7月20日投開票の参議院選挙では、自由民主党は与党としてなかなかお訴えが有権者に伝わらず、50議席と低めに設定されていた勝敗ラインをも下回る敗戦で終わってしまいました。もっとも、中盤情勢では自民党の獲得議席予想が31議席から33議席に落ち込む数字も出ている中で、終盤に向け何とか有権者の皆さまのご支援で盛り返せた面はあるのではないかとも思っています。
勝手連的にいろいろ触らせていただきましたが、頑張りました。頑張りましたが、それはもう昨年11月ぐらいから「これやっときましょう」「あれは手配しておきましょう」みたいなことは昨年の衆院選敗退からずっと申し上げてきたわけで、その手当てがきずにそのまま都議選、そして参院選に突入しこのありさまということは… もうご理解いただけますよね。できることはやろうと申したつもりですが、残念です。
他方で、公明党さんが獲得議席8議席と、改選前14議席からしますとかなり議席を落とす結果になってしまいました。自民党にまつわる「政治とカネ」の問題、そして自民党公認問題というケジメのところがつけられず、結果として、支援団体の皆さまに対しても説明のつかない決着となってしまったことは、今回もまた巻き込んでしまった形になり非常に申し訳なく思っております。
公明党さんについては、私の立場で申し上げるのは何ですが本当に申し訳ないと思っていますし、公明党さんと支持団体との間でのいろいろな悶着も、元をただせば自民党の「政治とカネの問題」が起因であって、それがいまだ、きちんとした脱却ができないままこんにちに至ってしまったことが問題の根幹であるという話に尽きます。岸田文雄政権においては派閥解消の方向へ舵を切り、また、石破茂政権も公認においては各段の配慮をするはずだったのが、なんだかんだ森山裕さんの方針に引っ張られて裏金議員も無事公認という流れになってしまうとやっぱり公明党さんからすれば「何であんなのを応援するんだ」と言われるのもまた当然であって、どうしようもないだろうと思うわけdす。
振り返れば、6月22日に行われた東京都都議会選挙においても、24年末に大きく報じられた都議会自民党のパーティー券収入未記載議員の公認問題も絡み、幹事長経験者6名に限って公認を見送り非公認での出馬とする方針になってしまいました。これが、都議会公明党の東村邦浩さん他公明党幹部の皆さまのご意向に沿うことができず、公明党候補が立っておられない選挙区をや、公明党さんからの推薦を頂戴することができないまま選挙戦に突入し公認候補において改選前31議席から21議席へと大幅に獲得議席を減らす結果となりました。惨敗であります。落選した都議候補の中には、自民党として、将来をかなり嘱望していた人物や、都議会自民党要職にあった人物も落選の憂き目に遭い、また、次世代の自民党地方議会を担う新人が多数当選に届かなかったというのは忸怩たる思いがございます。
これは、1999年(平成11年)10月、小渕第2次改造内閣から足掛け25年、2012年12月に第二次安倍晋三政権の成立から12年続けてきた自民党と公明党による連立政権に対する、国民の皆さまからの評価が相当に落ちてきていることへの危機感を強く感じずにはいられません。
振り返れば、選挙戦の構造についてさまざまなご意見や調査結果、論調も踏まえ、なぜ勝てなかったのか、お訴えが届かなかったのか、多様な角度からの分析も進めてきておりました。しかしながら、今回単体で申し上げるならば、なぜか選挙の有力な争点が「外国人『問題』」とされ、また、「消費税減税」にセットされた結果、国内で働く外国人や外国人観光客も、社会保障制度を支えるための消費税も、国民からすれば「負担になっている」「不安だ」という漠然とした不安や不満に巻き取られて責任ある政策議論にはなかなか発展させることができませんでした。政府は仕事をしているつもりなのに、国民には政府の働きが悪いので自分たちの生活が良くならないという物価高も含めた実感と共に支持を減らしていく構図です。
そもそも、人口減少下で日本経済、特に地域経済を回していくには外国人の皆さまに日本を選んで戴き、日本で働いて戴き生産性を維持する必要があります。人が減っているのですから、当然そのままの経済規模を維持しようと思ったら外国人に来ていただいて働いてもらうしか方法がありません。また、高齢化で社会保険料が上がっているだけでなく消費税も維持しないと財政が回らないこともまた確実なことです。税収の上ぶれもあったのだから財源として国債をどんどん発行すりゃいいじゃねえかという議論になりつつも、足元で起きていることは我が国の国債の信用度が下がり、消化がおぼつかない情勢になってきています。極めて危機的な状況になっていることは明白なのに、まだ財政的に余裕がある、国民に還元できる資金が国のどこかにある、それらは政治家や役人が不必要なカネをばら撒いているので国民負担が下がらないのだ、という議論が起きてしまい、これの火消しがうまくいかなかった結果として、選挙の争点が「外国人」や「消費税」といった分かりやすくも間違った争点になってしまったとも言えるのです。
