津田大介
@tsuda

津田大介のメルマガ『メディアの現場』より

国民投票サイト「ゼゼヒヒ」は何を変えるのか――津田大介、エンジニア・マサヒコが語るゼゼヒヒの意図

ゼゼヒヒを通して見えてくるもの

――「ゼゼヒヒ」では、まず質問があって、それに対する回答が「賛成/反対」あるいは「支持する/支持しない」というように、2択のどちらかから自分の意見を選ぶという点が特徴的ですよね。でも、総論賛成各論反対のような2択では決めがたい質問もあると思うんです。あえて2択にしたのはどうしてなんでしょうか?

津田:普通のアンケートや調査だと、「どちらでもない」を選択肢に入れることが多いですけど、1問だけ出された質問に「どちらでもない」と思っていたら、答えようとは思わないですよね。でも、2択を迫られると「自分はどっちかな?」と考える。しかし実際には、賛成なんだけど条件つきの賛成だったり、反対だけど条件つきの反対だったり、明確に賛成・反対とは言いづらいことのほうが多いですよね。そんな時に「賛成」を選ぶだけだと「これだと全面的な賛成に思われちゃうかな?」と心配になってくる。しかしそれが「こういう理由で賛成」とか「基本的に賛成だけど、こういう問題もあることはわかっている」というふうに理由を書く動機づけになりますよね。だからゼゼヒヒのインターフェースは投票ボタンを押したときにポップアップで理由を書くウィンドウが出てくるんですよ。ぶっちゃけ「投票」といっても、投票結果を見て何かをするサービスではないので、答えは賛成でも反対でもどちらでもいい。自分で考えて理由を書くこと、そして他人の理由を見ることが重要なんです。

マサヒコ:言い方は悪いかもしれないけど、「極端にやったほうがいい」ということです。たとえば、賛成から反対までを5つに分けて、あなたはどこですかと聞けば、どちらでもない人も、条件付き賛成、条件付き反対の人も、さらっと答えられますよね。でも、2択になるとそうはいかない。極端な選択肢にすることで、理由を書かざるを得ないんですよ。

津田:まさに「是々非々」ですよね。というか、ほとんどの物事って、つきつめれば全面的賛成も全面的反対もあり得ないと思うんです。だからこそ、「賛成だけどここは反対」「反対だけどここは賛成」という意見を表明する呼び水として、最初は2択にすることにこだわろうと。設問によっては3択とか4択みたいなのもアリだとは思ってますけど、それは先の話かな。

 

――ゼゼヒヒへのツイッター上の反応を見てると、意見にグラデーションのない「2択」にすることで、物事を単純化して多数決だけで世論を決めてしまうんじゃないか、ポピュリズムにつながるのではないか、という批判がありますが、今お話されていたことが、それに対する答えになりますね。

津田:ええ、ゼゼヒヒはむしろ問題の複雑さを上澄みだけ切り取って際立たせるサービスだと思っています。11月18日に行われたニコニコ生放送の「『仕分け』を仕分ける 新仕分け 特別セッション」[*4] で民主党の岡田克也・前副総理が「(事業仕分けをやったことで)政策論について、1か100かではなく、40だったり60だったり、そういう議論がたくさんあるんだと知ってもらえたことも、意義あることじゃないかなと思います」とおっしゃっていて、[*5] 僕はその場に参加していたんですが、それこそがまさに真理だと思ったんですね。ゼゼヒヒも、世の中の複雑な問題がどうして複雑なのかがわかる、「複雑なものは複雑なんだよ!」ってことをわかりやすく提示させるツールにしていきたいな、と思ってます。

 

