津田大介
@tsuda

津田大介の『メディアの現場』vol48より

「消費者安調査全委員会」発足、暮らしの事故の原因究明は進むのか?

どこまでが調査対象か

――となると当面の間、調査対象をだいぶ絞らなければならないのでは……これについて、何か決まっていることはあるのでしょうか?

津田:消費者事故は、生命や身体にかかわるものと、財産にかかわるものという二つに大きく分けられるんですね。

消費者安全調査委員会はこのうち、生命や身体にかかわるものを対象にします。ただし、運輸安全委員会がカバーしている「航空・鉄道・船舶」に関するものは除く、と。

そう考えると、実は対象範囲がだいぶ幅広いんですよね。

2009年9月1日から2012年6月30日までの3年弱で、生命や身体にかかわる消費者事故は7027件起こっています。うち「重大事故」とされるものは、約4割にあたる2684件。[*31] 年間にならしたとしても、相当な数に上ることがわかります。

こうした事故のうち、どのようなものに対応するのか。10月3日に開かれた委員会の初会合では、そこも一つの焦点になりました。

結果、「事故を起こした製品等が広く利用されている」「一定期間に同じ事故が多数発生している」「消費者が事故の発生を避けるのが難しい」「多数の被害が発生する恐れがある」ほか、6点の指針が定められています。

――消費者事故の被害者には、命を落とされた方もいるわけですよね。そうなると、遺族の精神的ケアも大切な問題になってくるのではないかと。

津田:まさにそこなんですよ。事故の原因がわからなければ、残された遺族も浮かばれません。消費者庁ができる前、「パロマ湯沸器死亡事故」が世間を賑わせましたね。この事件が表面化し、社会問題となっていく過程には遺族の思いが深くかかわっているんですよ。

2005年のある日、大学生が不審な死を遂げました。その死因は「心不全」とされました。しかし遺族は理由に納得できず、2006年2月、警察に再捜査を依頼します。

すると、パロマ工業株式会社製の湯沸器の不具合で一酸化炭素中毒に陥ったのではないかとの疑いが出てきたんですね。所管官庁である経産省がこの報告を受けて調査を行ったところ、同社製湯沸器で今までに同様の死亡事故が十数件起こっていることが判明。同社を追及した結果、この製品によって合計21人もの死者が出ていたこと、「死者が出ている」という事実を1992年時点で把握していたことがわかりました。

そして、製品そのものの安全装置劣化、系列サービス業者の不正改造が原因の事故もあるらしいと、衝撃の事実が次々と明らかになり、最終的に同社は「一連の事故対策が不十分だった」と認めるに至りました。

遺族の思いにより原因究明がなされたこの事件は、同時期に世間を騒がせたナショナル製FF式石油温風機による死亡事故などとともに、消費者行政を変える一つの追い風となったのは間違いありません。

消費者安全調査委員会の畑村委員長は、選任後の挨拶で「なぜ事故が起こったのかを調査するだけでなく、事故で苦しんでいる人の立場で考えないといけない」と述べました。

なぜ自分の大切な人が犠牲になってしまったのか――そうした遺族の気持ちをすくい上げ、原因究明にあたること。消費者安全調査委員会ができたことで、これまで行政がカバーしきれなかった「原因究明」を、一定の権限をもって進められるようになる。大げさに言えば、この取り組みがうまくいくかどうかで、今後の消費者庁の存在意義も変わってくるということです。

――消費者安全調査委員会に期待される役割は大きいが、同委員会を取り巻く諸問題もたくさんあると。

津田:課題は山積しています。茨の道かもしれませんが、消費者庁の本義を背負っているともいえる組織です。「実働部隊」としての彼らがどれだけ「実働」できるか。そこが大きなポイントですし、少しずつでも毎年実績を積み重ねていくことが重要です。何より、当事者である消費者がこうした組織の必要性を認めなければ、予算や体制が改善していくことはないでしょう。そのためには、消費者安全調査委員会も自分たちの成果を積極的に国民に対して広報する必要があるでしょうし、そうすることで、消費者行政もよりよい方向に変わると信じたいですね。

 

《この記事は「津田大介の『メディアの現場』からの抜粋です。ご興味を持たれた方は、ぜひご購読をお願いします。》

 

[*1] http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG21051_Q2A930C1CR8000/

[*2] 現場を訪れて直接調査することを前提としているため、スタッフは身分証明書を携帯することが決まっている。

http://www.caa.go.jp/csic/action/pdf/20121003sannkou_5.pdf

[*3] http://www.caa.go.jp/soshiki/pdf/leaflet201205.pdf

[*4] http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2007/10/01syosin.html

[*5] http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/china-gyoza/dl/01.pdf

[*6] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shouhisha/

[*7] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shouhisha/daiw3/siryou4.pdf#page=5

[*8] http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20080930_1.html

[*9] http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO233.html

[*10] http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO175.html

[*11] http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/kiki/pdf/emergent_02.pdf

[*12] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shouhisha/dai3/3gijiyousi.pdf

[*13] http://www1.caa.go.jp/soshiki/pdf/panfu_2.pdf#page=3

[*14] http://www.kokusen.go.jp/ncac_index.html

[*15] http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/

[*16] http://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/shouan/index.htm#lighter

[*17] http://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/shouan/contents/shouan_gaiyo.htm

[*18] http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S48/S48HO031.html

[*19] http://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/shouan/contents/outline_of_regulation_for_lighter.pdf

[*20] http://www.meti.go.jp/committee/gizi_0000002.html

[*21] http://www.caa.go.jp/safety/task.html

[*22] http://www.caa.go.jp/safety/pdf/120831kouhyou_6.pdf

[*23] http://www.caa.go.jp/safety/pdf/120928kouhyou_2.pdf

[*24] http://www.caa.go.jp/safety/index5.html

[*25] http://www.caa.go.jp/safety/pdf/matome.pdf

[*26] http://icanps.go.jp/

[*27] http://www.shippai.org/shippai/html/index.php

[*28] http://www.caa.go.jp/safety/pdf/120831legal_3.pdf

[*29] http://www.news24.jp/articles/2012/08/29/04212815.html

[*30] http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0304R_T01C12A0CR8000/

[*31] http://www.caa.go.jp/safety/pdf/120831kouhyou_5.pdf

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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