仮面ライダーという物語が持つ力
40代男性のアイデンティティが危機に瀕している中、僕が提案したいのは、「もう一度『仮面ライダー』を見る」ということなんです。
要するに、その人が幼い頃に見ていたヒーロー物を見返してみる。ウルトラマンや戦隊物でもいいし、最近なら『ワンピース』などのアニメでもいいでしょう。でもあえて僕が『仮面ライダー』と言ったのは、そこに今の40代男性を規定する、強力な「物語の構造」があるからです。
仮面ライダーシリーズはいまでも根強い人気があります。フォーゼ、オーズ、ウィザード……といった最近のシリーズは、カッコイイ若手俳優を使ってお母さんのハートをつかんでいる、といった評価が多いのですが、実際にこれらの最新シリーズを作っているスタッフたちは、ちゃんと石ノ森章太郎の原作プロットから全部をしっかりと検証し、「仮面ライダーとはいかなる物語なのか」ということを総括した上で制作しているそうです。
「仮面ライダー」は、それだけ強い「物語の構造」を持っている。いつの時代にも通用する力を持ったシリーズだということです。だからシリーズが変わっても、同じように訴えかける力を持っている。そして四〇代男性の多くは、それが仮面ライダーシリーズであったかどうかにはかかわらず、そうした「同じような物語」を繰り返し、繰り返し見ることによって、自らの心を成長させてきたはずなんです。
子供時代を大切にしない国
仮面ライダーをはじめとしたヒーロー物が、僕らの共通の思考パターンや、「世界をどう見るか」という基本的な認識の枠組みを形作ってきた。ところが僕らは、二〇代を経て三〇代になる頃には、そんなことをすっかり忘れてしまいます。
実はこのことが、四〇代男性のアイデンティティを不調に陥れている原因なのではないか、というのが僕の仮説です。
うがちすぎだと思われるでしょうか。しかし、「自分がどういう人間か」という「現在地」を確認するには、自分が乗ってきた「船」をもう一度、確認する必要がある。自分が居を定めた城や、自分が住む町を知るには、自分がどういう国からやってきた人間かということをもう一度確認する必要があるんです。
「来し方行く末」というものを、僕ら日本人はあまりにも軽視しすぎているのではないか、と僕は最近、強く思います。例えばアメリカ人の家には、小さい頃から順に、ちゃんと額に入れた写真が飾ってありますよね。幼稚園、小学校と、子供が成長してきた過程を常に確認するという習慣がある。
でも、僕らは子供の頃、あれだけ夢中になったマンガやゲーム、アニメを捨ててしまっている。というよりも、そうすることが「大人になること」だと勘違いしている。それは単に、自分たちの「ルーツ」である子供時代を邪険に扱っているというだけであって、「大人になる」こととは何の関係もありません。
僕らは世界の先進国の中で、もっとも子供を大切にしない国になりつつあります。それは例えば子育て支援策が充実していないといった、政策レベルの問題として指摘されていますが、僕は、それは「結果」であって、問題の本質は(自分たちの)「子供時代の軽視」にあるんじゃないんか、と思うんです。
僕らは自分たちの子供時代を大事にしなくなった。だからこそ、目の前の子供もまた、大事にできなくなった。子供が喜ぶことを大事にしない社会が、子供を大事にできるとは、僕にはとても思えないんです。
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