■ レビュー
自身も海賊ラジオのDJであった著者は、著作権等を侵害する海賊行為の意義を若者文化の歴史に見出し、社会全体の利益という観点から多様な海賊行為を積極的に評価する。本書に登場する歌手や有名レーベルの名前をみれば、著作権に詳しくない読者もゴシップ的興味から読み進むことができる。
本書の特徴は、海賊行為の変遷を勧善懲悪のストーリーに落とし込んでいる点にある。著者はリミックスの歴史をスターウォーズに喩え、海賊たちを正義のゲリラ、敵は著作権や特許を振りかざす大企業という構図に仕立てあげる。大衆は海賊を支持し、企業はジレンマの中で決断を迫られ、譲歩する。海賊だったストリートの若者は楽曲やデザインの市場価値が認められ、大金持ちになる。彼らは法的あるいは道義的に正しいから勝ったのではなく、市場に大きな利益をもたらしたからこそ支持を得たのだ。本書は海賊と企業の対立と協働を巧みなストーリーに変換している。
著者がいうとおり、海賊たちは「資本主義号」を沈めるつもりはなく、その穴を塞ぐ役割を果たそうとしている。若者たちの成功は資本主義を肯定した先にしかなく、彼らのサクセスストーリーは動かしがたい格差の裏返しである。海賊行為とはビジネスモデルであると説く本書は、資本主義社会を生きる若い読者に、社会を変える方法を教えてくれるはずだ。
(要約・レビュー:常森裕介)
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◎ 編集部より
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・今回のゲンロンサマリーズはいかがでしたか? 翻訳者のひとりの八田真行氏は、東浩紀がプロジェクトリーダーを務めた研究会「ised」にも参加されています。議事録はウェブで公開されている(http://www.glocom.jp/)ほか、書籍版の『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』、『ised 情報社会の倫理と設計 設計篇』としても読めます。
・翻訳者の玉川千絵子氏が参加している団体5th elementは、リミックス文化を紹介する「リミックス映画祭2012」を2012年6月に開催しました。このイベントでは、デジタル時代の音楽著作権について、クリエイター、DJ、弁護士などさまざまな参加者を集めたトークセッションなどが行なわれました。トークセッションのレポートが公開されています(http://www.remixfilm.org/#!eventreport/c45e)。
・本書で紹介されている3Dプリンターを使ったものづくりは世界的に注目を集めつつあります。なかでもFabLab(ファブラボ)の活動は日本経済新聞で紹介される(2012年9月29日)などして日本でも知られています。鎌倉で毎週金曜日に行なわれている「結のファブ」では一般参加を受け付けているほか、渋谷道玄坂のFabCafeでも制作を体験できますので、興味のある方にはお勧めです。
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・本書の争点である「海賊」と権利者の対立を、より中立的な立場から概説している『「ネットの自由」vs.著作権』はゲンロンサマリーズで近日配信予定です。お楽しみに。
・ユースカルチャーと複製(芸術)の問題をあつかった古典的名作として知られる、椹木野衣氏の『シミュレーショニズム』もお勧めです。
・以前にゲンロンサマリーズで紹介したドミニク・チェン『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』でも、著作権問題の解決として別の立場が紹介されています。友の会会員の皆様には、ゲンロンショップのMy友の会ページでゲンロンサマリーズのバックナンバーを全て読んでいただけます。また、月毎8回分をまとめたEPUBファイルをご用意しております。
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《この記事は、東浩紀の「ゲンロンサマリーズ」からの抜粋です。ご興味を持たれた方は、ぜひご購読をお願いします。》
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