今回、自民党は敗勢への総括のため、両院議員懇談会を7月31日(やまもと註:執筆時点では31日でしたが、その後、開催が前倒しになり28日となりました)に開催し、昨年の衆議院選挙、今年の都議選、そして今回の参院選の敗戦の責任を取る形で総裁・石破茂さんを退陣せしめるのかという議論となりました。ここで、石破茂さんを総裁からおろし、総裁選を行って別の人物を総裁に担ぐことの是非を問うため、議決権のある両院議員総会を7日以内に開くよう各議員・都道府県連代表者に対する署名集めが始まっています。
正直、これがどう転ぶかは分かりません。過去の石破茂さんの麻生太郎さんへの発言もありますし、実際3連敗していることは間違いのない事実ですから、党勢衰亡の責任を取って石破茂さんに責任を感じているのならば自分からおりろという議論になるのもまた当然のことと言えます。
ここで問われるのは、このような大きい選挙を三連敗に導いた石破茂さんの責任と、党勢が衰亡している自民党の立て直しをどうするのかという大きなビジョンをどう構築し実現していくのかです。言い換えれば、いま日本で問題となっているのは「外国人」でも「消費税」でもない、もっと大きな政治のテーマを政府がきちんと設定し、国民に問いかけ、この問題を解決できるのは与党自公政権なんだと言えるようにすることがすべてだということです。
どうしても仕事として政治を見ていると、いままでの政治的議論や政策の方向性を知っているので、その延長線上で適切に手配をすることで正しいことをし、それを広報すれば国民はしっかり理解し正確に把握してくれるはずだ、にもかかわらず、党勢も政権支持率も低迷するのは国民への「政策への『正しい理解』が浸透しなかったからだ」と考え、打つ施策がすべて「やっていることへの広報」になってしまうのです。
しかしながら、また別の視点として、選挙結果や状況調査をやっている側からすると、国民有権者で投票箱にいる人のほとんどは「分かっていて、自民党に投票しない」し「自公政権・自民党や公明党を本来支持しているが『今回は』国民民主党や参政党に投票している」という構造のように見えます。つまり、いまの政府のやっている中身を理解したうえで、なお、自民党や公明党に投票しなくなっている、それも、自民党支持者が、ということになるのです。だからこそ、自民党支持者の2割ぐらいが投票箱に行かず、投票箱に来た自民党支持者も「全部わかったうえで」参政党や国民民主党、立憲民主党、チームみらいなどに票を投じた人が4割超いらっしゃる、ということなのです。
これらは、その場限りのマーケティングの話ではなく、また、自民党の岩盤保守層の移動だけでも説明がつく問題ではない、単純に国民にとって「自民党が政権として打っている施策に魅力がない」ことに尽きます。言い換えれば、支持していても票を投じないのは「自公に夢を感じない」ので、チェンジを期待しているわけです。
「じゃあどうするのか」という話になるのですが、実は、これなら勝てる方針にできるだろうという策はたくさんあります。それこそ、国民が求めるなら財務省でも解体したらどうですか。社会保険料が高いなら税方式に一本化したらいいんじゃないですか。もちろん、財務省はなにひとつ悪いことはしておらず、社会保険料を税に付け替えても国民負担で医療現場や介護を支えないとならないことには変わりありませんから、そのような「改革」に何の意味もないことは分かったうえで、です。
これだけ国力が衰退し、労働者人口が減り、将来の社会保険料負担が大きくなることが確実であるならば、自公でないとできない改革、いままでの政策が分かっているからこそできる経済プランを総動員して、国民に、これならいまより明日がよくなると思える争点を打ち出すことに尽きます。極論、176万円の壁のような議論が吹っ掛けられて、125万円だ、いや150万円だと小さい方向にいうのではなく、うるせえじゃあ250万円「相当」だ、その代わりこの改革が必要だ、という青写真を展開するべきポジションがいまの自公政権であり、石破茂さんの仕事だということです。
で、国民の嫌がることそのものですが、どこかのタイミングで社会保障改革をやるのであれば『増税』しないといけません。貧困層が騒ごうが、実質的に目減りする年金では暮らせない老人が困ろうが、おそらく消費税を上げないともたないんじゃないかと思っています。また、生活保護のほうが年金よりも高額の支給となり、自治体負担もあることも考えれば、ここにも大きなメスは入れないとならないでしょう。
必ず「高齢者を棄民する代わりに外国人を入れるような政策を推進するのは駄目だ」という反論が出るようになります。絶対に「日本を守れ」的な議論が出ることでしょう。しかしながら、これはもう撤退戦であり、高齢者を支えられる財源はなく、労働者は減る一方なので政治的には厳しい、困難な状況の連続になるのです。タワマンに住んでいながら「みんな一緒に貧しくなろう」で批判された上野千鶴子さんの議論じゃありませんが、生産性を上げられないのならば、貧しさを平等に、納得して分かち合う政治にならざるを得ません。
