高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

IR誘致に賭ける和歌山の今が象徴する日本の岐路

高城未来研究所【Future Report】Vol.490(2020年11月6日発行)より

今週は、和歌山にいます。

和歌山は、明治から日本を代表する紡績工場の集積地として発展してきました。

気候温暖なこのあたり一帯は、元来、綿花の栽培に適していましたが、藩政時代の中期に、綿布の横糸に粗紡綿糸を用いて保温力が優れた「紋羽織」を作り出し、全国的に名を知られるようになります。

古くは1700年代後半に松葉で毛羽立てた防寒用特産物、明治時代に入ると、木製の手機織機による木綿織物「紀州ネル」と、次々と時代のアパレル・ヒット商品を作ります。
この「紀州ネル」は、軍服用の需要が増大したこともあって、第一国立銀行や理化学研究所、東京証券取引所を作った渋沢栄一の手により巨大な和歌山紡績会社が設立。
この巨大企業が生まれたことで、周囲に染料、化学工業、機械工業が湧き上がるように起こって一大産業集積地として成長に拍車がかかります。
戦前戦後を通じて栄華を極めますが、1990年代に入ると大きな曲がり角に差し掛かり、その要因は、日本のバブル経済崩壊と中国の台頭によるものでした。

その後、この30年でピーク時の10分の1以下まで売り上げを落としている企業も多く、かつての勢いが嘘のようですが、そんな中、いまも変わらず、シャネルやグッチなど世界中のメガメゾンからオーダーが殺到している工場があります。
それが、吊り編み工法の工場です。

英語でLoop wheelと呼ばれる独特の風合いを持つ「吊り編み工法」は、1940年代後半から1960年代中盤の米国黄金時代のmade in U.S.Aを代表するスウェット地として知られています。

しかし、この編み機は1時間に1メートル程度しか生地を編めません。
非効率的な機械ゆえ、時代の趨勢により、米国の吊り編み工場も東京や大阪にあった工場もすべて消え去り、世界で唯一残ったのは和歌山だけとなりました。
また、昔ながらの編み機を扱うには目・耳・手など全ての感覚を必要とする技術力も必要なことから、後継者を育てるのも難しく、いまや和歌山で中小あわせても4社しか生産できません。

現在、世に出回っているほとんどのスウェットは、シンカー編み機と呼ばれる大量生産向けの高速編み機によって生地が編まれていますが、決して、肌触りの良い風合いとは言いづらい製品です。
そこで、古き良き時代を見直すように、「TSURIAMIKI=吊り編み機」のオーダーが世界中から和歌山に集まるようになったのです。

今週、僕がこの地を訪れたのは、一年がかりで取り掛かっている「究極の部屋着」素材の最終チェックのため、泊まり込みながら工場と打ち合わせを続けています。

いままで同様、着心地の良さを求めていますが、今回はさらに一歩進めて、「ワンマイル部屋着」というコンセプトのもと、単なる部屋で着るウェアではなく、ちょっとそこまで出歩ける「半径800メートルのウェア」を考えています。
真冬でも、パッと上着だけ羽織れば、近隣に出歩いても恥ずかしくなく、かつ室内では、心地よい着心地が病みつきになるような中毒性があるウェア。
そんな多用的で長い時間着用できる服を作りたいと思い、和歌山を回っているのです。

翻って現在、和歌山はIR誘致に起死回生を賭けているように見えます。
マカオの「サンシティ」が有力候補だと地元では密かに話されていますが、「和歌山のマカオ化」のような街そのものを金融商品にするのか。
それとも、イタリアの小さな村が、「世界的な職人の街として再興」したような自らの力で進む道を選ぶのか。

本来、後者の道はどの地域でも進める「道」ではありませんが、有力政治家の力技によって、次々と作られた県内の「不要な道路」を見る限り、和歌山は、インバウンド同様、安易な外貨獲得とゼネコン主導による前者を目指すと思われます。

1990年代初頭に、日本のバブル経済崩壊と中国の台頭により、どこよりも先にシャッター通りがはじまった地域、和歌山。

ここは、日本の岐路そのものなのかもしれません。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.490 2020年11月6日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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