スターバックスの復活劇に学ぶこと
スターバックス社のエピソードが、ひとつのヒントになります。2008年、スターバックスはピンチに陥った。twitterやソーシャルネットワークを通して「スターバックスは環境破壊をしている」みたいなネガティブキャンペーンがいきなり起こって、みんなスターバックスでコーヒーを買わなくなった。「舞台から出ていってください」ということです。しかし、その裏にあったのは単純な話でした。
それまでは、創業者がCEOとしてずっと企業を支えてやってきていたんですけれども、あるとき株主から「これからは拡大路線でいきます」と、新しいCEOを迎えた。そこからスターバックスがおかしくなったんです。
それまでは、アメリカのスターバックスでコーヒーを買うと、名前で呼んでくれていたんですよ。まあ、日本にはないですけどアメリカだとドリンクを渡すときに「龍介、できたよ」って言ってくれるんです。そういうパーソナルでフレンドリーな魅力を持ったお店だった。
それが、なくなってしまった。利益拡大路線になったために地域の中で「あいつらは金儲けしているだけじゃないか」という話になったんです。
ピンチになって、株主たちは創業者に「戻ってきてくれ」と頼んだ。そのとき、創業者は条件つきでやろうと言った。その条件とは、ニューオリンズに1万人の店長を連れてきて、カンファレンスをやること。その頃、ニューオリンズはハリケーンカトリーナの被害に遭ったあと、まだ完全に復興していなかったんです。「そこで各地から店長たちを集めて、ボランティアをやらせる」とその創業者は言うわけです。
株主たちは「気でも狂ったのか」と思ったはずです。「業績も落ちているときにコストをかけて1万人の店長をボランティアさせる必要がなぜあるんだ」ということを言った。しかし創業者は「それをやらないんだったら、戻らない」といって、実際にやり遂げた。
その結果、スターバックスは復活するんです。
「このときに起こったことは何なのか」ということはすごく面白いわけです。店長たちは、今までは地域の人たちに対して、こういう見方をしていたはずです。「この商圏には何十万人いる。店には何人くらい来て、何百円くらい買う。だから、売り上げはこれくらいだ」と。つまり収益の対象として見ていた。
ボランティアは違いますよね。「地域に対して貢献する」ことが先にある。ニューオリンズからお金貰おうと思ってやっているわけじゃない。しかし、結果として、店長たちは地域に貢献したことでみんなに感謝され、さらに地域がよくなることによって地域の経済が改善し、お店にリターンが返ってくる。
店長たちは、自分が地域に貢献することで何か素晴らしいものが生まれたという感覚を持って、お店に帰っていったわけです。
そして今度は「自分が街に何ができるか」ということを考え、貢献していった。そうすると、街の人は「スターバックスという役者はいい演技するじゃないか」と思いますよね。
この話は「スターバックスに街で再び居場所が与えられた」というハッピーエンドで終わるんですよ。

その他の記事
![]() |
国会議員は言うほど減らすべきか?(やまもといちろう) |
![]() |
話題のスマホ「NuAns NEO」の完成度をチェック(西田宗千佳) |
![]() |
「疑う力」を失った現代人(名越康文) |
![]() |
長崎の街の行方に垣間見える明治維新以降の日本社会の力学(高城剛) |
![]() |
「不思議の国」キューバの新型コロナワクチン事情(高城剛) |
![]() |
古い常識が生み出す新しいデジタルデバイド(本田雅一) |
![]() |
「まだ統一教会で消耗しているの?」とは揶揄できない現実的な各種事情(やまもといちろう) |
![]() |
「コンテンツで町おこし」のハードル(小寺信良) |
![]() |
セキュリティクリアランス法案、成立すれども波高し(やまもといちろう) |
![]() |
自然なき現代生活とアーユルヴェーダ(高城剛) |
![]() |
『「赤毛のアン」で英語づけ』(1) つらい現実を超える〝想像〟の力(茂木健一郎) |
![]() |
世界中の未来都市を訪れて気付いた良い街づくりの必要条件(高城剛) |
![]() |
統計学は万能ではない–ユングが抱えた<臨床医>としての葛藤(鏡リュウジ) |
![]() |
「#metoo」が本来の問題からいつの間にかすべてのハラスメント問題に広がっていくまで(やまもといちろう) |
![]() |
開発者会議で感じた「AWS」という企業の本質(西田宗千佳) |