内田樹のメルマガ『大人の条件』より

メディアの死、死とメディア(その3/全3回)

贈与は合理化できない

平川:つまり、民主主義以前からあったものなんだよ。

内田:市場経済の登場よりもはるか昔から。

平川:市場経済は民主主義でないと成り立たないんだよ。王権の時代はたしかに市場経済らしきものはあったけれども、売りたくない奴には売らないこともたくさんあったんですよ。「金で買えないものは何もない」と堀江(貴文)が言ったけれども、彼はまさに民主主義の代弁者なんだよ。

そしてそれは“アメリカ”なんだよね。民主主義以前は、サービスのする側と受ける側は常に非対称の状態にあって、贈答ということを延々やってきた。でもなぜそんなことやるんだと言えば、その理由はないんですね。たとえば親の子に対する愛情はまさに贈与そのものじゃないですか。でもその贈与には理由がないんですよ。少なくとも僕らの考える民主主義的な理由がない。

内田:合理化できない。

平川:理由はたくさんあるよ。あるんだけれど、商品交換のロジックだけでは説明できない。

内田:ぜんぜん説明できないと思うよ。市場経済では贈与ということはありえないんだから。無償で差し出しているんだから。「無償で差し出したらどんないいことがあるんですか?」、「ないよ」って話だから。

平川:まさに商品交換の歴史なんだよね、近代化は。道路ができたり、技術が発展したり、というのは。

内田:その方が速いんだよね、確かに。贈与経済でずっとやっていても、長い時間をかければ近代化するけれど、資本主義でやれば変化が速い。テクノロジーの進化にしても、贈与経済でやっていたら1000年かかるところが10年でできる。人間が考え出すシステムは、本質的にそんなに違わないと思うけれど、そこに貨幣経済をかませるとすごく動きが速くなるんだよ。

平川:かませなければ、レヴィ=ストロースの「冷たい社会」ですよ(※)。

※人類学者レヴィ=ストロースが『人種と歴史』の中で「熱い社会」とともに用いた概念。激しく変化する近代社会に代表される「熱い社会」と、変化の速度がゼロに近く、自らを不変の伝統に閉じこめようとする「冷たい社会」(未開社会)を対比的に捉えた。

1 2 3 4

その他の記事

身体に響く音の道――音の先、音の跡(平尾文)
人間の場合、集合知はかえって馬鹿になるのかもしれない(名越康文)
PS5の「コストのかけどころ」から見える、この先10年の技術トレンド(本田雅一)
アジアではじまっているメガハブ空港の王座争い(高城剛)
「消費者安調査全委員会」発足、暮らしの事故の原因究明は進むのか?(津田大介)
クラウドファンディングの「負け戦」と「醍醐味」(西田宗千佳)
週刊金融日記 第282号<日本人主導のビットコイン・バブルは崩壊へのカウントダウンに入った、中国ICO規制でビットコインが乱高下他>(藤沢数希)
奥さんに内緒で買った子供向けじゃないおもちゃの話(編集のトリーさん)
20代のうちは「借金してでも自分に先行投資する」ほうがいい?(家入一真)
週刊金融日記 第286号<日本で高額所得者がどれだけ税金を払うのか教えよう、衆院選は安倍vs小池の天下分け目の戦いへ他>(藤沢数希)
猥雑なエネルギーに満ちあふれていた1964年という時代〜『運命のダイスを転がせ!』創刊によせて(ロバート・ハリス)
太古から変わらぬ人間の身体と変わりゆく環境の間を考える(高城剛)
「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」(宇野常寛)
12月の夏日を単に「暖冬」と断じてしまうことへの危機感(高城剛)
ドラマ『ハウス・オブ・カード』〜古くて新しい“戦友”型夫婦とは(岩崎夏海)

ページのトップへ