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ゲンロンサマリーズは、作家・批評家の東浩紀が監修する、話題の新刊の要約とレビューをお届けするメールマガジンです。河村信ディレクターを迎えた新体制で、マット・メイソン『海賊のジレンマ』のサマリーをお送りします。
110月1日に施行された改正著作権法による違法ダウンロード刑事罰化が話題になっています。著作権問題はインターネット文化の根源に関わると言われる重要な論点ですが、本書は著作権をめぐる争いを、インターネットにとどまらない広い視野から整理し、新しい資本主義の可能性が生まれる場として提示しています。著作権に最近興味を持たれた方はもちろん、すでに多くの知識を持っている方にもお勧めできます。
5分でわかる要約とレビュー、どうぞお楽しみください。(編集部)
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◎ 5分でわかる要約とレビュー
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『海賊のジレンマ』玉川千絵子・八田真行・鈴木沓子・鳴門麻子訳 フィルムアート社、2012年7月 四六判並製、424ページ ISBN 978-4-8459-1288-9 C0070 定価:本体2600円+税 |
■ 編者略歴(本書より)
マット・メイソン(Matt Mason)
ジャーナリスト、ライター、コンサルタント、起業家。ロンドンで海賊ラジオやクラブのDJとしてキャリアをスタート。その後、先端音楽を扱うインディペンデント雑誌『RWD』を創刊、編集長として活躍する。創造性、破壊的イノベーション、著作権侵害をめぐる諸問題、P2Pテクノロジーの展望などについて、執筆・講演活動を行なう。『The Guardian』『The Independent』『The Observer Music Monthly』『Dazed & Confused』『Adweek』『VICE』など、さまざまな媒体に寄稿。サンフランシスコ在住。
■ 要約
【海賊のジレンマ】
・市場の外で行われる海賊行為(=著作権や特許権の侵害)に法的に対抗するのか、同じ市場で競争するのか、それが「海賊のジレンマ」である。
・「囚人のジレンマ」が自己利益の追求を問題とするのに対し、「海賊のジレンマ」は海賊行為による社会全体の利益を問題にする。
・例えば製薬会社がジェネリック医薬品に対し特許を盾にとらず競争すれば、製薬会社は新たなシェアを獲得し、多くの命が救われ、企業イメージも向上する。
【パンク、リミックス、闘争のアート】
・起業家が市場の中に隙間を探すのに対し、海賊は市場の外に隙間を探す。
・かつて洋上に海賊ラジオ局ができたように、今はネット上を海賊的思考が支配している。
・自分でやる(DIY)というパンクの姿勢は、3Dプリンターのようなテクノロジーによって開花する。
・ファッション業界では、デザインのリミックスによって一流デザイナーのアイデアが一般の人々に広まる。
・フランス料理の世界では、暗黙のルールを守ったうえでレシピを交換し、アイデアを守ると同時に革新的な作品を生み出している。
・音楽業界では、レコード会社がヒットしたリミックスの製作者と契約し、ゲーム会社は「MOD版」の製作者を雇用する。
・英のストリートアーティストだったバンクシーはNY近代美術館に勝手に自作を展示し支持されストリートからマーケットへ進出した。
・街角のグラフィティと企業による広告は、公共空間をめぐって対立し、対話へ至り、新たな空間を形成している。
【オープンソース、ヒップホップのリアル】
・ウィキペディアをはじめとするオープンソースは、より公平で自由な市場を作り出す。
・パンク、ファンク、ディスコをリミックスしたヒップホップは、「参加」と「協力」に基づくオープンソースである。
・自身がリミックスの対象となることを許容する「ジレンマ」という曲は、使う人や視聴する人に選択肢を与えたことで、ウィルスのように広まった。
・ヒップホップで成功したラッセル・シモンズは、信用度の低い人々を対象としたクレジットカード事業を起こした。
・企業と結びついたヒップホップが衰退しないためには、変化を生み出したいというリアルな思いを表現し、コミュニティへ恩返しすることが必要である。
【海賊と若者文化】
・「海賊のジレンマ」の答えは、市場が踏み込まない領域で格闘した若者たちの歴史にある。
・若者文化が推し進めるアイデアは、資本主義をより民主的なものにする。
・大衆文化は若者文化を利用するだけでなく、その行動や思想から学ばなければならない。
・海賊精神は、コミュニティを動員し、革新を後押しし、社会を変える。
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