――2択だからといって、必ずしも答えが単純化されるわけではなく、むしろ、問題の複雑さに嫌でも向き合わされることになるんですね。

津田:そのとおりです。それに、みんなが自分の賛否の理由を書いていくと、それを見た人が新たに気づかされることもありますよね。ゼゼヒヒをローンチして1週間が経ちましたが、その間に僕にとって大きな発見がありました。僕は政治的にはリベラルだと思うので、ツイッターにいがちな日の丸アイコン付けて「左翼はけしからん」「民主党はけしからん」と批判してる人たちが苦手なんですよ。今後の人生でそういう人たちの考え方と相容れることはないだろうな、とか思っていたんですけど、回答を見ているとそういう人たちもゼゼヒヒに参加してくれてるんですね。で、質問内容によっては日の丸アイコン付けた人の意見で思わず「なるほど」と納得して同意を押してしまうようなものがあったんですよ。それで改めて気づかされたのは、人間というのはいろいろな考えや意見が「モザイク状」になっているんだなぁと。全体的には相容れない人でも、一つひとつの個別問題に対する考えや意見を取り出してみると、自分にとってしっくりくるまともな意見を言ったりもする。モザイクの中に良い意見があるなら、それを上澄みとして取り出してどんどん現実に反映していけばいいんじゃないかと。ゼゼヒヒは自分自身が偏見にとらわれていたことを気づかせてくれたし、意見が合わないと思っていた人たちとの対話の可能性が見出せたという意味で、大きな発見がありました。

 

――ゼゼヒヒは賛成でも反対でも、それを選択した理由こそ重要だというスタンスなんですね。ただ、賛否の結果も円グラフで表示しています。その結果はどういう意味を持つのでしょうか?

マサヒコ:実際に「ゼゼヒヒ」を作り始める前、サイトのイメージを固めていくために、BLOGOSの「ディスカッション」 [*6] や、Yahoo!みんなの政治の「政治投票」[*7]、海外サイトのポール(世論調査)、あるいは新聞社が実施した調査など、いろいろと調べて回ったんです。その上で、従来のアンケートや意識調査のどこに面白さがあるのか、何がダメなのか、そしてそれをどう面白くできるのか、ということを突き詰めて考えていったんです。その時、最初に思ったのは、アンケートや調査の結果はあまり意味を持っていないということです。ある種の結果を示してはいるんだけど、「賛成が7割でした」とか「反対が多数派でした」という結果だけを見ても、だから何なんだろうと思えてしまう。むしろ「『賛成』を選んだ人たちはどうして賛成を選んだのかな?」と理由を知りたくなったんです。ゼゼヒヒも同じで、1万人が回答をしたからといって、「これがネットの民意です」というようなものにはならない。むしろ、理由込みで意見表明することが重要なんですよ。もちろん、回答の数字にまったく意味が無いと言いたいのではなくて、意見を含めて意味を持つものだと思っています。

 

――ゼゼヒヒが出している質問の中には、複雑だからという理由ではなくて、そもそも知らないから答えにくいというものもあると思うんです。たとえば、第2次安倍内閣の人事発表を受けて、全閣僚の起用について1人ずつ質問していますが、[*8] 回答がたくさん集まっている大臣もいれば、回答が少ない大臣もいる。回答の数に偏りがありますよね。

津田:すべてきっかけなんですよ。閣僚全員分の質問を作ったって、僕ですら全部答えているわけではない。答えられないんですよ。でも答えようとすると、興味をもって調べようという気になるんですよね。改めて「何で?」って理由を問われることで、調べる気持ちが生まれたり、自分の考えがまとまっていったりする。調べていく過程で「なるほど、そうなんだ」と思って政治や社会問題などいろんなものに興味を持つようになる――ゼゼヒヒはそのためのスイッチにもなってくれればいいなと。

マサヒコ:あと、意見表明しようとすると、滅多なことは言えないなってことがわかりますよね。

津田:そうそう。意見表明をしてみると、議論ではないけど、ほかの人の意見にすごく納得して、勝手に「論破された!」と思ってしまうことが僕自身ありましたし。

 

――今、「議論ではない」とおっしゃいましたが、ゼゼヒヒは議論のためのサイトではないということなんでしょうか?

津田:ゼゼヒヒに近いアンケート、調査サイトの中には、コメントに対してコメントがつけられるようなインターフェースがありますよね。でもゼゼヒヒではそんなふうに議論が続けられる仕組みは最初から考えていないんです。

マサヒコ:反論できないようにするというのは、当初から決まっていましたね。

津田:議論の場ではなくて、あくまで意見表明の場だという考えは固まっていたんです。

マサヒコ:意見の応酬をするのではなくて、誰かが良い意見を書いてるなと思ったら、もっと良い意見を出そうという方向に向かってほしいんですよ。

 

――ゼゼヒヒに書き込める意見は、ツイッターより少し短い100文字が上限になっていますが、100文字にした理由は何かあるんですか?

