私は真っ黒だと思っています
香月:では先生はTカードについては個人情報保護法に違反しているとお考えですか?
鈴木:私は真っ黒だと思っています。また、法律以上のレベルを要求しているJIS Q 15001に準拠して第三者評価認証しているはずのプライバシーマーク制度が、いまだマークの付与を許しているというのも解せません。まさに約款をしっかり読まない、また読んでも法的な意味を十分に理解できない消費者に変わって、個人情報の取扱いにおいて真に優良企業かどうかマークを通じて簡易に判断できるように示してあげる――そのために取り組んできたのがプライバシーマーク制度ではなかったのでしょうか。マーク制度というのはB2Bという事業者間取引よりも、まずはB2Cという消費者取引においてその意義を発揮してもらうためにあったように思いますが。本制度を主宰するJIPDECには今一度、制度趣旨に立ち返り、素朴に何を認証しているものか、何を目的としているものか、自問自答いただきたいものだと思います。
香月:先生のお話を伺っていると、今回の件はCCCに問題があるのはわかりましたが、経産省にも問題があるように思えてきたのですが……。僕が考えていたよりも規模が大きな問題で驚いています。
鈴木:そうですね。私も関係していたので経産省ばかりを責められませんが、ガイドラインの表現に誤解されるところ、言葉足らずのところがあれば補うなり、必要な改正に着手すべきでしょう。CCCの現状を放置することになれば、このビジネスモデルをまねる企業がどんどん増えてくる可能性があります。なにしろ本人同意もオプトアウト手続を回避しつつ個人データの全部または一部を実質的に第三者提供できるわけですし、その実質第三者の範囲を、共同利用者の範囲としてその名簿に企業名を追加削除することで自由に操作できるわけですから。これを23条の1項、2項の潜脱的解釈といわずになんというのでしょうか。多くの企業が適法だと思って、このモデルを採用する、そこにビジネス投資をして回収する前に、経産省が規制に乗り出したらどうなるか――コンプガチャの騒動のように、ルールがずっと後から追いかけてくるのは禍根を残します。これがまずいのなら、すぐにルールの点検に乗り出す、そのことを世間に告知する。それだけで企業側は注視します。放置しておいて、後からゆっくり様子みながら規制強化するのは最低です。
一方、提携企業側もポイント加盟企業に参加することで、自社のポイントカードを捨てて、そのための情報化投資を節約できる上に、自社に閉じたポイントよりもはるかに効率的なマーケティング効果を得ることができる。実際に売上げ増進になった事例を見聞すれば、飛びつきたくなるところはあるでしょう。しかしアウトソーシング一般がそうであるように、これはベンダロックインとなることを意味しています。特に、自社のポイントカードシステムを保有している企業は、後戻りすると一からやり直しになることをよくよく考えて、法令遵守上のどのようなリスクがあるか、しっかり見極めるべきところです。大手も提携しているからということで、持ち込み案件を精査せずに、セールストークをそのまま管理部門や担当役員にオウム返しするような愚かで思考停止的な提携はやるべきではありません。日頃のコンプライアンス活動の真贋が問われるところというべきでしょう。
それから、この問題、これからのクラウドビジネスやビックデータビジネスに大きな影響を与える可能性があります。「越境データ問題」といって……。
香月:先生ちょっと待った! 続きは来週お願いします!
▼鈴木 正朝(すずき・まさとも)
法学者(情報法)。新潟大学法科大学院教授。1962年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了、修士(法学)。情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ研究科 博士後期課程修了、博士(情報学)。主に個人情報保護法制、プライバシーの権利、情報マネジメントシステム、情報システム開発契約等に関する研究を行う。内閣官房では、政府情報システム刷新会議臨時構成員として共通方針案、政府CIO制度の検討、厚労省では、社会保障分野WG構成員として医療等個人情報保護法案の検討、経産省では、JIS Q 15001原案の起草、プライバシーマーク制度創設、個人情報保護ガイドライン案の作成等に関与する。
・ウェブサイト:http://www.rompal.com/
・ツイッター:@suzukimasatomo
<津田大介のメルマガ『メディアの現場』vol.44「MIAUからのお知らせ」より


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