津田大介
@tsuda

津田大介のメルマガ『メディアの現場』より

福島第一原発観光地化計画とはなにか――東浩紀に聞く「フクシマ」のいまとこれから

◇50年後の世代にむけて

東:震災からわずか1年半しか経っていませんが、前に進むにあたり福島を足かせとして捉えている雰囲気があります。若い人たちの間では、福島や被災地について考えることは「正しい」ことで「いい」ことかもしれないけど、僕たちはもっと先に進みたいよ、楽しみたいよ、という感覚があると思います。でも、あえて嫌な言い方をしますけど、もしかしたらいまの日本では、福島について考えることが一番ビジネスチャンスかもしれないし、知的にもチャンスなのかもしれない。福島の未来について考えるのが一番かっこいいんだ、みたいな雰囲気を作ることが、この時代の僕たちの世代のひとつの義務かなと考えています。

津田:また、それがこれからの知識人のやるべきことじゃないかと。

東:そうですね。

津田:自分個人や福島に限られた問題ではなく、日本国民全体の、そして日本の今後を考える上での問題だという考え方を喚起したいということはよくわかります。ただ、最後に東さんにお聞きしたいのが、この計画は自腹で取材したり、研究会を開催されたりしてぶっちゃけ大変じゃないですか。もちろんそれを本にして多少は回収できるんでしょうけど、労力に比べて得られるリターンが東さん個人にはすごく少ないと思うんですが、なんでこんなことをされるんですか?

東:(笑)。いや、それは僕もよくわからないですね。ただ、福島に関してはこういうふうに思ったんです。チェルノブイリの事故のときはソ連体制下で言論統制が厳しかった [*38] 。当時の30代、40代の人間が何を考えたのか、アーティストがどういうふうに反応したのかという記録があまり残っていない。けれども福島は、これだけ豊かな国で、自由にいろいろな発言ができる成熟した近代国家で起きた事故です。だとすれば、僕たちの後の世代が何十年か後にこの時代を振り返ったとき、あのときこんなに面白いことを考えていた人たちがいたんだと、そういうふうに思われるようにすべきだと思います。逆に、そういうことを残せなかったら、僕たちは何のためにこの時代に生きていたのかということになる。

僕は今日、こうやって津田さんとお話しているのですが、個人的に、震災から1週間ほど後、あるテレビの収録で津田さんと話したときのことが忘れられないんです。あの時、津田さんは「これは僕たちの世代が試されているんだ」ということをおっしゃっていた。これは僕も完全に同感なんです。

「フクシマ」は、突然、世界史に残る地名になってしまった。50年後、100年後でもきっと世界中で記憶されている。だからこれは、決して福島県だけの問題ではなく、日本全体の問題です。そして、その事件に応えるためには、「福島から新しい未来が始まった」という状態を日本人全員で作っていかなくてはいけない。こういう大きな事件が起きて、いままで日本という豊かな国で生きてきた僕たちがどういう球を打ち返せるのかということ、それは、いまの時代にリターンにならないとしても、50年後100年後の人間が見れば絶対に評価するはずのことだと思います。

そういう意味で言うと、僕はたしかにちょっと浮世離れしているところがあって、いまの世の中で金が戻ってくるということにほとんど関心がないんですよね。ただ、このプロジェクトは比較的大きくなりつつあるので、スポンサーとかいたらいいなとは思っています。南相馬に行くことひとつ取ってもバスを借りなくてはいけないわけで、その費用とかを考えるといちいち頭が痛い。みなさんに助けて欲しいです。

津田:僕も微力ながらお力添えをしたいと思いつつ、やはり東さんって「学者」なんだなと思いました。100年先、200年先を見据えたものを考えるのが学問なんだな、と。東さんの原点というか、ルーツというか、行動原理を見たような気がしました。まだまだいろいろお話を伺いたいのですが、そろそろ時間になってしまいました。東さん、今日はお忙しいなかありがとうございました。

東:ありがとうございました。

 

《お知らせ》

福島第一原発観光地化計画では、コアメンバーの中から、東浩紀さん、社会学者の開沼博さん、僕の3名によるチェルノブイリ取材の準備を進めています。福島と同じ原発事故を起こした歴史を持つチェルノブイリが「観光地化」した背景を探り、これからの福島を考える上でのヒントを得るための取材となります。

現在、このチェルノブイリ取材の費用の一部を捻出すべく、クラウドファンディングサイトCAMPFIREで支援を募っています。ご支援いただいた方には、チェルノブイリ取材の模様をまとめた約60分のドキュメンタリーDVDなどのリターンを用意しています。このDVDは弊社の小嶋裕一が監督を務めることになっています。

フクイチ観光地化計画やチェルノブイリ取材に少しでも興味を持たれた方は、ご支援のほどよろしくお願いします! 目標金額に到達している場合でも、目標金額は取材・渡航費の一部ですので、引き続きご支援をいただけると助かります!