マサヒコ:まず、一つの論点について意見を書ける程度の文字数にしようというのがあったんです。「同意」するにしても2つ、3つと論点を書かれると、こっちはいいけど、あっちは同意できないとなることもあり得ますよね。それに、意見を短く一つにまとめることで、読みやすいコメントにもなります。もう一つは、ツイッターのタイムラインに流せる量に抑えたいということもありました。津田さんは当初からそれを言っていて、質問とURLを1つのツイートで流すためには、長すぎてもいけない。クローズド・ベータの段階でとりあえず100文字で試して、現在もその文字数になっているのですが、もう少し短くできるかもしれないとは思っています。

 

――ゼゼヒヒではほかのユーザーの意見に「同意」できる機能がついていますよね。この同意はツイッターでいう「ファボ(fav)」――お気に入り(favorite)のような機能だと思うのですが、どうして「同意」という言葉を選ばれたんですか? 最近は「いいね!」が流行っていると思うのですが……。

マサヒコ:意見に対してつけるものなので、「いいね!」はちょっと違うかなと思って。じゃあ何がいいかと考えたら、「同意」だろうなと。

津田:そもそも「いいね!」ってあまり好きじゃないんだよね。個人的には「一理ある」でもいいかなとは思ってるんですが……(笑)。

 

――「一理ある」ボタンって、すごく……シブいです……。

津田:でも、ニュアンスとしてはそうなんですよ。賛否が異なる相手でも、その意見に納得すれば「一理ある」って思うじゃないですか。だから自分とは回答が異なる人でも、その意見に納得したら、どんどん「同意」を押していってほしいですね。ネット文化的にいえば「禿しく同意!」的な感じで押してほしいと思います。

 

――ゼゼヒヒというサイトを作るにあたって、参考にしたり意識したサービスはありますか?

津田:具体的なサービス名を言うと、まずは先ほど挙げた診断メーカー。もう1つ意識したサービスということで言えば、ツイッターのトレンド [*9] ですね。ツイッターのバズっている話題に対して、話題になってるリアルタイムなタイミングで意見表明して、残せるようにしたいと思ったんです。今まではバズっている話題についてツイッターに書いても流れていくだけだったけど、ゼゼヒヒを経由して答えてもらうことで、流れてしまうはずだったものが自分の意見表明のデータベースとして蓄積される。これが後々価値を持ってくるんじゃないかなと。ほかには、はてなブックマーク [*10] のコメント一覧画面。一つの記事に対するさまざまな意見を一気に見れるのは面白いですよね。ただ、はてブのコメントってあんまり動きがない感じがする。だからそれをツイッターのようなタイムライン形式で見せられれば、動きが出てきてもっと面白くなるんじゃないかと思ったんです。まあ、だからゼゼヒヒは「診断メーカー+ツイッター(タイムライン+トレンド)+はてなブックマーク」のいいとこ取りを目指したサービスと言えますね。

 

――物事やキーワードにマルバツで答える「コトノハ」[*11] との類似性を指摘している人もいますが、このサイトは参考にしたのですか?

津田:ゼゼヒヒのイメージを固めていく過程で、コトノハのことは考えてなかったですね。まったく頭の中にありませんでした。コンセプトや狙いも違うものだと思います。ゼゼヒヒは、ゼゼヒヒコミュニティを作って広げていくというデザインではなく、ソーシャルで拡散していくというデザインですし。また、質問をユーザーに委ねるのではなく、こちらで作って投げかける――アジェンダ・セッティングをしているというところも大きく違う。

 

――タイムラインの要素を取り入れたのは、具体的にどういう意図があったのでしょうか?

