『媚びない人生』刊行記念インタビュー

「野良猫」として生きるための哲学

 

時間が経っても時差を感じさせない本を書きたかった

――初めに読ませていただいたとき、これは「長く読める」本だなと思いました。一年後に読んだら違う発見があるんじゃないか、と思う箇所が何箇所もあったんです。「繰り返し読める本を書く」ということは意識されていたんでしょうか。

ジョン・キム:そうですね。少し言葉の抽象度を高めることで、まず多くの人に共感してもらいたかった。また、読者がいろんな経験を経て成長したときに、本書をまた違った解釈で読むということを想定したところがあります。読者のそうした姿勢こそが、本に対して命を与えるものだと思います。

―― 一方で「学生に語りたい」という気持ちが強く出ていますよね。読んでいて、言葉を届けたい対象のイメージが浮かんできます。

ジョン・キム:「家族のように大事に思っている学生たちに、自分が伝えられる言葉を贈りたい」という気持ちがありました。彼らに「1対1」で語りかけたかった。その内容が結果的にたくさんの人に共感してもらえて、日常での実践のヒントにしてくれれば心から嬉しい、という感じでしょうか。まず語りかける対象として学生がいて、その先にさまざまな読者がいるというイメージですね。

――改めてお伺いしますが、慶應大学で教鞭をとられて何年目になりますか。

ジョン・キム:8年になりますね。

――ゼミなどで指導された学生の数はだいたいどれくらいの人数になりますか?

ジョン・キム:毎年10人から20人前後なので、合わせて100人くらいですかね。

――キム先生のゼミは非常に厳しいと伺っています。どんな授業をされているのか気になる読者も多いと思うので、雰囲気などを少しお聞かせいただけますか。

ゼミがはじまって最初の1カ月は、「自分を水に戻す」ことを意識してもらっています。つまり、「自分はこうだ」という固定観念を一度リセットしてもらう。それから、自分の力を信じで、なりたい自分を明確に意識しながらも、目の前の課題を徹底的にクリアしていくというのを積み重ねていく。すると、だんだん「自分の頭で考え、自分の言葉で表現し、自分の責任で行動する」ことができるようになってきます。

そうした教育の一環として、「社会と接点を持ちながら、リアルなプロジェクトを進めていく」という活動も授業に取り入れています。今年度の活動では、アウディジャパンや日経ビジネス・オンラインと組んで「若者の車離れに対するアウディのブランディング戦略」というプロジェクトを立ち上げました(※1参照)。学生が主体となって、“自ら問題を発見し、設定し、解決する”場の提供を心がけています。

※1 慶大生と「走りながら考える」/日経ビジネスON LINE
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120502/231664/

ちなみに、僕は普段の授業の中では、『媚びない人生』に出てくるような人生論は基本話しません。メディア、政治、経済といった題材を使いながら、本質の見極め方や問題解決の考え方をそれぞれの場面において指導しています。知識の蓄積ではなく、思考の向上が私の教育の基本的な役目だと思っています。

1 2 3 4 5
ジョン・キム
慶応大学特任准教授・韓国生まれ。日本に国費留学。米インディアナ大学、英オックスフォード大学、ドイツ連邦防衛大学、米ハーバード大学を経て2004年から現職。アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5ヶ国を渡り歩いた経験から生まれた独自の哲学と生き方論が支持を集める。

その他の記事

「もしトラ」の現実味と本当にこれどうすんの問題(やまもといちろう)
岸田文雄さんは「6月14日解散・7月23日投開票本線」を決断できるのか(やまもといちろう)
教育経済学が死んだ日(やまもといちろう)
どんなSF映画より現実的な30年後の世界を予測する(高城剛)
実に微妙な社会保障議論についての11月末時点での総括(やまもといちろう)
ライター業界異変アリ(小寺信良)
2022年夏、私的なベスト・ヘッドフォン(アンプ編)(高城剛)
「疑り深い人」ほど騙されやすい理由(岩崎夏海)
いわゆる「パパ活」と非モテ成功者の女性への復讐の話について(やまもといちろう)
子どもが飛行機で泣いた時に考えるべきこと(茂木健一郎)
「親しみの空気」のない論争は不毛です(名越康文)
日本はどれだけどのように移民を受け入れるべきなのか(やまもといちろう)
「残らない文化」の大切さ(西田宗千佳)
川端裕人×松本朱実さん 「動物園教育」をめぐる対談 第1回(川端裕人)
最下位転落の楽天イーグルスを三年ぐらいかけてどうにかしたいという話に(やまもといちろう)
ジョン・キムのメールマガジン
「媚びない人生の作り方」

[料金(税込)] 660円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4水曜日配信予定)

ページのトップへ