やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

嗤ってりゃいいじゃない、って話


 ベンチャー界隈というのは不思議なところで、そこにいる全員みながうまくいくことなど絶対にない、一種の「囚人のジレンマ」の世界であるにもかかわらず、誰かが増資したらおめでとうといい、上場したらパーティーを開いて経営者同士が仲の良いことをアピールし、だれかがうまくいかないと「彼はナイストライだ。失敗はしたけど、精神的にはピュアでタフな男だった」と持ち上げたりするわけですよ。

 ところがですね。

 私は直接お金を出すことは少ないけどファンド経由で出したりするし、あまり親しくなくとも経営者の相談にそっと乗ることはあります。そこで出てくるのは、男と女の嫉妬や欲望の渦であって、他人を賞賛する外見からは思いも付かないような劣悪な感情の坩堝なのです。要するにですね、自分の成功だけを祈るものなのですよ。他の人の成功を賞賛するのは、周辺にいる誰かから「他の人の成功を賞賛できない人間だ」と思われたくないからで、成功した経営者仲間から弾かれたくないという微妙な根性の曲がり方をしているわけで。だから、何かアワードを獲った経営者の横に立ち、手ぶらでも心から祝福したような笑みをたたえて盛大に拍手している平凡な経営者たちの姿というのはとても目に焼きつきます。

 そういう連中が、上場審査を経て上場企業になったときに繰り出してくるIR資料を見て、投資家としてどう思うか分かりますか。口では綺麗ごとを言っていても、実際には約束など守る気がまるでないような業績予測から繰り出される下方修正だったり、コンプライアンス遵守だ団結だ最高の仲間だと言いながら、利益の大半がエロ漫画広告やリワードや不当に収集してきた個人情報にインタレストマッチで得たキーワードをせっせとスパムメールに組み込んで成功報酬貰って増収増益とか言っているような奴らですよ。

 で、IRに電話をする。お前らの経営者の言っていることと、出てきた決算書や短信の内容が全然違うじゃないかと。子会社を経由して個人名を騙ったアプリを乱発してリリースされたお小遣いアプリを大量に買ってきて運用しようとしてるのは恥ずかしい話じゃないのかと。大阪支社で1,200万架空売上計上した幹部社員がほぼお咎めなしで堂々と営業の前面に立っているのはどういうことなのかと。いついつまでに返事をくださいとメールを出しても、きちんと返してくれるところは稀なんですよね。

 最近は、私もようやく知恵が少しつきまして、事前に退職者を探して情報を得たり、取引先に頼んでセールストークを聴いてもらって要点を書き出して問題点を探るような手筈はスムーズに取れるようになってきました。それでも、関心を持った物事に対して、問題意識をしっかり持って正面から取り組むというのは大変なことであります。

 やはり、肝要なことは「法律に違反しているわけではない」だけれども、やっていることが欺瞞だというときに得られる事業の利益率の高さは、必ずしも長い風雪に耐え得るものではない、ということです。必ず、どこかからかミサイルが飛んできて、欺瞞は吹き飛ばされる運命にあります。そのまま堀江貴文のように塀の中に落ちることもあれば、うまい具合に資産を逃がして本丸の上場会社は救済的に買収されて手の内から零れたけれど、ニュースアプリで起死回生を狙うしぶとい経営者もいます。

 気がついてみれば、19歳ぐらいから本格的に相場を見始めて24年ほど経過し、あのころ元気に市場で博打を売っていた人の大半はいなくなりました。損をして辞めた人もあれば、一定の金額に達して別の人生の目標を見つけた人もいる。それぞれの人生ではあるんだけれども、並べて見てみるとやっぱり根っこがしっかりしていない人はあまり成功率が高くはなっていないのが世の中なのだなあ、人生はなんだかんだでマラソンであり長丁場であるゆえに、人間が持って生まれた摂理からは逃れられないのだなあという気持ちにさせてくれるのであります。

 まあ、そうはいっても、問題のある銘柄だと見抜けなくて、うっかり市場で買ってしまって下がってがっかりしている私も自業自得なんですけどね。年末にかけても相場が荒れるかもしれないので、気持ちをしっかり強く持って粛々と運を天に任せたいと思います。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路

Vol.141 一投資家としてベンチャー界隈に思うこと、そして最近のサイバー攻撃で何が起きているのか、IoTはどうなるのかを語る回
2015年11月1日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】嗤ってりゃいいじゃない、って話
【1. インシデント1】米中がにわかに対立局面に、揺れる相場で困る日本
【2. インシデント2】Amazon参入もあってIoT界隈が一気に盛り上がりそうな昨今ですね
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

クラウドファンディングの「負け戦」と「醍醐味」(西田宗千佳)
『戦略がすべて』書評〜脱コモディティ人材を生み出す「教育」にビジネスの芽がある(岩崎夏海)
健康のために本来の時間を取り戻す(高城剛)
津田大介×石田衣良 対談<後編>:「コミュニケーション」が「コンテンツ」にまさってしまう時代に(津田大介)
「Googleマップ」劣化の背景を考える(西田宗千佳)
川端裕人×松本朱実さん 「動物園教育」をめぐる対談 第2回(川端裕人)
世界を息苦しくしているのは「私たち自身」である(茂木健一郎)
総務省家計調査がやってきた!(小寺信良)
女の体を、脅すな<生理用ナプキンの真実>(若林理砂)
「いま評価されないから」といって、自分の価値に疑問を抱かないためには(やまもといちろう)
社会システムが大きく変わる前兆としての気候変動(高城剛)
うまくやろうと思わないほうがうまくいく(家入一真)
汚部屋の住人が勘違いしている片づけの3つの常識(岩崎夏海)
スマホが売れないという香港の景気から世界の先行きを予見する(高城剛)
「意識高い系」が「ホンモノ」に脱皮するために必要なこと(名越康文)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