やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

長崎県の政界汚職でハンターさんが巻き込まれた件


 「ハンターさん、可哀想」の声もたくさん上がった鹿児島県警の事案からの流れで、やはり長崎県知事・大石賢吾さん周辺のネタは非常に騒がしくなってきており、本丸臭い記事も出ていました。長崎地検から事情聴取を受けた県議だけで10名以上というのはなかなか痺れる者があります。

緊迫する大石長崎県知事の周辺|「政治とカネ」、次々浮上

 2022年のごうまなみ県議の政治団体「ごうまなみ後援会」から286万円を借り入れた政治団体「大石けんご後援会」が、利息払いをごう側に流したので貸金ネタやんけというのが入口の嫌疑になりますが、ここで適法だからと案件を後押しした大濱﨑卓真さんはともかく(たぶん彼自身はお咎めなしになるだろう)、実際には長らく長崎県政や自民党長崎県連内で繰り返し起きてきた不透明な資金や公認の流れにメスが入るんじゃないのかなあと思うわけですよ。

 というのも、前回長崎3区の補選で、東京地検に告発されて議員辞職に追い込まれた谷川弥一さんは、自身の後継候補を立てることなく減区となる長崎3区を長崎県連が丸ごと見捨てる形で立憲VS維新という保守王国的にはちょっとあり得ん構図の選挙となったのは記憶に新しいところです。その前に長崎総局の榧場勇太さんが割といい感じの記事も書いていて、たぶん朝日新聞もネタ抱いたまま何かあったら出そうと思ってるんだろうなって感じるわけですよ。面白い記事なので読める人は是非どうぞ。

公民権停止となった谷川弥一氏 派閥に捨てられた「離島のドン」は今

 で、肝心のハンターの記事では「286万円を寄附扱いにして、貸付金利についてはごう県議側から大石知事側に戻された」ということで、利息をつけた(=利益を出した)貸付金スキームを政治団体同士で行ったことを突破口にしている話になっているものの、こんな小さい、7万円とかその程度のカネを根拠にやっているものではなく、数千万単位で疑義のあるおカネが動いたんではないかという話が本丸であって、そもそも22年に県政与党である自民党が当時現職と新顔とで分裂したのも本件利権構造があるからだとも言われています。

カジノ含むIR 長崎県の計画"不認定"を国が正式発表 知事「国との認識の差がある」《長崎》

 それでもハンターの報道で泡を喰い、慌てふためいて鹿児島県警まで巻き込んだ騒動になったのも、当時長崎IRの評判を下げたハウステンボスの親会社であるHIS澤田秀雄さんの不祥事が影響し、オシドリ(香港系中華資本と判明して頓挫)、オーストリアカジノ(資金調達がままならず順延)と、HIS社以外の候補も次々と轟沈して後がなかった面もあります。

長崎IR不認定 資金調達の「壁」越えられず 再挑戦はハウステンボス次第か

 その点で言えば、一連の政治資金の問題も一面では「利権構造や公認争いの果てに乱舞した実弾」もありつつ、実際には冴えない長崎県政において乾坤一擲の策だったカジノも失われつつある中で裁定でも何かしようともがいた結果がしょうもない利益融通の構造になったとも言えます。

 また、長崎政界でもっともカネの扱いに長けていた谷川弥一さんも、報道の通り正直「なんか言ってくるけど中身のよく分からない爺さん」の面が強いんです。いろいろプレッシャーは掛けてくるけど何をしたいんだかよく分からない。

 かなり前なので現在の問題をあれこれ申す根拠にするのも気が引けるのですが、安倍政権成立後、まだカジノのカの字も出てきていなかったころに長崎観光誘致で谷川さんが「議員団」を東京まで連れてきてあれこれ宴会もご一緒したりもしましたけれども、この人たち何がしたくて東京名店中華食べてるのってなるわけです(註:長崎にも東京に負けず良い中華料理屋は多い)。

 万事そんな感じなので、長崎は往々にして「衰退しすぎて仕切れていない」って感じのトラブルが多かったようにも記憶しており、変な陳情が多い県ランキング上位であることはまあ間違いありません。すごい悪事があって、どろどろの黒い政治資金が蠢いてってよりは、なんかよく分からねえけどとりあえずカネ積めば誰かうまく回してくれるだろっていうような田舎成金の金遣いの適当さみたいなところが本丸ではないのかと思います。

 最後に、県知事として本来であれば疑惑のど真ん中にいるのでもっとフィーチャーされていい大石賢吾さんについて言えば、まあなんというか、何でこの人が知事なのというぐらいにおとなしく冴えない面があり、あんまり波風立てずにお神輿にそっと座るような人なんですよね。当事者能力があんまりないというか。

長崎知事後援会に「承認ない多額の出金」 「詐欺」主張も説明避ける

 県連多数の言うことを聞かなくなったベテラン知事を多選批判で降ろすにあたり、若くてある程度言うことを聞いてくれるやつを担いで勝ってみたら、物事をあんまり決められない系の無能だったというオチではないかと思っていて、ただ誰に聞いてもそこまで悪い評判もなく、降ろす必要もないからいままで担いできたんだぞぐらいの風評しかないのです。

 その結果、本来であれば3選前にもう少し長崎3区補選に(自分が出るかはともかく)介入の意図を見せたり、人選に口出しをしたりする経緯があれば「色気のある知事だな」って感じになったんでしょうが、誰からもほとんど相談されず、意見が取り入れられることもなく、何のために知事やってんのぐらいに言われているのは本人にとっても残念でしょう。

 なので、こちらも「もの凄い有能な政治家がおのれの野心の実現のために薄汚いカネを持ってきてでも達成しようとする」という前向きなスキャンダルというよりは「なんとなく爺さんがたの古き良き自民党政治のカネの回し合いに抗い切れず、適当に物事を進めた結果、脇からつつかれるレベルで小汚いカネが入っちゃっていた」というしょうもないネタになってしまうのではないかと怖れています。

 なにぶん本件は関わる偉い人を含めて関係者全員がまあまあ小心者なので、各メディアに「いま何が報じられそうか?」「どこが何を書くか?」って敏感になっちゃっている一方、そういう手の話にまともに対応しちゃった鹿児島県警がババを引いて派手にやらかしてしまったというのは運の尽きを感じます。もちろんハンターさんに出かけて行ってデータだけ消しちゃうとかアリエンティと思うんですが、裏を返すと「こういう小さいネタの話で良かったね」と思わないでもありません。民主主義的にも警察行政的にもよくないですが。
 

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Vol.446 長崎県政界汚職のグダグダっぷりに呆れつつ、都知事選に都民のしたたかさを痛感したりランサムウェア界隈の凶悪化について語る回
2024年7月2日発行号 目次
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【0-1. 序文】そろそろ真面目に「クレジットカードのコンテンツ表現規制」に立ち向わないとヤバい
【0-2. 代表質問】山本氏の『ボク言いましたよね』の真髄を知りたい
【1. インシデント1】告示前に終戦してしまった東京都知事選挙
【2. インシデント2】ようやくゴミeKYCがご臨終の件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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