 

■福島からチェルノブイリへ! 津田+開沼+東が観光地化復興の実態を探るプロジェクト

http://camp-fire.jp/projects/view/617

 

▼東 浩紀(あずま・ひろき)

1971年生まれ。東京都出身。思想家・哲学者・作家。東京工業大学特任教授。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。東京大学客員助教授、国際大学GLOCOM副所長、早稲田大学教授を歴任。株式会社ゲンロン代表取締役、同社発行『思想地図β』編集長。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)など多数。

ウェブサイト:http://genron.co.jp/

ツイッターID:@hazuma

[*1] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4990524381/tsudamag-22

[*2] http://genron.co.jp/

[*3] http://fukuichikankoproject.jp/

[*4] http://genron.co.jp/shisouchizu_beta1/

http://genron.co.jp/about_shisouchizu_beta/

[*5] http://genron.co.jp/japan20/

[*6] http://www.cher9.to/jiko.html

http://www.jaero.or.jp/data/02topic/cher25/

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/Henc.html

http://www.shugiin.go.jp/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/201110cherno.htm

[*7] http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2765902/6294595

[*8] http://www.asahi.com/international/intro/TKY201212260957.html

[*9] チェルノブイリ原子力発電所事故で爆発した4号炉は、「石棺」と呼ばれるコンクリートの建造物に覆われていたが、老朽化に伴い、2012年から鋼鉄シェルターの建設が始まっている。2015年に完成予定。

http://www.47news.jp/feature/kyodo/news05/2012/04/post-5490.html

[*10] http://www.pcf.city.hiroshima.jp/virtual/VirtualMuseum_j/visit/est/build/A_dome2.html

http://www.kankou.pref.hiroshima.jp/seeplayexp/see/dome/index.html

[*11] http://masuda901.web.fc2.com/page2ayab.htm

http://sankei.jp.msn.com/life/news/111203/trd11120322250009-n1.htm

[*12] http://allabout.co.jp/gm/gc/66263/

[*13] http://fukuichikankoproject.jp/project.html

[*14] 福島第一原発観光地化計画のポータルサイトはその後予定通り公開された。計画に関する最新情報のほか、関連資料も閲覧できる。

http://fukuichikankoproject.jp

[*15] 福島県東部の沿岸地域。相馬市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村、いわき市が含まれる。

http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?NEXT_DISPLAY_ID=U000004

[*16] 1959年に黒川紀章、菊竹清訓など、若手の建築家を中心に結成されたグループとその設計・都市理論。メタボリズム(新陳代謝)という名の通り、建築や都市は有機的に変化し続けていくべきだと主張し、社会的にも大きな注目を集めた。

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/1-a74f.html

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/2-e397.html

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/3-aa5e.html

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/4-c08a.html

[*17] http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/101885.html

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201110140233.html

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/1-d8f1.html

[*18] http://genron.blogos.com/d/%BF%B7%C6%FC%CB%DC%B9%F1%B7%FB%CB%A1%A5%B2%A5%F3%A5%ED%A5%F3%C1%F0%B0%C6%C1%B4%CA%B8

[*19] http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/hiraoka/8/8.html

[*20] 東京電力が公表している「福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた中長期ロードマップ」では、廃炉措置完了の時期を30~40年後としている。

http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/conference-j.html

この中長期ロードマップをめぐっては、、茂木敏充経済産業相が「福島の復興を進めるうえでも、廃炉に向けた取り組みを加速しなければならない」として、見直す考えを示しており、6月にも改定される見通しとなっている。

http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20130307/2230_hairo.html

[*21] http://www.atmarkit.co.jp/fsmart/articles/armobile01/01.html

[*22] 教育(エデュケーション)の要素も持つ娯楽(エンターテインメント)のこと。

[*23] https://twitter.com/hazuma/status/248832581984997376

[*24] http://www.komyoji.net/node/169

http://www.shimousa.net/menu_tennou.html

http://www.asahi.com/area/nagasaki/articles/MTW20120516430530001.html

[*25] http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2013/03/0304.html

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20120518_01.htm

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20120518_02.htm

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20120518_04.htm

[*26] http://photo.sankei.jp.msn.com/panorama/data/2012/0308kesennuma01/

[*27] http://www.asahi.com/special/10005/TKY201107170308.html

[*28] 2008年5月12日に中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州ブン(さんずいに文)川県で発生した、マグニチュード7.9(アメリカ地質調査所発表)の地震。中国政府の発表で、死者約7万人、行方不明者約2万人を数える未曾有の大災害となった。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-31748220080513

[*29] http://shisensyo.seesaa.net/article/269920189.html

[*30] http://www.47news.jp/47topics/tsukuru/article/post_69.html

[*31] http://shisensyo.seesaa.net/article/269514547.html

[*32] http://kotobank.jp/word/%E6%88%90%E9%83%BD

[*33] http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/research/r120701keyword.pdf

[*34] この「内閣改造」とは、2012年10月1日の野田第3時改造内閣の発足を指す。12月の政権交代後、同役職は石原伸晃氏が務めている。

[*35] このインタビューの後、2012年12月16日に第46回衆議院議員総選挙が実施され、自民党が単独過半数(241議席)を大幅に上回る294議席を得て、政権復帰を果たした。

http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/2012/

http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/shugiin46/index.html

[*36] http://www.j-cast.com/2011/07/24101939.html?p=all

[*37] 日本原子力研究開発機構(JAEA)は、850億円を投じた廃炉の技術開発を進める研究施設の整備に着手している。

http://www.kensetsunews.com/?p=8656

[*38] 国家保安委員会(KGB)の秘密警察による監視が行われるなど、ソビエト連邦時代に言論の自由はなかった。

http://www.47news.jp/47topics/ningenmoyou/77.html

また、チェルノブイリ原発事故に情報に関しては、公表の遅れや隠避などがあった。

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-1.pdf#page=8

http://www.pressnet.or.jp/publication/view/110510_1176.html

 

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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