切通理作
@risaku

切通理作メールマガジン「映画の友よ」より

『STAND BY ME ドラえもん』は恋する時間を描いた映画

※この記事は切通理作メールマガジン「映画の友よ」2014年08月02 日 Vol.017
<今号のイチオシ!『STAND BY ME ドラえもん』は恋する時間を描いた映画>に加筆・修正を加えたものです。

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『STAND BY ME ドラえもん』は恋する時間を描いた映画

STAND BY ME ドラえもんdora-compressor

8月8日公開!

 

ドラえもんを3DCGで再現した長編映画と聞いて、どうなるものかと思ったら、これが大当たりの映画であった。

3DCGといっても、変に人間に近づけるような、リアルなディテールを付け加えることはしていない。むしろ、原作漫画の表情に見られる、ブツブツ言う時に口が「3」の形になる味わいをそのまま残そうとしたりと、マンガらしい動きに質感を持たせたものになっている。

ドラえもんが初めてのび太の部屋にやってきた時、部屋のライトをつけるところは、見ていてハッとさせられた。まるで実写のセットのように、同じ薄暗い空間がくっきり鮮明なものになる。

だからこの映画の最後、本編のドラマが終わった後、役者のNG集よろしくのび太やいつものレギュラーメンバーたちのビハインドシーンが出てくるのも(最初から作りものなのだから)現実にはあり得ないと知りつつ、実際のことのように楽しめる。

セットの中で演じられることが意識されているという点においては、ある種演劇っぽいともいえるだろう。

のび太の家関連の背景は1/6サイズのミニチュアセットが作られ、立体から起こされているという。同じ山崎貴監督(本作では八木竜一監督と共同)の『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)での、VFXに対する取り組み方の延長でもあるのだろう。

ただ「70年代の風景が再現!」というような、ノスタルジックなイメージは、今回あまり強調されていない。

携帯電話も出てこない、空き地の原っぱやキャッチボールが似合う世界だが、むしろ、余計な現代的粉飾を付け加えず、その世界を「いまある」ものとして当たり前に見せるために、最新かつ細心の技術が施されている。

これは私事でありまた重要なことだと思っているのだが、山崎、八木両監督と、これを書いている私は同い年で、子ども時代『ドラえもん』を読んで育ってきた。

だから、今回の映画化作品で展開される、車が空を飛んでいるような楽しい未来予想図は、「僕ら」が子どもの時に、絵本などで見て、いつか来ると思っていた未来そのものである。

それが、まるで『スター・ウォーズ』の特別編集版で付け加えられた未来都市の描写のように、『ドラえもん』原作の世界を膨らませ、スクリーンに縦横無尽に展開される。

ドラえもんは、タイムマシンの出口がそこにたまたまつながった、のび太の学習机の引き出しから出てくるのが、物語の最初である。

未来を見つめる物語でありながら、それは小学生の日常との接点であらわれる。

小学生の読者目線を忘れない作りにこだわっているため、のび太の学習机はリアルに再現され、鉛筆立てや、立てかけてある本や辞書が、まるでそこに本当にあるように、小道具として活きている。

着せ替えカメラ、アンキパン、ガリバートンネル、ガッチリグローブなどの、原作お馴染の「ひみつ道具」も、原作の精神を損なわない範囲で、おしゃれ家電のイメージになっていたり、どんなメーカーがどんな背景でそれを作ったのかが想像できる、なかなかに凝ったものとなっているのも見逃せない。

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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