DVD『甲野善紀 技と術理2014 内観からの展開』評

美しいものはかくも心を伝うものなのか

身体を変える「ソワソワ」の感覚

そうして参加したのが冒頭に述べた稽古会である。期待通りというか、期待以上というか、この稽古会では前代未聞の動きを体験することになった。

 

capt05part1tuck

DVD『甲野善紀 技と術理2014 内観からの展開』より

 

先生は左右へのステップが得意な僕をいとも簡単に翻弄した。また、ぶつかられて見事なまでに宙に浮かされたりもした。先生の身体は柔らかで、技を受けた感じが奇妙で、弾くのではなくまとわりついてくるような感じがとても不思議だった。「狐につままれたような」印象を引きずったまま、その日は帰路に就いたのである(今から思えばまさにこのとき僕は身体運用に関する「パンドラの箱」を開けてしまったのだろう)。

 

capt08part2tsuki

DVD『甲野善紀 技と術理2014 内観からの展開』より

 

スポーツ科学ではとかく筋肉を重視する。動力源としての筋肉を鍛え上げればパフォーマンスは自然と高まる。ここまでシンプルではないにしても、パフォーマンスを向上させるためには、まずは筋力ありきであるという考え方が主流にある。

しかし甲野先生はこれをきっぱりと退ける。「捻らない、踏ん張らない」という身体の使い方は筋力に頼った動きをそのパフォーマンスにおいて軽々と凌駕する。このDVDには、そのしなやかな甲野先生の動きが余すところなく詰まっている。繰り広げられる様々な術をみれば思わず笑みがこぼれるほど胸が躍るに違いない。

今回の映像の中で特筆すべきは「内観」についての語りである。「内観」とは、本来、「自分の内側を見つめて変える一種の精神集中」を意味するが、甲野先生にとってはややニュアンスが異なる。「身体感覚の中のひとつの世界」を意味しているというのだ。精神ではなく身体感覚の中で繰り広げるものとして「内観」がある。そう訥々と語る姿に、僕は心身二元論の超越を感じざるを得なかった。

そう簡単に理解できないのだけれどもなんだかソワソワする。先生の言葉や動きはいつも僕にこのような感懐を抱かせる。今回もそうだ。この「ソワソワ」こそ、身体そのものが変化し始めるきっかけとなるもので、これまでに感じた数々の「ソワソワ」が今の僕の身体をかたち作っているといっても過言ではない。

中には武術にあまり興味がないという人もいるだろう。そんな人は芸術に触れるつもりで見ればいい。美しい絵をみるように、美しい音楽を聴くように、自由自在に動く甲野先生の身体を見るだけで、その胸中には何かが芽生えるはずだからだ。美しいものはかくも心を伝うものなのかと驚かずにはいられないだろう。

そして映像を観ただけではわからず「ほんまかいな」という疑問を感じたかつての僕のような方は、一度、稽古会に足を運んでみたらいい。胸中に芽生えたそのなにかが甲野先生の直の身体に触れることで大爆発を起こし、これまで思ってもみなかった世界に引きずり込まれること、間違いなしである。

 

甲野善紀氏最新DVD発売中!

kono_jacket『甲野善紀 技と術理2014――内観からの展開』

一つの動きに、二つの自分がいる。
技のすべてに内観が伴って来た……!!
武術研究者・甲野善紀の
新たな技と術理の世界!!
武術研究家・甲野善紀の最新の技と術理を追う人気シリーズ「甲野善紀 技と術理」の最新DVD『甲野善紀 技と術理2014――内観からの展開』。

特設販売サイトでサンプル動画を含めた詳細を参照いただけます!

 

 

1 2

その他の記事

39歳の私が「人生の復路」に備えて考えた3つのこと(編集のトリーさん)
どうせ死ぬのになぜ生きるのか?(名越康文)
“コタツ記事”を造語した本人が考える現代のコタツ記事(本田雅一)
「まだ統一教会で消耗しているの?」とは揶揄できない現実的な各種事情(やまもといちろう)
住んでいるだけでワクワクする街の見つけ方(石田衣良)
トランプさん滅茶苦茶やりすぎた結果が出始めるのではないかという恐怖(やまもといちろう)
がん治療・予防に「魔法の杖」はない?–「転ばぬ先の杖」としての地味な養生の大切さ(若林理砂)
Amazon(アマゾン)が踏み込む「協力金という名の取引税」という独禁領域の蹉跌(やまもといちろう)
ビジネスマンのための時間の心理学――できる人は時間を「伸び縮み」させている(名越康文)
公共放送ワーキンググループがNHKの在り方を巡りしょうもない議論をしている件(やまもといちろう)
終わらない「大学生の奨学金論争」と疲弊する学びの現場(やまもといちろう)
児島ジーンズ・ストリートを歩いて考えたこと(高城剛)
4月4日自民党党内処分云々の是非と今後(やまもといちろう)
能力がない人ほど「忙しく」なる時代(岩崎夏海)
日本の第二の都市の座も遥か昔の話し(高城剛)

ページのトップへ