『媚びない人生』刊行記念インタビュー

「野良猫」として生きるための哲学

 

メルマガについて

――夜間飛行のメルマガで月1回開催している「カフェ・ゼミ」(野良猫塾)は先生にとってどういう意味を持つ場所なんでしょうか。編集担当の立場から、あらためてお伺いしたいです(笑)。

ジョン・キム:まず、誰か参加してくれるのか分からない分、1回性の出会いの貴重さがあります。また、予想外なものが生まれる面白さがありますよね。もちろん参加してくれる方のバックボーンや人間性までは分からないので、僕のアドバイスはそれを前提としたものになるのですが、短い時間でじっくりその人と向き合い、できる限りのフィードバックをしていくというスタンスを心がけています。

また、悩みなどについて答えるときは、他の参加者やメルマガの読者が問題を共有できるように、抽象度を高めて答えるようにしています。相手も気づいていないような問題設定の仕方をしよう、ということも考えています。

例えば、ある参加者の方から具体的な悩みを持っている。しかしよく話を聞いていると、それが実はその人の中での思考や行動の「パターン」が表れていることもある。問題の抽象度を高めることで、その人の中で応用が効くようになると思うんです。

 

境界を超えること、「ノマド」ブームについて

―― 今はものすごくメディアが発達して多様化していますよね。膨大な情報を目の前にして、何をどう考えればいいのか分からなくなっている人も多いように思います。情報を扱う上でも「抽象度を高める」ことは大きな意味を持つのではないかと感じますが、いかがでしょうか。

ジョン・キム:「抽象度を高める」ということは、「境界を超える」ことにつながるんですね。

僕の中では、政治も、経済も、メディアも、人生も、最終的にはまったく境界がない。ヨーロッパの経済問題も、中東の紛争も、ソーシャルメディアも、恋愛の悩みも、問題の本質は同じだと考えています。

僕が学んできた社会科学は、人間によって考察された社会に関する科学です。そこでは人間についても知らないといけないし、人間が作り出した組織(企業、国家)についても知らないといけない。例えばソーシャルメディアについて考えるにしても、社会の全体を見据えた中で考察しなければいけない。ですから、「人間の内面について何も語れない人が、経済も政治を語る資格はない」と僕は思っているんです。

実際には、世の中に明確な境界は存在しない。今ある境界線は、社会的な便宜性や誰かの意図によって作られたものです。だから学生たちには、そうした境界を越えられるような人材になってほしいと思っているんです。もちろん、すでに社会に出ている方たちにも、そうした視点を持って欲しい。

ただ、社会的な認知の上では、境界線が「ある」と思われている。その事実を見つめることは重要です。けれども、それ自体を「前提」や「常識」と考え捉われてはいけない。本書の中にも、「自分だけの地図に塗り変えよ」というメッセージを入れていますが、「自分で判断し、その判断に対して責任をとる」ことが重要なんです。

――仕事や居場所に境界を作らない「ノマド」や「ノマドワーキング」が、新しい生き方として最近脚光を浴びています。賛否両論がある中で、何が重要なのかがぼやけてしまっている気がします。先生のお考えをお伺いできますか。

ジョン・キム:大企業に勤めてもいいし、ノマドワーカーでもいい。「どちらでもいい」と僕は思うんですよ。大事なのは、その道が自分の主体的な判断で選んだものなのか、そしてその判断の結果に対して全責任が負えるのか、です。

僕も、いろんな境界を超えてきたという意味では「ノマド」と定義される生き方をしていると思います。しかしその生き方をすべての人に推奨したいという気持ちはありません。今はノマドワーキングをしやすい環境にある、そういう生き方もある……それ以上でもそれ以下でもないと思います。

ただ、新しい生き方に挑戦している人、自分で責任を負って実践している人は応援したいと思っています。

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ジョン・キム
慶応大学特任准教授・韓国生まれ。日本に国費留学。米インディアナ大学、英オックスフォード大学、ドイツ連邦防衛大学、米ハーバード大学を経て2004年から現職。アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5ヶ国を渡り歩いた経験から生まれた独自の哲学と生き方論が支持を集める。

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