一事が万事か?
では2について検討してみる。重大犯罪をきっかけに携帯の所持を規制するといった考え方は、正しいのだろうか。今回の事件は無事保護されたので、深刻な問題とはなっていない。したがって例として取り上げやすいのは、不幸中の幸いである。
言うまでもなく、この事件をきっかけに携帯を規制するという考え方は、的外れである。まず事件の因果関係と携帯は、無関係であるからだ。そもそも事件の時系列を辿ってみてもわかるように、この事件はまず不審者情報が先にある。携帯があってもなくても、起こった事件であった。
たったひとつの事象を捉えて、全体のあり方を批判するという方法論は、まだ情報が十分ではなかった時代のやり方だ。言い換えれば、全体像がよくわからないから、ひとつのことを取り上げ、これが全体に当てはまるのではないかと推測する。あくまでも、カンの世界である。
だがそれを実行するには当然リスクがあり、そう簡単には実行に移らない。だからその世代に生きてきた人たちは、「言うだけ言ってみる」という行動を取りたがる。自分の策が当たったらもうけもので、それ見たことかと言うことができる。言ってなければ、自慢もできない。
年配者が子供の携帯所持を規制したがる原因は、ほかにある。それは、携帯電話、もっというとネットを使ったコミュニケーションは、自分の理解の範疇を超えているからだ。しょせんは友だちごっこだろ、やめてしまえ、というのは、今の子供達にとっては酷な選択であることが理解できない。実はその講演では、その点を時間をかけて説明したつもりなのだが、オマエ1時間も何聞いてましたかと思わず言いそうになった。
もうひとつの誤りは、原因と想定されるものを取り上げれば解決すると考えていることである。コミュニケーション依存は、子供社会の構造が後押ししている。したがって、ひとつの問題の出口を塞いでも、それはまた別の出口から噴出するだけである。
大半の年配者は、ネットでのコミュニケーションを必要としない世界で生きている。リアルのコミュニケーションが中心で、通信機器は多少それを便利にする程度のものでしかない。それは、昔はなくても平気だったものだ。したがってそれを排除してしまえば、子供社会も古きよき時代が復活すると考えている。因果関係の理解が、逆なのだ。
実際は、まず大人社会がバブル崩壊によって経済成長が停滞し、社会全体に閉塞感が生まれた結果、子供社会に影を落とした。その歪みが、他者への手厚いコミュニケーションとして噴出しているというのが、社会学的な解釈である。つまり社会の構造変化はすでに起こってしまっており、携帯を取り上げたぐらいで元に戻るようなものではないのである。
今の社会では、一事が万事のような考え方は、合理性を失っている。十分に情報があり、収集手段もある。多くの人の個人的な論考も探せるようになったため、相対的にノイズも増えているが、ボリュームがでかいということは、同時に情報の層の厚みも産みだしている。
たったひとつの事例を錦の御旗に強行突破しようとする論陣に対しては、多面的なデータによる反論が有効だ。ただ、膨大なデータをすべて正確に頭に入れておくことはできないので、どうしてもリアルの議論の場では不利になる。
これからは、年齢層を広くまたいだ議論の進行の仕方も、今の社会のありように合わせて変化させていく必要がある。たとえば多くのシンポジウムで行なわれるパネルディスカッションでは、リアルタイムの議論であるため、事前に準備していなければ、その場でデータを拾い出してくる時間はない。したがって予定調和的になるか、破綻して収集がつかなくなるかのいずれかである。
むろんたいていはみな大人なので、コーディネーターに協力してくれるわけだが、来場者の中でわざわざ手を上げて意見を言うタイプの人は、単に文句が言いたい人であるケースが多い。特に議論に付いて行けなかった人は、内容に関係なく自分の論をぶちまける傾向があるので、やっかいだ。
こういう人をどうあしらっていくかもひとつの勉強だし、世代が違う、情報リテラシーが全然違うという人たちにもわかってもらえるようなデータの出し方というのも、ひとつの研究テーマとなり得るだろう。
※この記事は小寺信良のメールマガジン「金曜ランチボックス」2014年8月1日 Vol.130 「コラム:現象試考 情報リテラシーの断層を垣間見る」に掲載された記事を編集・再録したものです。
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