身体を変える「ソワソワ」の感覚
そうして参加したのが冒頭に述べた稽古会である。期待通りというか、期待以上というか、この稽古会では前代未聞の動きを体験することになった。
DVD『甲野善紀 技と術理2014 内観からの展開』より
先生は左右へのステップが得意な僕をいとも簡単に翻弄した。また、ぶつかられて見事なまでに宙に浮かされたりもした。先生の身体は柔らかで、技を受けた感じが奇妙で、弾くのではなくまとわりついてくるような感じがとても不思議だった。「狐につままれたような」印象を引きずったまま、その日は帰路に就いたのである(今から思えばまさにこのとき僕は身体運用に関する「パンドラの箱」を開けてしまったのだろう)。
DVD『甲野善紀 技と術理2014 内観からの展開』より
スポーツ科学ではとかく筋肉を重視する。動力源としての筋肉を鍛え上げればパフォーマンスは自然と高まる。ここまでシンプルではないにしても、パフォーマンスを向上させるためには、まずは筋力ありきであるという考え方が主流にある。
しかし甲野先生はこれをきっぱりと退ける。「捻らない、踏ん張らない」という身体の使い方は筋力に頼った動きをそのパフォーマンスにおいて軽々と凌駕する。このDVDには、そのしなやかな甲野先生の動きが余すところなく詰まっている。繰り広げられる様々な術をみれば思わず笑みがこぼれるほど胸が躍るに違いない。
今回の映像の中で特筆すべきは「内観」についての語りである。「内観」とは、本来、「自分の内側を見つめて変える一種の精神集中」を意味するが、甲野先生にとってはややニュアンスが異なる。「身体感覚の中のひとつの世界」を意味しているというのだ。精神ではなく身体感覚の中で繰り広げるものとして「内観」がある。そう訥々と語る姿に、僕は心身二元論の超越を感じざるを得なかった。
そう簡単に理解できないのだけれどもなんだかソワソワする。先生の言葉や動きはいつも僕にこのような感懐を抱かせる。今回もそうだ。この「ソワソワ」こそ、身体そのものが変化し始めるきっかけとなるもので、これまでに感じた数々の「ソワソワ」が今の僕の身体をかたち作っているといっても過言ではない。
中には武術にあまり興味がないという人もいるだろう。そんな人は芸術に触れるつもりで見ればいい。美しい絵をみるように、美しい音楽を聴くように、自由自在に動く甲野先生の身体を見るだけで、その胸中には何かが芽生えるはずだからだ。美しいものはかくも心を伝うものなのかと驚かずにはいられないだろう。
そして映像を観ただけではわからず「ほんまかいな」という疑問を感じたかつての僕のような方は、一度、稽古会に足を運んでみたらいい。胸中に芽生えたそのなにかが甲野先生の直の身体に触れることで大爆発を起こし、これまで思ってもみなかった世界に引きずり込まれること、間違いなしである。
甲野善紀氏最新DVD発売中!
一つの動きに、二つの自分がいる。
技のすべてに内観が伴って来た……!!
武術研究者・甲野善紀の
新たな技と術理の世界!!
武術研究家・甲野善紀の最新の技と術理を追う人気シリーズ「甲野善紀 技と術理」の最新DVD『甲野善紀 技と術理2014――内観からの展開』。
特設販売サイトでサンプル動画を含めた詳細を参照いただけます!
その他の記事
台湾から感じるグローバルな時代の小国の力(高城剛) | |
フィンテックとしての仮想通貨とイノベーションをどう培い社会を良くしていくべきか(やまもといちろう) | |
まだ春には遠いニュージーランドでスマホ開発の終焉とドローンのこれからを考える(高城剛) | |
最近ハゲ関連が熱い、あるいは新潟日報と報道の問題について(やまもといちろう) | |
人生に一発逆転はない–心の洗濯のススメ(名越康文) | |
「有休を使い切ったうえで生理休暇って、アリなんでしょうか?」(城繁幸) | |
在宅中なのに不在票? 今、宅配業者が抱える問題(小寺信良) | |
アマチュア宇宙ロケット開発レポート in コペンハーゲン<前編>(川端裕人) | |
失ってしまった日本ならではの自然観(高城剛) | |
石田衣良がおすすめする一冊 『ナイルパーチの女子会』柚木麻子(石田衣良) | |
役の中に「人生」がある 俳優・石橋保さん(映画『カスリコ』主演)に訊く(切通理作) | |
組織変革とは、まず自分が変わろうとすること(やまもといちろう) | |
沖縄の地名に見る「東西南北」の不思議(高城剛) | |
アーユルヴェーダを築いた修行者たちを偲ぶ(高城剛) | |
「USB-C+USB PD」の未来を「巨大モバイルバッテリー」から夢想する(西田宗千佳) |