互いに変え、変えられていく関係性
そもそもなぜ、道具との関係に「情」が生じるのでしょうか。最初に述べたように、僕らが道具を大切にするのは「役に立つ」からです。でも、「役に立つ」だけなら、愛着なんて本当は必要ないですよね。本当に「役に立つ」ということだけを考えるなら、役に立たなくなれば新しいものに替えればいい。
でも、実際には「ほかのものではダメ」というふうに、ひとつの道具に愛着を持つのが、人間と道具の一般的な関係なんです。
なぜ道具に愛着がわくかといえば、ひとつには、道具を人間に合わせて変える、すなわち加工、カスタマイズすることがあります。例えば包丁などに、握りやすいように滑り止めを巻いたりすると、手になじんで手放せなくなる。車やバイクも、乗っているうちに、その人の運転に車体やエンジンがなじんでくるわけです。
でも、それよりもむしろ大きなことは、道具を使うなかで、自分の身体、あるいは精神のありようそのものが、道具に同調するように変わっていくということだと思うんです。
僕らは道具を使う主体であると同時に、道具によって変えられてしまう存在でもある。道具への愛着というのは、そういう「変え」「変えられる」プロセスのなかで生じてくるんだと思うんです。道具と人間が互いに歩み寄る、そのプロセスの中で「互いに離れられない」という愛着が生じてくるということですね。
そして、このプロセスをつぶさに見ていけば、人間同士の間で「友情」が芽生えるときと、僕はほとんど変わらないんじゃないかと思うんです。どちらかがどちらかを支配するのではなく、互いに影響を与え合う関係は、本当の意味で切っても切れない関係性に育っていきますから。
もし本当の意味での「友情」というものがあるとすれば、職人が愛用する道具に対して抱くような愛着のような領域にこそ、本質があるのだと僕は思うんです。
「道具として友人を使う」ための条件
友人を道具に例えると、必ず批判する人がいると書きました。道具というのは役に立つから使うもので、役に立たなくなったら捨てるものだ。お前は友人をそういうふうに扱うのか、と。
おっしゃるとおり、「道具として使う」ということには、そういう自己中心性が伴います。でも、だからこそ、その自己中心性を認めるところからスタートしたほうがいいと僕は考えます。自分の中にあるエゴを隠していることによって、友人との関係性がおかしくなってしまうことはしばしばあるから。
まずは、道具として友人を捉えてみる。そうやって友人を「道具」として使って、使って、大切に使い続けるうちに、その友人との間には、切っても切れないような関係性が生まれてくる。
逆に言えば「道具だから」といって、友人を自分勝手に酷使するような人は、継続的な人間関係を作れないわけです。職人が道具を大切にするように、友人を道具として丁寧に使う人のところにだけ、本当の意味での「友情」が生まれてくる。
友人を存分に「使う」には、友人の持つ力を引き出す必要があります。そのためにはその人自身が人間として明るさを持っている必要があるし、過不足ない配慮が必要です。それがあってはじめて、高度なレベルで互いを利用し合う、ということができるようになる。
そういう意味では、先に述べた、友達であることを確認し合う“友情強迫症”の増加は、大量生産・大量消費の時代とすごく連動している、と見ることも可能かもしれません。
つまり、世の中に物資が乏しく、ひとつの道具を長く使っていた時代においては、道具と人間が互いに陥入し合うような関係性を作っていた。そういう時代には、「友情」はいわば当たり前のことで、問題にもならなかった。
道具(すら)消費するような大量消費時代になったからこそ、僕らは「友達」も使い捨てる危惧が出てきた。そういう順序ではないかと思うんです。
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