マサヒコ:既存の調査・アンケートサイトだと、答えた人の顔が見えてこないですよね。だから回答結果を見てもリアリティがない。それをツイッターのようなUIにしてタイムラインにすることで、回答者一人ひとりのIDやアイコン、意見が並ぶ――答えた人の顔が見えてきますよね。あとは既存の調査・アンケートサイトって、言わばスナップショットなんです。瞬間的な結果は出ているけど、どういう経緯でその結果に至ったのかということまではわからない。時系列の要素を加えることで、時間をさかのぼって回答の推移を見ることができるようになります。僕が津田マガで担当している「世界のデータジャーナリズム最前線」のコーナーの中でも何度か伝えてきましたが、「こういう調査結果も見せ方一つでこんなに変わる」ということを実践してみたかったんですね。結果だけを出すのではなく、時間という軸・視点を加えることで結果に至る経路も出したかった、と。

津田:たとえば、実際にゼゼヒヒに載せている「東京五輪招致に賛成? 反対?」という質問 [*12] ――2020年のオリンピックを東京に招致するという東京都の動き [*13] への賛否を訊いた質問なんですが、これも東京都の招致活動が進展したり、新たな事実が明らかになったりすることで、賛否や意見が変わっていくかもしれない。そうした移ろいを長期のスパンで見せることができれば面白いし、データジャーナリズム的にも意味があると思うんです。

マサヒコ:同じ質問への答えが1年前からどう変わってきたのか、ということもわかるんですよ。

 

――質問の出し方、運用の仕方によって、その場を切り取るということもできるし、長いスパンで意見の変化を見ることもできるわけですか。そのゼゼヒヒの質問なんですが、誰が作っているのですか?

津田:中心になって作っているのは僕です。でも、外部の人から質問を依頼されて作ったりもしています。たとえば、「音楽を買うならCD? それともデータ配信?」[*14] という質問は坂本龍一さん(@skmt09)から、「今回の総選挙にあなたは行きましたか?」[*15] という質問は湯浅誠さん(@yuasamakoto)から寄せられたものです。いろんな人から意見を聞いてみたい、という時の投げかけとして使えるようになれば、諸問題の活動家に質問を用意してもらう、ということも考えています。あとはうちのスタッフも考えています。

 

――ゼゼヒヒの質問には「『きのこの山』『たけのこの里』あなたはどっち派?」[*16] という柔らかい質問から、「安倍晋三自民党総裁の首相選出を支持するか?」[*17] という硬い質問まで、硬軟織り交ざったいろいろな質問がありますが、質問を作る際の方針は何かあるんですか?

津田:質問の内容はこういうふうにしようという明確な方針はないんです。先ほど、ツイッターのトレンドを意識したとお話ししましたが、ソーシャルで話題になっていて、答えたくなるものなら何でもいいんです。人が答えたくなる質問って、本当にくだらないことから真面目なものまで、いろいろありますからね。

マサヒコ:ゼゼヒヒをオープンする前にクローズド・ベータ [*18] の期間があって、500人くらいの津田マガ読者の方にご協力していただいたんです。ご協力をいただいた方には本当にありがたいなと思っていて、この場を借りてお礼を申し上げます。そのクローズド・ベータの期間中にいろいろなご意見をいただいたんですが、「ちょっと質問が重いです。そう簡単に答えられる質問じゃない」という意見が複数寄せられたんですね。僕はクローズド・ベータでの最大の学びはそこにあったなと思っていて。

 

――簡単に答えられない質問というのはどんな質問ですか?

マサヒコ:「原発に賛成ですか? 反対ですか?」というような質問です。あまりに多くのことが絡み合いすぎていると、すべてを考慮して答えを出すことはできないんですね。先ほど、ゼゼヒヒは複雑な問題がどうして複雑なのかがわかるツールだと言いましたが、その複雑さを理解するためには、問題をある程度分解していく必要があると思うんですよ。たとえば原発の問題だと、「再稼働は認めるべきか」「経済への影響はあるか」「電気は足りるのか」といったように、さまざまなトピックがある。実際に、ゼゼヒヒで出したものだと「電気料金の値上げはしかたない?」[*19] という質問がありますが、これなら答えやすいですよね。このように分解された質問を積み重ねていって、それが20個、30個と集まった時に自分の意見を振り返ってみると、原発という大きくて複雑な問題に対して、自分がどういうスタンスをとっているかが見えてくる。「再稼働には反対だけど、再稼働しないことで起こりうる問題については容認できていない」というようなことが浮かび上がってきますよね。

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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