「ユニオンズ快進撃!」
「セリーグのダークホースはユニオンズか 」
スポーツ新聞にもユニオンズの名前が躍らぬ日はない(※1)。それまでと打って変わって、ユニオンズには新聞社やテレビ局からの取材オファーが殺到していた。もちろん、そうしたオファーをアテンドするのは裏方の仕事である。山田は久しぶりに心地よい忙しさを楽しんでいた。
そんな中、選手以上に注目を集めているのが、監督の山上だった。
他球団を自由契約になったようなベテランを集めて戦力にする手腕から〝山上再生機構〞(※2)とい うニックネームまでつけられている。
山上はその日も、午後一番で取材陣を集めてインタビューに答えていた。現役時代を思い返しても、これだけのメディアを相手に話したことは記憶にない。 「山上さん、現在までのところ、オープン戦勝率でユニオンズ第一位ですよ。早くも今年の流行語大賞は〝山上再生機構〞だって声もちらほら出てるみたいですよ」
「いやあ、まだオープン戦ですから、油断は禁物ですな」
流行語大賞と聞いて、思わず山上の表情も緩んでしまう。
「正直言うと、新戦力のベテランの中には、一癖も二癖もある選手もいると思うんですよ。そんな彼らを上手くマネジメントしてインセンティブを与えるノウハウについて教えてください」
「い、いんせんてぃぶ!?」
こういう場合のフォローは山田の務めでもある。
「ああ、つまりベテランを奮い立たせるコツってことですね。うちはご存じのとおり 『選手こそが財産だ』をモットーにやっとりますから、実績のある選手は自然と中心になって引っ張ってくれるわけです。やはり、ビジネスもスポーツも、人間が基本ですから。山上監督、そうですよね?」
「ああ、そうそう。短気は損気、石の上にも三年(※3)言いましてな......」
正直に言うと、山上は2軍コーチをちょろっとやった経験しかなく、まさかこの年になって采配を振るうことになるとは夢にも思っていなかった。
「大丈夫です。大まかな方針は我々連合で決めますから、現場で指示を出していただけるだけで構いません」
と口説き落とされて、監督を引き受けたにすぎない。
ところが、いざなってみると、意外に楽勝だったことに驚いている(※4)。そういえば、王さんにせよ星野さんにせよ、他のチームでも往年の名選手が監督として結果を出しているではないか。
「俺だってやってやれないもんでもなかろう」と、最近は変な余裕を感じていた。
※1 スポーツ新聞にもユニオンズの名前が躍らぬ日はない」/弱小球団がオープン戦に狂い咲きをすることはよくあることで、スポーツ新聞の取材記者もそんなことは重々分かった上で持ち上げる記事を書く。その目的はオープン戦の間の部数増と、シーズン中に必ずやってくる「化けの皮がはがれる瞬間」を劇的に演出することにある。なんのジャンルであれ〝期待の新人〞に取材中の記者は、同時にその新人がずっこけるシーンを想像しつつペンを走らせるものだ。
※2 再生機構/戦略外通告を受けた選手を次々に活躍させた野村克也監督の手腕はひと頃、「野村再生工場」と褒め称えられた。一方、2003年に設立された産業再生機構は、日本の産業の再生と信用秩序の維持を図るため、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者に対し、事業の再生を支援することを目的として設立された。2007年に 清算されるまでに再生支援を行った事業者は計41社に登る。「有用な経営資源があっても様々なしがらみのせいで活かせない」というのは雇用についても同様で、産業再生機構だった冨山和彦氏は度々「雇用に対する企業の負担軽減」について言及している。
※3 石の上にも三年/目的のある人間はそのためには我慢も忍耐も必要だという意味であり、3年間の思考停止を勧めているわけではない。
※4 意外に楽勝/年功序列でポストが回ってくるシステムである以上、日本型雇用を行う企業における役職は、その人の能 力の高低に関わらずある程度は務まるように設計されている。「ここの業務は未経験ですが、一から覚えていきたいと思います」という新任管理職の挨拶は誰でも聞いたことがあるだろう。

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