宇野常寛メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」より

トランスフォーマー:ロストエイジを生き延びた、日本ものづくりを継ぐ者 ――デザイナー・大西裕弥インタビュー

ダミーパーツを使わないということーー機能と表層を一致させる美学

大西 最初にトランスフォーマーに関わったときは僕も「一体どうやるんだ!?」と思いましたね(笑)。

配属されて最初に作ったのが、飛行機から変形するこの「スタースクリーム」です。非常に苦労したのですが、一週間で全部考えてやりました。

▲「スタースクリーム」。基地遊びを中心にした「メトロマスター」というカテゴリの小型商品。

考えてみれば、この作品からドリフトまで、ダミーパーツを極力使わないという点は僕がデザインをやる上で一貫しているかもしれないですね。スタースクリームは、ロボットに変形したときに胸部に飛行機の機首が来ているという特徴的なデザインのキャラクターなんです。本当は、機首を後ろに倒してしまって、飛行機のときは見えないロボットの胸部に最初からダミーの機首をつけておいた方がデザインをする上では楽なんです。でもどうしてもダミーパーツを使いたくなくて、この小さいサイズでもちゃんと本来の機首が胸に来るようにこだわりました。

▲こだわりの機首の変形。

――大西さんがダミーパーツを極力排そうとしているのはなぜなのでしょうか。

大西 近年のトランスフォーマーは、デザインも変形プロセスも複雑化してしまったために、ダミーパーツを多用せざるを得ない時期がありました。ですが、そもそもトランスフォーマーは工業製品ではなくあくまでおもちゃなので、「子どもたちに遊んでもらいやすい」ということが重要なはずだと思ったんです。

例えば同じ車でも、どういったプロセスでロボットになるかは一体一体違う。「どう変形させればロボットになるのか」というヒントがあるからこそ、子どもたちは想像力を働かせることができます。ロボットの完成形を見たときに印象的な部分をダミーパーツにしてしまうと、そういった想像力を働かせる回路が機能しなくなってしまう。それではおもちゃとして面白くないんじゃないかと思ったんです。

宇野 ダミーパーツを使うというのは、変形前と変形後が両方かっこよければそれでいい、という思想ですよね。変形はあくまで手段でしかない。ひとつのアイテムでふたつの形が楽しめればそれでいい、という考え方です。でも本来のトランスフォーマーというのは、変形することそれ自体が目的だという美学があるので、本当ならダミーパーツはないほうがいいわけですよね。

 

「プロダクトとしての『モノ』そのものの使いやすさを追求したい」(大西さん)

――ファンの目線から言うと、トランスフォーマーはハリウッド映画になったときに、ひとつ大きな転機があったと思うんです。2007年にマイケル・ベイ監督の映画が公開されたとき、実際に走っている車がロボットに変形する衝撃的な映像が全世界に発信された。でもその表現は、いわゆる二次元の嘘というか、超絶CGであり得ない場所からパーツがニョキニョキ生えてくるものだった。にも関わらず、全世界の観客はそこにリアリティを感じて熱狂したんです。それがなぜかと言えば、ひとつの連続したプロセスで無理なく車からロボットになるという独自の美学を持った、手に取れるおもちゃがあったからですよね。

大西 トランスフォーマーの美学というのももちろんなのですが、これはプロダクトのデザイナーとしてのこだわりでもあるんです。僕は「もの」そのものが使いやすい、快適であるということをすごく大切にしています。例えばこれは、まだ発売前の商品なのですが……。

――こ、これは「ブレインストーム」ですね!

▲「ブレインストーム」。アメリカでは2014年末、日本では来年初頭発売予定。

大西 はい。これは小さなロボットが大きなロボットの頭部になって合体する「ヘッドマスター」というカテゴリの商品です。80年代にあったおもちゃを、現代の技術でリメイクしたものですね。これはプロダクトデザインの要素をたくさん詰め込んでいます。

例えば、昔はただ頭部を無理矢理つけたり外したりするだけだったのですが、きちんとロックを用意して、スムーズな着脱を可能にしています。しかも小さいロボットが、大きいロボットが変形したあとの飛行機に乗れるんです。先日のイベントで発表させていただいてから、インターネットでは「このサイズだから乗せるのは無理だろう」と言われていましたが(笑)……もちろん乗れるように作りました!

ヘッドマスターのキャラクターである以上、飛行機にコックピットがあるんだったら、そこに小さいロボットが乗れないと絶対にまずいと思ったんです。他にも、変形をシンプルに保つことや、製造工程の都合で穴が空いてしまう肉抜きを見えないようにするなど、プラ重量やコストなどの制限と戦いながら、手に取ったときの触り心地を最大限快適なものにするべくこだわってデザインしています。

▲本体が変形した飛行機のコックピットに、小さいロボットが搭乗している。

宇野 ダミーパーツを使わないこと、あるいはヘッドマスターが実際にボディの変形した飛行機に乗れること。変形機能とカッコよさを両立したトランスフォーマーを作るということは、言い換えれば機能と表層を一体にしていくということだと思います。モノが持っている仕組みとそのイメージを表現する外見が一致している。単に機能を象徴する外見が選ばれているというレベルではなく、本当に一体化しているわけです。これはどういうことかというと、トランスフォーマーは、本当に変形できるということそのものが最大のメッセージになっているということですよね。かっこいい車からかっこいいロボットになって、しかもその両方に無駄がないということが、モノに対する最大の思想の実現でもある。

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