクラスメイトがいたはずです。

 

それは当然なんです。なぜなら、学校の勉強で成績を上げるには、自分が努力するより、他人の意欲をなえさせるほうが一〇〇倍簡単だから。

「競争」で勝つ一番簡単な方法は、他人の足を引っ張ることです。

だからこそ、こういった足の引っ張りあいが、学校だけではなく、日本社会全体で起きているのだと思います。

社会全体が「競争」に軸足を置いている以上、自分が努力するより、他人の足を引っ張ったほうが楽で合理的だと考えるのは当然のことです。これは実は、今の日本社会で生じているさまざまな問題の根本にある、構造的な問題ではないかと私は考えます。

【話題沸騰! 名越康文氏の新刊】

驚く力 矛盾に満ちた世界を生き抜くための心の技法』(名越康文 @nakoshiyasufumi 著)

 

どんな時代でも、
この世界には、
人生を満喫している人がいる。

5000人のカウンセリング経験を持つ精神科医が教える
激変期の生き残り戦略!

名越康文心理学の実践心理学解説本『驚く力ーーさえない毎日から抜け出す64のヒント』が、
リニューアルして文庫版として登場!

 

 

 

名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。 「THE BIRDIC BAND」として音楽活動にも精力的に活動中。YouTubeチャンネル「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。チャンネル登録12万人。https://www.youtube.com/c/nakoshiyasufumiTVsecrettalk 夜間飛行より、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

その他の記事

ファーウェイ問題から想像する強者にとっての心地よさ(本田雅一)
「家族とはなんだって、全部背負う事ないんじゃない?」 〜子育てに苦しんだ人は必見! 映画『沈没家族 劇場版』(切通理作)
検査装置を身にまとう(本田雅一)
アジアの安全保障で、いま以上に日本の立場を明確にし、コミットし、宣伝しなければならなくなりました(やまもといちろう)
『冷え取りごはん うるおいごはん』で養生しよう(若林理砂)
3月移動に地獄を見た話(小寺信良)
一から作り直した「非バッファロー的なもの」–『新おもいでばこ』の秘密(小寺信良)
ゲンロンサマリーズ『海賊のジレンマ』マット・メイソン著(東浩紀)
医師専任キャリアコンサルタントが語る「なぜ悩めるドクターが増えているのか?」(津田大介)
「負けを誰かに押し付ける」地方から見た日本社会撤退戦(やまもといちろう)
川端裕人×荒木健太郎<雲を見る、雲を読む〜究極の「雲愛」対談>(川端裕人)
依存癖を断ち切る方法(高城剛)
2つの日本式システムが内戦を繰り広げる成田空港の不毛(高城剛)
「病む田舎」の象徴となるような事件が多いなあという話(やまもといちろう)
夏至にまつわる話(高城剛)
名越康文のメールマガジン
「生きるための対話(dialogue)」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第1,第3月曜日配信予定)

ページのトップへ