高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

食欲の秋、今年は少しだけ飽食に溺れるつもりです

高城未来研究所【Future Report】Vol.546(2021年12月3日発行)より

今週は、東京にいます。

毎年この時期になると北半球の日照時間の関係から撮影がひと段落し、執筆や溜まった写真の現像、動画の編集時間へとシフトします。
あわせて食事の見直しやトレーニングの時期でもあります。

ここ数年は、細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼ「mTOR遺伝子」のオンオフを心掛けており、この時期になると飢餓モードと蓄積モードを徐々に切り替えるようにしています。

弁護士、起業家から転身した異色の生物科学研究者ジェームズ・W・クレメントによれば、遺伝子mTORの働きが抑制されオートファジーが起動する「細胞の自己浄化(飢餓モード)」と、mTORが活性化する「細胞の成長(蓄積モード)」の割合は、1年のうち約8カ月を異化状態=飢餓モード(オートファジーをオン)に、4カ月は同化状態=蓄積モード(オートファジーをオフ)になるような比率にすることが理想であると、長年の研究結果から述べています。

この8ヶ月と4ヶ月のサイクルは、僕自身も長年の体感から理解できるところで、毎年北半球の太陽光が長く撮影&旅行している3月から10月を、飢餓モード=mTORオフ=オートファジーをオンにして細胞活性化&デトックス=脳のオイル交換を行い「キレ」を出し、執筆や映像の編集にあてている11月から2月を、蓄積モード=mTORオン=オートファジーをオフ=細胞成長=筋力増強期間にして「パワー」を作り、体調を調整しています。

まず、飢餓モード=mTORオフ=オートファジーオンの期間は、一日16時間食事をせず、基本的にナッツと肉しか食べません。
人間のゲノム(DNAのすべての遺伝情報)は、太古の時代から約100万年のあいだに0.5パーセントしか変異しておらず、長い間、砂糖も乳製品もない生活を送ってきた人類は、がんや心臓病、虫歯などとは無縁でした。

約12万年前から3万7000年前にかけて、ネアンデルタール人は相当な肉食偏重で、食事からとるタンパク質の大部分は大型の草食動物の肉から得ていたことがわかっています。
その後、クロマニョン人など現生人類に近い人類の出現と同時に、食料に占める大型動物の肉を食べる割合がさらに増え、動物の肉が食事全体の5割を超えました。

しかし、わずか数千年前にはじまった農耕によって、人間の栄養摂取パターンは劇的に変化します。
肉食の割合は大幅に減り、植物性の食事が9割を締め、農地に近いところに集落を形成。
これにより土地と食料の奪い合いが起き、また、人が集まって定住したことによって大きな問題が発生しました。

それが感染症です。

土地に根差すことで動けなくなった人類は、次々と感染症の餌食になり、食生活の変化から免疫力も大きく損いました。
著名な地理学者でピューリッツァー賞の受賞作家でもあり、世界有数の歴史家として知られるジャレド・ダイアモンドは、農耕は「人類史上最悪の過ち」と述べています。

19世紀に政府の指示で現地に派遣されて先住民の調査をした欧米の医師団は、かつては健康的でやせていた狩猟採集民族が、小麦や砂糖の摂取量が増えると急激に肥満になり、欧米人と同じ文明病(がん、心臓病、高血圧、2型糖尿病、肥満、虫歯、自己免疫疾患、骨粗しょう症、アルツハイマー病など)を発症するようになったと記録しています。
現代人の食生活は、控えめに言っても、身体が進化の過程で築いてきた遺伝的遺産とまったく一致していません。

現在、人類の多くは我を忘れ糖を貪ることから、血糖値と分岐鎖アミノ酸(BCAA)値が上昇し、その結果、1年中蓄積モード=mTORがオン=オートファジーオフになりやすくなってしまい、どんなに運動しても、通年「蓄えモード」に陥ってしまっています。

ではいったい、ご自身のmTOR遺伝子のスイッチングが上手く行われているかどうか、どのように判断すればいいのでしょうか?
それは、血液検査で判明します。

空腹時の血糖値が85mg以上あり、ヘモグロビンA1cが5.4%を超えていたら、年間通じてmTORがオン=オートファジーのスイッチオフの状態が続いている、つまり通年「蓄積モード」で、糖中毒の可能性が高いと僕はみています。
一方、空腹時の血糖値が75mg以下であり、ヘモグロビンA1cが4.9%以下なら、mTORがオフ=オートファジーをオンにする「スイッチング」が上手くいき、糖中毒を脱していることが伺えます。

先日、金沢で行ったファスティングツアーでも、一週間前に採血して各人のデータを見ましたが、ライトコース・ユーザーにはスープを提供する一方、ハードコース・ユーザーは、スープの提供をせず、水とC8オイルだけを大量に飲んでいただきました。
その理由は、動物性タンパク質の摂取量を減らすとIGF-1値が低下し、mTORの作用が抑制されて(オフ!)、オートファジーが活性化するため、体内の不要なタンパク質や細胞小器官が分解除去されやすくなるからです。

こうして短期間にケトンを誘発してケトーシス状態に入ることができれば、mTORがスイッチングされるだけでなく、脳機能が改善されることがわかっています。
つまり、脳のオイル交換が促進されるのです。

さて、現在の僕は空腹時の血糖が50mg台と低いこともあって、mTORをゆっくりONにしながら、上手にカーボローディングする必要があります。

毎年、玄米を食するシーズンですが、今年は日本にいる時間も長いことから赤酢の鮨屋などを巡って、いままでにない食事を取り入れながら、あたらしい体感を楽しみにしたいと思っています。

食欲の秋とは、実はmTORのスイッチングの合図。
今年は、少しだけ飽食に溺れるつもりです。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.546 2021年12月3日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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