「なら、生産性を上げればいいじゃないか」と言われますが、いま、地方交付税も含めて地域の赤字を補填するために、輸出産業がせっせと納めている法人税を生産性ゼロどころかマイナスの地方経済に『地方創生2.0』の名のもとに自治体再々編もせずばら撒き続けている現状と、それにぶら下がっている地域住民・有権者をどうにかしない限り生産性が高くなることも、論文数が増えることも、世界で売れる革新的な新製品やサービスを展開するちゃんとしたベンチャー企業もなかなか生まれてこないことでしょう。この辺のことは、公論として外でやることも、政策目標の設定として中でも話すことも私なりにしてきました。いろんな制約条件がある中で結論を出す仕事になるのは当然ですから、自分の意見がたとえ言ったことの一割しか通らなかろうと、言い続けていくしかないのだろうとは思います。
他方で、日本で改革が進まないのは、バラマキでぶら下がっている有権者の数が増えすぎ、また、ほとんど納税せず、担税もしていない低所得者やおひとりさまこそが、既得権益側になってしまったからです。生産性を引き上げなければならないのに、生産性の低い人たちの声が大きく、「外国人」や「消費税減税」という生産性を下げる方向に寄与する政策への支持が増えすぎていることが背景にあります。
古くは、福島第一原発事故にあたって原子力稼働ゼロにしたり、アベノミクスで大規模な金融緩和をやり過ぎた時期が長引いたり、原則として、国富が海外に流出する方向の施策が長く行われ過ぎてきた弊害が、いまの日本の貧しさに直結しています。ある局面においては、原発を見直すべきなんじゃないかとか、ゼロ金利で景気刺激し行き過ぎた円高を中和させ国内雇用やインバウンドを増やせるんじゃないかとか、政策の価値があった時期は確かにありましたが、やり過ぎた結果、数百兆円という途方もない額の国富が海外に出て行ってしまって、何の見返りもなくただ国が貧しくなるだけだった、という政治から、自公がいかに『政策的に正しく』脱却できるのか、というのがポイントになるはずなのです。
減っていく若年人口をいかに最適に各産業分野に市場の力をおおいに借りながら配置し、生産性の高い経済に引き戻していくかが大事なのであって、そういう政策を責任もって続けていける政権・政党はどこなのかということはもっときちんと理解したうえで国民に「夢を持ってもらえるパッケージを作る」作業をしなければいけないのでしょう。
*
蛇足ながら、国債消化が厳しくなり財政が崩壊しかねない状況で、一足先に国内経済が総崩れになる直前で逆転ホームランを打ったのは、紛れもなく赤沢亮正さんと対米関税交渉対策チームであったことは指摘されなければなりません。本当にありがとう赤沢亮正。そして彼を信じ、正しい方針で粘り強く交渉をさせてきた石破茂さんの大ヒットだったとも言えます。日本経済にとって、この「第二解放の日」こそが本当の国難であったことは言うまでもなく、それだけアメリカによる関税は日本経済にとって巨大で、赤沢さんが取りまとめた232条関税の国別引下げは画期的だったと言えます。
この話を抜きにして、今後の政局と政策の結節点を語ることはむつかしいのであって、一連の内容をすべて理解して政策運営を責任ある形で進められるのはやはりいまの石破茂体制しかないのではないかとも思います。というか、高市早苗さんや小林鷹之さんでは本当に無理でしょうから。
場合によっては、石破茂さんが勇退した後、総理に赤沢亮正さんをという話が合理的だとすら思います。そのぐらい、最後の最後で同点ホームランを打ってくれた赤沢さんには感謝してもしきれないぐらい、真に優れた政治家の手腕に任され、結果を出すまで我慢した石破茂さんの功績は大きいのです。ほとんど票にはならないのですがね。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.483 参院選で敗れた自民党の先行きを思案しつつ、前澤友作さんの申告漏れの件や米トランプ政権のAI政策について語る回
2025年7月29日発行号 目次
【0-a. 募集】『漆黒と灯火』第19期若干名募集のお誘い
【0-b. 序文】自由民主党・両院議員懇談会からの混乱に寄せて(メルマガ向けedition)
【1. インシデント1】前澤友作さんの税務調査絡みでの話で思うこと
【2. インシデント2】米トランプ政権がAI政策でアクセルをベタ踏みすることにした件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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